111.終わり良ければ総て良し
その日の訓練はコッコが怒ってしまったので、そこで終了。
コッコ3羽の内、怒ったコッコはぴよ太郎。オス3羽で一番初めに生まれたお兄さんコッコだ。
次に産まれたのがひよ次郎、ぴよ三郎と続く。
訓練を受けていた子供たちは、途中で中止になったことに文句を言うが、そんなこと知ったことか。
マリーも態々コッコを宥めたりしなかった。そればかりか、悪だくみのように話を持ち掛けた。
「ねえ、太郎。ぎゃふんと言わせたくない?」
『マリー姉さん、いいんですか?』
「いいの、いいの。あなた達の凄さが分かってなさ過ぎだから。まあ、過保護に育ったせいだと思うけど」
『姉さんがそれいいます?』
「あはは・・・」
ぴよちゃんの子供たちの姉さん呼びと、誤魔化したい心が漏れて乾いた笑いが出る。
違和感半端ない。
「まあ、多少責任を感じてだね。森の怖さやコッコたちの凄さを知っておかないと、正しい判断が出来ないでしょ?あの村に居たら、病気も怪我も殆どないし。箱入りのまま外に出たら、すぐに潰れちゃう」
父さんが保護者達と話した結果、保護者同伴で森の中へ入る事に決定した。
親たちも子供たちの経験不足を憂いていたのだ。
少し前まで森の入口でさえ危険に溢れていた。だから川を渡ることは禁止されていたし、少しずつ訓練して魔物との戦い方を学んだ。
今では森の中腹までは散歩道と言っていいほど、魔物は出ない。もちろん野生の動物が出るので危険はあるが、即死の危機はほぼないのだ。
その為訓練は出来ても、実地が出ないでいた。
だからこそ身体能力が上がっている子供たちは、自分たちが危険にさらされるということが想像できない。
良いことなのだが、外で生きていくには厳しい。
手練れの者たちと一緒に狩りをするには、いい勉強になるだろう。
ということで、次の日早速森の中に入る編成が組まれた。
元々狩人をしていたおじちゃんたち3人と、父さん、母さん、長とシャンスにコッコたち3羽。
あたし?
エディと一緒に研修組に入ってるよ。
極力摩擦を避けた方がいいしね。
やってきました森の中腹。
魔物との境界線ギリギリの場所だ。
ここでまず動物を狩る練習からスタートした。
うさぎから始まり、イノシシ、鹿と大物に変わっていく。
それらに対しては慌てることなく対処が出来、何の問題なく倒せていた。
「まずまずだな」
そんな親たちの評価が気に入らないのか、奥へ行こうと言い出す子が出てきた。
まあ、想定内だね。
長やシャンスを見ても問題なさそうだし、行ってみたらいいんじゃない?と思う。
ただ、そうなると長とシャンスは気配を消して、じっとして貰っておかないといけない。
殺気や見たもので逃げる動物と違い、魔物は魔力を持っている。その為絶対的強者であるフェンリルの桁違いの魔力を察知してしまえば、目の前に現れることはない。
安全なのだが、今回みたいな場合はそれが問題点となってしまう。
贅沢な悩みである。
コッコの乗っていけば良いということで、境界線の50m以内での行動開始となった。
「何もいないし」
イヤイヤ、気配探れよ。魔物、こっちを遠巻きにして窺ってるし。
父さんもおじさんたちもそれに対し、大きな息を吐く。
「森の気配を感じろ!そう教えただろ」
魔物を刺激しないように、その子の父親は小声で注意する。
「分かってるよ!」
先ほどよりも大きくなった声が、森の静けさに響いた。
それが合図となり、牛ほどに大きなウルフたちが現れた。
大人たちはすぐに構え、自分の武器で迎え撃つ。
エディは矢に魔力を乗せて、あたしは風の魔力を叩きつけた。
大人たちは安定した動きで、あっというまに倒していく。
あたしもエディも一匹ずつ確実に仕留めていた。
気になってコッコの上の子供たちを見ると、怯えながらも矢を射たり魔力で応戦したりしていたが、闇雲すぎてあまり当たらず、致命的な傷になっていなかった。
そこなら安全なのだから、確実に連携して1匹ずつ仕留めて。
そう声に何度も出しそうになったが、父さんに止められて必死に黙っている。
これも経験なんだそうだ。
見守るって大変なことなんだと、改めて思った。
お節介婆になるのも、駄目だね。
『小僧ども、何を怖気づいてる!』
太郎がウルフの突進を軽やかに流しながら、子供たちが矢や魔法を打ちやすい位置に移動している。
次郎、三郎も上に子供たちに発破をかけている。
だけど飛び掛かってくるウルフの敵意を間近に感じ、怖気づいてしまった子たちは、それどころではなかった。
数が少し多くなったところで、コッコたちが動いた。
『どりゃー、ウルフ如きが我に勝てると?』
『姉さんの前だからって、お前ばかり目立つな!』
『兄さんたち、僕がやっつけちゃうもんね』
上に子供を乗せたまま、コッコ三兄弟はウルフの群れに突撃した。
おお!流石Bランクのコッコ。
Dランクのウルフが群れ、総合でCランクになっても、圧倒的な強さだね!
シャンスが戦いたくてうずうずしているのを必死で止めて、コッコたちの見せ場を作っておく。
嘴でつつけば腹に穴が開き一撃で倒れ、羽で風を起こせばウルフの首が飛ぶ。
30匹以上はいたウルフも、あっという間に残り数頭。
すぐに撤退に向けて森へ走ろうとしている。
そこにコッコから激励がでる!
コッコ―――――――ッコ!(今だ、行け!)
「みんな!今だって!」
茫然としていた子達もいたが、エディが気合入れて剣で向かって行き始めたのをキッカケに、攻撃を再開し始めた。
こうなると大人たちの役割は、ウルフの囲い込みだ。
逃げ場がないように、子達が攻撃しやすいように威嚇行動に出る。
1匹倒すたびに、子供たちから歓声が上がる。
徐々に自信を取り戻し、確実に仕留めていった。
最後の1匹が倒れ気を抜こうとする子供たちに、大人たちは喝を入れる。
「気を抜くな!血の匂いに誘われて他の魔物が来る。急げ!毛皮が使えそうなものは解体だ。難しい物は魔石だけ取れ」
その言葉に皆動き始める。
大人たちが見張りをしている間に、必死で解体に臨む。
あたしとエディは解体が終わったウルフを入れる穴を、あちらこちらに開けていた。
準備OK!
解体が終ったものや、素材にならないものを穴に運ぶ。子供たちだけでは牛ほどのウルフを穴に入れるのも大変な為、コッコとの共同作業となった。
皆、中々いい笑顔だ。
中にはコッコにスリスリする者もいて、やるな。と感心している。
コッコの胸毛と背中のモフは、中々いい。
それを楽しむとは、中々見どころがあるよ!
同士よ!
その子にサムズアップしておいた。
こうしてバタつきながらも、第一回研修狩りは終わった。
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予告通り、暫くお休みいたします。




