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107.商人と駆け引き

ある程度お腹がいっぱいになって、我に返ったのだろう。

商人のマーティンは、ハッとした顔で、恐る恐る話を切り出した。


「美味しく頂きました。タレも種類が多く、飽きることなく幾らでも食べられます」

「それは良かった。肉はこの村の名物になると思ってます」

「そうでしょうとも。今や王都でも中々食べられません」


その言葉に他の皆もハッとしたのか、空けた皿を見た。


「この定食はお幾らぐらいでしょうか?先に料金を聞かずに食すなど、商人としてあり得ない暴挙です。

大銀貨5枚、いや小金貨を出しても、王都でも食べられるかどうか」


食欲にそそられ、そのまま口にしたことを恥じているのか、マーティンは矢継ぎ早に金額を求めた。


そういえば、金額は考えていなかった。そんな話が出た時に、周りの基準の料金が分からないという話をしていたのだ。だからそれも含めて町にでも行ってみようという話が出ていたのだが。

村長である父さんは、なんて答えるだろうか。


「定食の金額は大銀貨1枚で、お肉のお代わりが小銀貨8枚、スープのお代わりが小銀貨3枚、おにぎりが小銀貨1枚です。ちなみに酒は1杯大銀貨1枚です」


「え、酒も?!そんなに安くて大丈夫ですか?正直今のご時世、そんな値段で釣り合っているように思えないのですが」

護衛たちも含めて、皆頷いた。


「そうですね。世間で言えば、そうでしょう。でもここは精霊村。精霊様のご加護があり、清廉であれば誰もが飢えることのない村なのです。この村に辿り着いたあなた方だからこその値段です」


「え、我々だから?」

「ええ、ここに悪意がある者は辿り着かないのですよ。今ここにいるということは、あなた方は善良な人たちと言う事です。ですから、お腹いっぱい食べてください」


うんうん。食べることは大事だよね!

この村に来たからこその特権として食べてもらったらいいよ。なにせそのお肉、普通の冒険者では倒すことのできない、Aランクの牛の魔物だからね!多分貴族でもなかなか食べられないものだと思う。

金額にすれば、多分マーティンさんが言ってた値段の何倍もするんじゃないかな?

魔力たっぷり含んだそのお肉は、めったに食べない精霊ですら食べるという逸品だからね。


「ちなみにこのお肉なんの魔物ですか?臭みもないし、癖もなく、ほとんど噛むことなく蕩けるような味わい。タレも美味しいですけど、それで誤魔化しているような肉ではないですよね?」


「ああ・・・。まあ、そうでしょうね。まず、王都でも滅多に目にすることが出来ない奴ですから」

「ちなみに、何か教えて頂いても?」

「暴れ牛ですかね」

「「暴れ牛?!」」


あ、皆固まった。

狂牛(S)>暴れ牛(A)>驚牛(C)>モーモー(D)


モーモーは怒らなければ飼育も可能な牛の魔物で、一般的にはこれが良く食べられているらしい。

ここでは驚き牛より下は食べたことない。というか、この辺りにはいないから必然的に食べたことないから、比べようがない。


この森が浄化され時間が経ったことで、浅いところでは動物しかいなくなった。その分奥に行けば行くほど、魔物の強さは必然と強くなる。結果森の奥にはBランク以下の魔物がいないという結果になった。


その分安全性には力を入れている。

長とシャンスと父さんたち狩人により、森の中はしっかりと魔物がいる森と、動物しかいない森の線引がされた。だから成人した者は皆、安全に狩りが出来るようになっている。


「そんな貴重な物を食べさせて頂いたなんて。いえ、そうではなくて!!それがこの値段とかあり得ません!!」


おお!熱血商人だ。市場へ流すことを考えたら、この値段は確かにあり得ない値段だと思う。だけど、ここにたどり着いた商人というのは、とても貴重なわけで。

色んな意味を含めた、歓迎の意味が込められている


勿論、村の人たちも貴重なことは知っていて、普段は皆が狩った鹿や猪と言った普通のものを食べている。

誰にも言っていないだけで、実は3年前のスタンピードの時に狩ったものが、まだ長とシャンスのアイテムボックスに大量にあるというのは、内緒だ。


「ええ、ですから。この村限定です」

「え、あの、どういう意味ですか?」


「あ、すみません。名乗るのが遅くなりました。私マーティンの補佐アリベルトと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。先ほど申した通り、外に出すつもりはありません。皆さんにお肉を買って頂くとしたら、普通の動物を狩ったものにさせて頂くつもりです」


「なるほど。では、売って頂けるだけの量はあるのですね?」

「ええ、ありますよ。食料が不足しているというのは、聞いておりますから」


「ああ、そういうことですか」

「ええ、そういうことです」


ああ、笑顔の応酬が続いている。

実に楽しそうだ。

あの中に混じって、やり取りしたら楽しそうだよね。

あの雰囲気はを見ると、二十代の頃営業していた記憶が疼くよ。

ワクワク。


「どういうことだ?」

「さっぱりわかんねぇ」


護衛は言っている意味が読めなくて、首を傾げる。

大丈夫!

無理難題は、言わない。

護衛の人たちにもしっかりと英気を養って貰い、この村の為に働いて貰いたいだけだ。


頑張ってね。

――なんて見ていると、他にもこのやりとりを見ている者がいることに気が付いた。

気配を消して樹の上に登っているけれど、探ったらそれなりの人数がいる。

街から人が来たというのは、この村ではまさしく一大イベント。

見逃したくないに決まっている。


だけど、ちょっとだけ不安もある。

これをキッカケに、この村は大きく変わっていくと思う。外へ出ていく人も出てくるかもしれない。

それでも、外のことを知りたいと思う気持ちは止められないし、将来をは無数にあるのだということを、皆知る権利はある。


あたしだって、この村でまったりとスローライフしたいと今でも思っている。

だけど、他の場所も見てみたいという好奇心も同時に湧いてきている。

妖精族のような出会いがあるのなら、世界を知りたいと思うのだ。



読んで頂き、ありがとうございました。

誤字脱字報告、助かりました!


ブックマークもありがとうございます。



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