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青春恋愛短編集~小さな切なさを~

また夏がくる

 街はずれの古い喫茶店で、よく流れていたこの曲。あの日からひとりで聴いている。あの夏の恋は、思っていたより幼くて、そのせいかただひたすらにまっすぐで、このソーダ水のはじける泡とよく似ていた。

 好きで好きで、両想いになれた時は、世界中の色彩が一気に鮮やかに変わっていった。見るもの全てが音楽のようだった。並んで歩いたあの新緑の並木道に、シャワーのように降り注ぐ太陽の光が、心の深いところをジリジリと焦がしていた。嬉しいような、恥ずかしいような感情に、どんな説明も無意味だった。

 些細なことで傷ついていく恋心と、それでも手をつないでいたいという願いとを抱きながら。杖をつきながらお互いを気遣う、おじいさんとおばあさんを見て、どうやったらあんな風にずっと一緒にいられるのだろうと、思ったりもしていた。

 とても暑い夏だった。汗をかいて、この喫茶店で休みながら、レポートを書いたものだった。その時流れていたこの曲は、まるであの夏のアルバムみたいだ。

 秋になり、少しずつ恋は疲れて、小さなズレを許しあえずに二人は別れてしまった。別れてから何度も思った、わたしはどれくらい相手のことを理解してあげていただろうか。何を信じ、何を愛し、何を嫌い、どんな風に生きようとしていたのかを。きっと何もわかってあげられなかった。ただ好きという恋心に包まれて、夢中になっていただけだったのだと。

 あの別れの後、わたしの生活にはいろいろあって、「今、幸せだよ」と笑っては言えそうにない。世界中の美しいものを失ってしまったような、辛い経験が続いた。もし伝わるなら、「ありがとう」と「ごめんなさい」と。そして、こう言えたら素敵だろう。「大丈夫、これから幸せになるから」と。

 今、カランと音をたてて崩れる、グラスの中の氷を見つめ、何となく、少し微笑んでみた。きっとこれから幸せになれる。あの日の思い出にそう伝えて、静かに目を閉じた。

 また夏がくる。

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