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オリオン座のA  作者: のりしお
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旅立ちの日に

ー3月8日ー

 倉山西高校の3年生のA~E組の教室では、卒業式を終え担任の先生との最後の別れの挨拶をしていた。何を泣いているんだと冷めたものから、周りにつられて自然と泣いてしまうものまで様々だった。短い高校生活も今日で終わり。そんな特別な旅立ちの日。事件は起こった


「あぁーーーーーー!!!!!!」


A組から突然大きな声が聞こえた。隣のB組女性担任金田は慌ててA組に走った。金田は、非力で小柄な女性の先生だが人一倍責任感が強く有事の時はいつも一番に動く人だ。金田が教室に着くとA組担任北東が息苦しそうにしていた。金田が声をかける間もなくそのまま北東は教卓にうつぶせに倒れた。背中にはナイフが刺されいた。金田は、警察と救急車を呼び学校は騒然となった。ニュースでも取り上げられ学校は警察やマスコミに囲まれていた。


ー3月10日ー

「どうやらこの子が最後みたいですよ。」

3年目の身長180センチの昔でいうハンサムの若手刑事久保は先輩の大熊に語り掛けた。

「ああ、やっと最後か」

大熊は顔をタオルで拭いた。この数日間の疲労が溜まっていた。大熊は、事件が起きる日の前に休日を取り家族で旅行から帰ってきたばかりだったのだ。57の老体に鞭を打っている大熊を久保は尊敬していた。

「えーと、それでは片山さん。今から事情聴取を始めたいと思います。分からないことがあったら分からないと言ってくださいね。」



「--犯人はだれですか?」



事件が起きてから二日、A組32人これだけの目撃者がいながらまだ北東を刺した犯人は、未だ特定できていなっかった。B組担任金田が教室に入って来た時は、全員着席していたらしい。だが、ナイフで刺されたことからこのクラスに犯人がいることは間違いない。北東は熱心な先生で常に生徒たちを思いこの時代にしては、親御さんからの評判も良かった。

「分かりません。」

またか…大熊と久保は、やれやれと思いながら目を合わせた。彼らががっかりするのも無理はない。クラス32人に犯人の名前を聞くが、皆が口をそろえて分かりませんとしか答えなかった。クラス委員長も務め国立大進学も決まっている片山弘子でもこの反応になるとは思ってもみなかったが、現実に起きてしまった。

「どうして分からないのかな?」

大熊は足し算が分からない小学生に話かけるように優しく尋ねた。

片山は急に肩を震わせ泣き始めた。北東が殺されたのを目の前で見たからだろう。普通の人ならそう思うだろう。しかし、これもまたクラス全員同じような反応だった。名門倉山西で甲子園出場を果たした野球部の、エースでキャプテンだった阿部雄二も、手で顔を覆い何も質問させない空気を醸し出した。相手は未成年ということもあり大熊と久保はこれ以上厳しく追及することが出来なかった。誰一人として犯人の名前を答えない摩訶不思議な現象にこの事件の真相が隠されている。2人はそう確信した。

「今日はもう帰っていいですよ。」

久保がそういうと、片山はすぐに席を立ち荷物をもって、そそくさと出て行ってしまった。倉山警察所の前に片山の母親が車で迎えに来ていた。

「ベアさん、これからどうしますか?」

久保や署員の間では大熊という名前からベアと呼ばれている。

「刑事生活30年、俺の長年の経験がこう言っている。--現場百篇だ!」

大熊は、どうしようもない難解な事件にであったときは必ずこの発言をする。久方誘拐事件では目撃者を発見した、東央銀行強盗事件では下見に来ている彼らの顔を防犯カメラで発見した。常に現場に戻って解決してきた。

「そういうと思ってましたよ。」

片山は少しにやけた。

「車回してきます。」

「おう。すまん。」

大熊は、そういうとポケットに両手を突っ込み天井を見上げた…


学校に着くと大熊達は事件のあった教室に向かった。

事件後ということもあり校内は水滴が落ちる音しかしなかった。

「A組‥ここですね。」

keep out とても学校とは思えない黄色いテープで、封鎖された教室に大熊達は入っていった。

〇〇大学合格!!と書かれた紙が教室の後ろに貼られている。本棚には坊ちゃん、蜘蛛の糸と現代文の先生であった北東らしい本が並んでいるが、全て新品のようだ。

「やっぱり特に何も変わった様子は無さそうですね。」

「‥‥‥んー」

大熊は、ここ数日処理出来ていなかった顎髭を触る。大熊は、常に考えるときはこの仕草をする。久保がそれに気付き、はっ!と口を閉じる。静かだった学校が、さらに静かになる。

「‥」

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