106.ジャーララント王国の商人
楽しかった歓迎会。
子供らしく寝落ちするほどに、その場は盛り上がっていた。
そして、いつの間にかベッドで寝ていたあたしに声が響く。
『もうすぐ、やってくるよ』
なんで・・・。
ああ、甘酒を飲んだからか。
第六感の声は、甘酒を飲んだからと言って、いつも聞こえるわけじゃない。
だけど、今聞こえるということに意味があるのだろう。
最近は神託に近いと感じる時がある。どっちにしても声が聞こえた以上決定事項で、こちらに向かってきているのだろう。
どうせなら、もっと詳しく教えてくれたらいいのに。
まあ、やってくるとは思ってたし、あの商人を助けた時に覚悟はしていた。
ただ商人として買い付けに来るだけで、どこぞの偉い人がくっついてきているとか、面倒なことになってなければいい。
普通に取引するには、なんの問題ないのだから大丈夫!
と言いたいのだけど、『直感』がそうじゃないと伝えてくる。
父さんに即、相談だね。
そう、あれは今から半年前。
それなりに大きな商会を営んでいるという商人、マーティンさんがこの村に食べ物を求めてやってきた。
なんでもここから西にある、ジャーララント王国のブレイロットという街の所属で、そこからやってきたのだとか。
簡単に地形を説明するのに、精霊の森を真ん中に考えると、
東にアルバンティス王国。
北にマグナミンスター教国。
西にジャーララント王国。
南は精霊の森で覆われて、何もないと言われている。
ということは、精霊村はこの大陸の最南端にあるというわけだ。
話を戻すと、
ブレイロットでも食糧難が続き、街でも食べるものに困る人が出てきた。
村々を訪ね歩き少しでも買い取れる麦や食料がないか、腕利きの冒険者と共に旅に出てきたと言っていた。その決断をしたのが、カランキ村の厄病が収まったと風の噂だそうだ。
「助かりました」
「いえいえ、困っているときにはお互い様です」
父さんはもしもの時のために備え、村の外側の塀をもっと外側に出し、二番目の塀の中だけでも来た人が過ごせるように作り替えようと案を出した。
それはいい案だということで、地の精とその契約者が張り切って塀を作り直している。
その時に、以前カランキ村の人たちに泊まってもらった、あの即席建物をお風呂付の二階建ての宿場に直している。
同時に食事をする場所が必要だということで、宿場の前に屋台で日替わり定食とちょっと質の落としたお酒を置くようにしている。
そこに、商隊に人たちを案内したのだ。
それからの村の人の動きは早かった。
おじさんたちは屋台の準備だと肉とお酒の準備を始め、おばさんたちは泊まる部屋の確認とスープづくりを始める。
あたしは勿論部屋の掃除要員。
ベッドに掛けられたシーツと毛布は勿論、部屋全体に浄化を掛ける簡単なお仕事。
これでいつでも清潔で綺麗なお部屋の出来上がり!
あたしはみんなの前に出来るだけ姿を見せないことになっているので、建物の屋根裏部屋で観察することにした。
「それにしても、こんな森の近くに立派な村があるとは、思いもよりませんでした」
「ここは森が近いために、外壁だけは立派にしてるんですよ」
父さんはあくまで僻地の自衛だと誤魔化しているけど、無理なことは宿場を見ればまあわかる。
カランキ村の建物を参考にすると、明らかに文明が違うのがバレバレだもん。
かと言って、この村に昔の村のような建物を建てておくのは、皆いい顔するはずもなく・・・。
今に至る。
だから商隊の皆さん、ポカーンとしている。
しかもお風呂に入れるといえば、ものすごく喜ばれた。
おばさんたちは、出来れば先に疲れを取ってきてくださいと、皆をお風呂に追いやった。
グッジョブ!
正直そのまま部屋に入って、汚されたくないよね。
きれいさっぱりして出てきた人たち全員が揃って屋台の前にいる。
先ほどから肉の焼ける匂いが漂っているので、すぐにでもお腹が空いたから食べたいと、ぐうぐうとお腹を鳴らしているようだ。
「皆さん、一応食事は定食になりますが、お出ししてもいいですか?」
「定食・・・ですか?」
「ああ、聞きなれない言葉でしたか。ここではおにぎり、メインのお肉とスープがセットになっているのを定食というのですよ」
「肉!肉があるなら、それで大丈夫です!お願いします!」
みんな同じメニューなのは、準備が楽だから。
タレは常備あるから、肉は焼くだけでいいし、野菜もいつでもあるからスープは煮込めばいい。
いつ来るかわからない者の為に、時間をかけるのは面倒でしょ?
みんな、凄い勢いで食べている。
これは肉のお代わりが相次ぎそうだ。
「このタレうめぇ!」
「肉も柔らかくて美味しい!」
中々好評である。
勿論、肉はあたしがリュックから提供しているのだから、新鮮でおいしいに決まっている!
それにしても、全員で15人って多い気がする。
「多いと思うわよ」
「テーレ。偵察終了?」
「今回の人たちは、問題なさそうよ。善人の部分に入ると思うわ」
「そう、良かった」
門に入る前には、精霊たちのチェックが既に入っており、問題ないとされたのでここに辿り着いた。
ただ、状況確認の為にテーレが動いていただけだ。
問題ありとされた場合は、迷い石により同じ場所をぐるぐる回ってここに来られないようになっている。
テーレが聞いてきた話だと、今回は一五人とそれなりの規模で動いているそうで、馬車三台で動くというのは物凄いことなんだそうだ。
人数で言えば、15人。内訳は商人さんが2人に御者が3人、護衛が10人。
その内女性は護衛の中に2人だ。
それにしても、みんな良く食べるなぁ。
夜営だとゆっくりご飯を作る時間ないし、食べ物の買い付けに来たのだから、量は食べられない生活をしてきたのかもしれない。
あたしはカランキ村以外の、外の状況が少しわかるかもしれないと、少し浮ついた。
今度街に行くときの参考になるからね!
読んで頂き、ありがとうございました。
評価&ブックマークありがとうございます。
正直、もうそろそろ駆け足でも終わりにしていこうかと思っていたのですが、
読んで頂いてると実感して書いてます。
自分が楽しく書けるぐらいのペースで、頑張ってみます。
なにせ、現在頭の中が
『ヒロイン幼女、拾ったおっさんと旅をする(仮)』
だったりするんですよね。
困ったものだw