参道を照らす、人間燈籠
先日発生した、北大阪の地震の災害時に、フェイクニュースが、拡散したとニュースで報じられていました。ジョーク感覚で発信されたものでしょうが、時として、大きな暴動や、混乱が生じることは、先の大震災の教訓として、しっかり認識しておくべきだと思います。混乱により、無実の犠牲者がでるということは、決してあってはならないことです。たとえ現世の法律で処罰されずとも、来世、そのまた来世で、その報いをうけることになるのかもしれません・・・っちゅう訳で、三島由紀夫云々を自負する倉本保志の新作連載小説ここに投稿です、よろしく。
地獄百景 第4話 人間燈篭
現世において、放火をし、その行為によって、人を焼死させたものは、頭から全身に油をかけられたのちに、髪の毛に火をつけられ、人間燈篭として外灯に利用される。
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進むしかない・・・
目の前にまっすぐに伸びる、この一本道を、ただ ただ、進むしかない。
そう、それ以外、まさに他に道はないのだ。
Kは、自分にそう言い聞かせて、重い足を引きずりながら歩いて行った。
かつて、ここを通った罪人たちの血を、吸いこんだかのような、赤黒く湿った土が、ここまで、何十キロと、続いていたが、いつしか、それも途切れていた。
やがて、石畳みの参道が、表れ、そしてそれも、しばらく行くと、緩やかな石段にとって代わった。
足を止め、ふと、見上げると、大きな石の鳥居が、Kを見下ろすようにそびえ立っている。
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(地獄に参道・・・?)
(この向こうに、社があるというのか?)
(はたして、一体だれが参拝するのか・・・?)
(地獄に落ちた罪人が、自らの苦しみの救済を求めて・・・・?)
(それとも、地獄の鬼どもが、その、良心の呵責に苛まれての参拝・・・?)
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参道を歩いているのにもかかわらず、居心地の悪い不思議な感覚を感じながらも、Kは、石段を急ぎ足で、上がっていく。
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境内につくと、暗闇の向こう側に、道の両脇にすらりと燈篭が立ち並ぶのがぼんやりと見え、松明を灯したように灯りがずっと同間隔で、奥にまで続いていた。
石畳は、そこに挫流する空気の加減によって、まるで、水面をゆらりと揺らめくように、その松明の篝火を写し出す。
(しかし、道が明るいのは助かるな・・・)
Kが、そう感じるのもつかの間、その光の合間を急ぎ気味に、歩いていたKは、不気味な、叫び声に似た声を感じて、思わず立ち止まった。
「びゅうえええあああ・・・」
「ひゃあっ」
首をすくめ、恐る恐る、声のする方を向くと、先ほどから道の脇に立ち並んでいる燈篭である。
(燈篭・・・?いや、違う・・・これは、人だ、人が、篝火のように頭の部分を燃やされているのだ。)
頭を、直に焼かれる、痛さ、その熱さの余りであろうか、先ほどのうめき声をあげているのは、燈篭の代わりに燃やされている罪人たちであったのだ。
「すると、ここも・・・処刑場の一つっていう訳か・・?」
「しかし、何とも言えない酷い臭いだ、人が焼かれる臭いってのは・・・」
Kは、先ほどまでの歩みをかなり、速めてこの場から立ち去ろうとした。
「うっ・・・ぐおおぼぼ・・」
たまらぬ臭気に、Kは、吐き気を催し、一気にその場に吐いた。
そして、ふらりと前によろけるようにして倒れ込んでしまう。
足もとから、元来た道を眺めると、そこは、先ほどとは全く違う、地獄絵図が、展開されている。参道の両脇の燈篭(罪人たち)の、まるで、蠟が溶けだすかのように、汗まみれになり、赤黒く、苦痛にゆがんだ顔、やがて、その顔自体も、黒く炭化して人間のものとは分別し難い状況になっていく様は、なんとも酷い光景であった。
はっ・・
Kの頭の中に、フラッシュバックが、突然生じ、ある光景が、彼の脳内のモニターに映像として映される。
もちろん、K自身が現世で体験した光景ではない・・
Kが生まれるずっと以前の、あるセピア色に色褪せた、古い、記憶の残像・・・
それは、100年以上昔の、帝都・東京の光景・・・
多くの家屋が倒壊し、瓦礫の巨塊が、焼け焦げた材木が、街を飲み込んでいる・・・
疲れ果て、ふらふらと陽炎のように、彷徨する群衆・・・
まさに壊滅的な打撃を受けているのが見てとれる。
・・・・・・・・・・
そんな中・・・
大ぜいの群衆が、大川の橋のたもとで、数十人の人間を、ぐるりと取り囲むようにして、何やら、気忙しく、叫んでいる
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(一体、何だ、この光景は・・・? )
(大正時代・・・大地震・・・)
(・・・・関東大震災か・・?)
脳裏に浮かぶその、光景に、Kはその意味を、後から、思いだすように確認する。
群衆のうちの一人が合図すると、取り囲まれた人々の体に、いっせいに火がつけられる・・・
酷い・・この、燃え方は尋常じゃない、おそらくは、事前に灯油か何かを浴びせられ
火をつけられたに違いない。
黒々とした煙が立ち込め、放火された数十人は、蹲り、倒れ、慟哭とともに、重なり合い、燃え盛る炎の海に溶けて、やがては、黒い塊になった。
(誰だ・・? 彼らは・・・?)
(生きながら、燃やされているのは・・・一体・・誰だ・・?)
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元来、この国の人ではない・・・
強制的にここに連行されてきた人たちの子孫・・?
かつてのこの国の政策により、ここに移住した民族・?
彼らがなぜ、この群衆に火を付けられているのか・・・
ならば、この記憶は、ここで、無残に燃やされた者たちの怨念が、齎したものなのか・・?
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いや、違う・・・
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この記憶は、おそらく、火をつけた群衆のものだ・・・
なぜ、この群衆は、彼らに火をつけたのか・・?
いったい、なぜ・・・?
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騒乱の中、大声で叫ぶものがいる。
「奴らに、その償いをさせろ・・・」
「奴らが、この期に乗じて、火をつけた・・・」
「奴らは、非国民、この国の敵だ・・・」
「すぐに、奴ら、売国奴を弾劾せよ・・・」
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「ぶえやああああああ・・・」
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燈篭が、再び怨讐の叫び声をあげる。
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つまり、こうだ・・
ここにある人間の燈篭は、彼らに火をつけた側の人間、群衆たちの地獄での姿、
現世での、その行為の償いとして、自らに火をともされ、地獄の参道の灯火として使われているのだ。
現世で、はたしてこの非道な行為が、罪に問われたどうかは定かではない・・
しかし、地獄界は、現世のどんな、罪をも決して逃さない・・・
はたして、この燈篭、(人間燈篭)は、いつまで灯し続けられるのか・・?
一瞬の、錯誤、愚昧の代償を、彼らは、いつまで払い続けねばならぬのか・・・?
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Kは、いつか、本当に死んで、ここで償いをせねばならぬ、わが身を思い、
身震いをしたが、無言のまま、境内を降り、先を急ぐように歩いて行った。
おわり
ご覧いただきありがとうございます。地獄百景シリーズは、少しづつ、PVが増加し、いまや、倉本作品の中で、一番の人気となりました。まだ前作、3作品をご覧になっておられない方はぜひご一読くださいますよう、お願いいたします。100話まで、まだまだ道のりは、遠いですが、これからも読者の方々のアクセスを励みに、頑張っていきたいと思います。よろしくぴ~