105.妖精族との宴会
次の日、ヨルじいに父さんと話したことを話しに行った。
「それは願ったりじゃ」
「本当?本当に?大丈夫?」
「態々聞かれんでも、マリー様のものだと・・・」
「それでも!人間に嫌な思いをしたでしょ?本当はまだトラウマになって、心の傷が癒えてない人もいるでしょ?全員は無理でも、少しでも傷つく人が少ないようにして欲しい」
「わかりましたのじゃ。まずはわしら森の一族フェアリーと酒を持ってドワーフが寄らせてもらいましょう」
「そうだね。美容商品とお酒は絶対に受け入れられるよ。明日で大丈夫?」
「商品はそれなりになるのじゃ、いつでもどんとこいじゃ」
「じゃあ、明日みんなを迎える準備が出来たら、呼びに来るね」
こうして、妖精村はリハビリを兼ねて精霊村と交流を持つことになった。
ヨルじいと話した結果を父さんに伝えた。
「それは良かった。慣れてもらうために、まずは妖精族の人たちを家に招待しよう」
ということになり、精霊村でも主要メンバーを集めて、家で歓迎会をすることになった。
ちなみにあたしの家、外側の見た目は変わらないけれど、父さんが村長になると決まった時に、かなり頑丈に作り替えられている。
どれぐらい丈夫かって言えば。
ドラゴンがぶつかっても、ブレスを吐いても、傷一つつくことはない。
なんでわかるかって?
長が暴れても大丈夫だったからだよ。
あの長がぶつかって何ともないなんて、一体何と戦うことを想定しているのかと、少し呆れてしまった。
だけど、それは愛情の証だと思って、有難く思う。
精霊達があたしに対して過保護なのもあるけれど、この村を故郷としてくれているのだと思うと、感慨深い。
それに何かあった時、村の人を守るのは村長の役目だからね。
ここに逃げ込めば、絶対に死なない仕組みになっている。
床下にダンジョンもあるし、生存率100%!
なので、中身も大幅にリニューアル済み。
家全体の部屋も少しずつ拡張したけれど、有事の時には避難場所になるように、広ーい宴会場が作られている。
あの国が如何こうすることはないと思うけれど、隣村側の国がね。少々煩い。
だから妖精族からの取引は、正直渡りに船だったのだ。
「父さん。こっちのメンバーは、お酒をメインで作ってくれているおじさん達と、パン屋さん、服屋さん、肉屋さんたちでいいんだよね?」
「ああ、本当はもっと準備に人手が欲しいところだが、威圧感を感じられたら困るのだろう?」
「うん。ドワーフの人たちは割と大きいし、お酒の話が出来れば問題ないと思うけど、森の一族がね。精霊に近いから」
「そのあたりは母さんと洋服屋さん達女性に任せよう」
「・・・そうだね。暴走しなければいいけど」
「それは・・・流石に、大丈夫だろう」
・・・・・・。
・・・・・・。
美容商品と甘い物が絡むと自制がどこまで効くか、少しだけ不安が残る案件。
何かあれば、妖精村からの商品を渡さない。
そのことを前もって伝えてから、歓迎会を迎えることにした。
そして迎えた次の日。
新鮮なお肉料理に始まり、出汁のきいたお味噌汁、おにぎり、サンドイッチ、果物たっぷりケーキなど、精霊村ならではものにした。
勿論お酒は、ビールと日本酒。
あたしは甘酒少々をこっそり。
時間が近づいてきたので、あたしは宴会場から部屋に戻る。
妖精村の人達は転移で連れてくる予定なので、そろそろかと向かった。
「ヨルじい。準備はいい?」
「いいのじゃ。皆、楽しみにしておる」
一緒に行くメンバーは元々人間に対し、マイナス感情ではなかった者を選んだと聞いている。
その上、それなりにお酒が好きなメンバーが揃っているらしく、皆確かにワクワクしていた。
共通の話題があることは、確かに大事だ。
後は飲み過ぎて、変な論議にならないことだけを願う。
「じゃあ、行くね。転移」
宴会場に到着すれば、すぐに森の精霊たちが歓迎の意を表し、舞い始めた。
それが合図になっていたのか、部屋を闇が覆った。
すぐに、リュビを始めとする火の精たちが、小さな灯をともし、
水の精は小さな水球を、それらが消えない様に優しく纏わせ、幻想的な火が煌めいた。
それらが部屋中を明るく灯し光が溢れた時、森の精の歌が響く。
『新しい時が来た』
『昔のように、皆平等』
『手を取り合って、酒を飲もう』
『さあ、皆コップをもって』
『さあ、早くコップをもって』
『そう、そう』
『さあ、皆飲んで、食べて、笑おうぞ』
『さあ、乾杯の時が来た』
『さあ、コップを皆で打ち鳴らそうぞ』
『かーんーぱーい』
「「乾杯!」」
突然始まった精霊たちの歓迎は、誰も知らなかったらしく(あたしも)皆、言われるままにコップを持ち、飲み物を入れた。
だけど、流石順応力がある人達。
乾杯の合図とともに、あっと言う間に宴会に突入した。
食事も中々好評のようで、サンドイッチなど冷たいパンに驚き、甘いケーキに森の一族は群がっている。
甘い物の話から始まり、順調にコミュニケーションが取れている。
ドワーフは言わずもがな。
ビールの冷たさと喉越しに感激し、日本酒談義に花を咲かせている。
ああ、良かった。
皆が笑っている。
相変わらずの精霊たちに感謝だ。
楽しみだと言いながらも、皆緊張していたのが分かったのだと思う。
まあ、自由な精霊たちのことだから、やりたかったから。そんな理由かもしれない。
それでも、新しい時代の幕開けの第一歩として、今日という日が刻まれたことは、あたしにとって救われた気がした。
今日は少々面倒な者たちとのことは忘れて、長を巻き込んで甘酒を飲む。
ああ、美味しい。
読んで頂き、ありがとうございました。
面白いと思って頂けてるのかな~?
まずは完成を目指しましょう。