9.加護と新しいスキル
「あら、マリーは寝てるの?」
寝てないですよー。
放心していただけですー。
「マリーは体力ないからな」
それは、残念なことにそうかもしれない。
だけど、起きてる。
「ううんとね。水のせいから重大なこと言われた」
食べることとチャンバラしか興味のない、エディ以外の二人がフリーズ。
父母ごめんよー。あたしのせいじゃないし。
それにきっと村にもこの世界にも大事なことだよ。
あたしの遠くなるスローライフのためにも頑張って欲しい。
「もしかしてマリーが水の精の加護を貰ったことか?」
・・・加護?
あたしそんなことになっているの?
スキルに鑑定がないから見えてないけど、ステータスボードがあるならば
マリー 5歳 ホセとリセの子
スキル 『卵ガチャ』『魔力上昇』『育成』
精なる木『サクレ』の加護 その眷属 ドライアド『テーレ』 マリーの守護者
水の精の加護 new
って感じ?
「それともこの木のことか?果物の木もあるが、酒を造る為の樽の材料になる木が何種類かあるから、間違いなく造れという暗示だと思うが」
そうだそうだ!とばかりに飛び跳ねるグミ違った、水の精。
いやいや、あんたたちそんな簡単な話じゃなかったよね!
酒造れば問題ないとばかりに、頷いているようにも見えるけれども、精霊と人間の感覚が同じなわけないのだから、文句言っても仕方ないのかもしれない。
「100年ぶりの酒~」らしいから。
「まあ、すぐには呑めるように出来ないから、一年近くは待って貰わないといけないことは、わかってくれているのだろうか?」
すぐに全員がショボーンとして、荷車の上で縮こまった。
でもすぐに復活!いいこと思いついた!とばかりに水の精一人?が跳ねた。
嫌な予感がする。
「かーさん、に」という前に、淡い空色のエフェクトがあたしを包んだ。
絶対に何かついたよ。
「ああ~。スキル熟成だな」
ん?熟成・・・。
「酒を早く造れということだな」
熟成って水の領分?確かたんぱく質がどうだこうだで、酵素がどうのこうのだったはず。
さっぱりわからない。
だけど!
そんなことは、どうでもいい。スキル万歳だ!
醤油と味噌を作れということだよね!
水の精のご都合主義に巻き込まれたけれど、ラッキー!
足元にポスポスとぶつかってくるみず水の精達に、慌てて言い訳する。
あ、勿論お酒も造らせて頂きます。
それでいいのだ。
どや顔しているように見える一人の水の精に、可愛いのだけど苦笑いだ。
「解決したの?」
「かーさん」
そういえばかーさんにと、言いかけたままだった。
「あー、村でそーだんしないと」
「まだ何かあるのか?」
「ある。おさけで幸せになったら、火のせいが元気になって、地のせいが作物そだてる。空のせいふえて、ゆめ広がるから、王がきかんするって」
「「お、王、王の帰還?!」」
あ、フリーズも短くなった。
「王と言えば精霊王!物語にしか出てこない伝説の王だと!あり得ない。いや、精霊がいうのだから間違いないのだろう。・・・それに昔は精霊の泉の水で酒を造り、魔力を含んだ酒を奉納していたのだから、その通りに酒を造れば、水に、地に、火に、空に魔力が満ちて帰還が早くなるということか?」
考えている間ゆっくりな歩みになっていた父を母が急かせる。
「考察は後にして、早く家に戻りましょう」
「そうだな。森を見に行くだけだったはずなのだが・・・どうしてこう話が大きくなったのか」
マリーをチラリとみる。
思うよね。あたしも思う。
「このあと村の人たちに森のことを話す予定だったのだから、すぐに話しましょう」
そんな緊迫した父母の心情を無視して、腹減ったというエディはやっぱり大物だ。
実際お腹が空く時間なのは間違いないので、急いで村へと帰っていった。
村に戻ればあたしたちが戻るのをほぼ全員の村人が待っていた。そして森はどうだったかという答えは、大鹿を見て魔の森ではなく普通の森になったと察したのだろう。久しぶりの大物だと村人が沸いている。
あたしといえば、荷物台が盛大に揺れたせいで、酔って気持ち悪くなって動けなくなっていた。
動けるようになったのは、お肉が捌かれ焼かれ始めていい匂いがするころだ。
まだ気持ち悪いけど、自分の分が焼かれる前に折角だから試したい。
「マリー大丈夫なの?」
「だいじょーぶ。おなか、空いた」
「もうすぐ焼けるから、待ってなさい」
「やけたお肉はエディにあげる。あたしのは自分で味つけるの」
その言葉で母はすぐに家族分のお肉を持ってきた。あれだけで察するなんて、流石だよ。
熟成が進んだお肉美味しいからね!
「後は何がいるの?」
「今日とって来た薬草たちとマメと塩と小麦にむし器」
やってやろうじゃない。熟成。
どれだけの時間で出来るのか、お酒を造る上でもきっと判断材料となる。
本当は、眠たい。荷車に酔った上に、幼児と言える5歳の体は限界が近い。
だけどここで美味しい食べ物が食べられるかどうかは、今後の人生が違っている。
大袈裟ではない。食べることが好きなあたしが、塩で美味しい芋とか豆ばかりとか、寂しくて仕方ない。
お陰で痩せているのかもしれないけれども、いや、あたしからすればガリガリだ。
肉食べて、肉付けるべきなのだ。
特にこの薄い胸に!
今ここに、手を合わせる同志の母が居ないのは残念だ。
あ、いえ何でもないです。
不吉なオーラが消えた。
豆を蒸してもらって小麦を炒って塩入れて、此処から一気に熟成させちゃうよ!
これで簡単にできるなら、次からは酒樽ならぬしょうゆ樽つくればいい。
さあ、こい!
『スキル 熟成!』
母は黒っぽい液体にちょっと引き気味だ。
あたしは迷わずその黒っぽい液体を掬って舐めた。
豆が大豆じゃないし、工程も色々足りないのだろう、だけど、出来ている。
覚えているしょうゆをお湯で薄めて味の厚みを抜いたような、何とも言えない物足りなさを感じるが、それでもしょうゆだ。
臭いを嗅ぎながらショウガみたいなの、トウガラシみたいなのや、ネギみたいなのを出来たばかりのしょうゆに刻んで入れて、混ぜる混ぜる。
更に砂糖を入れて、混ぜる混ぜる。
ポムの実もすりおろしてもらって、混ぜる。
のろのろと混ぜる体力がないあたしの代わりに、仕上げはかーさんがしてくれた。
黒い液体に不安そうな顔のわりに、香りのいいこのタレに興味津々なようだ。
お肉の上に豪快にかけて、浸したあとはお肉ごと更に熟成だ!
『スキル 熟成』
さあ、これでどうだ!
「やいてー」
焼き始めてから何とも言えない香りが押し寄せてくる。酔いの不調など吹っ飛んで、お腹がぐーぐーと早く食べさせろと叫んでいる。
周りで騒ぎながらお肉を食べていた村人も固唾をのんで、焼けるお肉を見ている。
エディに盗られそうになりながらもこれだけは死守し、お肉が焼けた第一号を口に運んだ。
和牛肉には到底追いつかないが、この世界では間違いな一番だと断定できる。
うーーーーーーんっ!
おいしーーーい!
お酒が飲めないのが本当に残念だよ。
この世界では何歳からお酒が大丈夫なんて言わないから、造ったらテイスティングと称して呑むのもありかも?
久々に満足なものを口にしたあたしは、未来に想いを馳せていたニヤニヤしていた。
傍から見たらあやしい5歳児である。
その様子を見ていた家族は、声が出ないほどお肉が美味しいと受け取ったようで、我先にとお肉を取り齧り付いた。
「う、うまい!」
その声を聞いて村人が黒い液体、即席焼き肉のたれを求めてきたのは必然だった。
美味しいは正義!
もふもふが遠い…...( = =)