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後ろからあおってくる黒い車がいるという話


 いつの間にか車高の低そうな車にぴたりと付けられていた。


 夜遅く、家の近くの県道を走っている時のこと。

 その時間は車通りも少ない、自身、急いで帰ってもいいことはひとつもない、つい、アクセルを踏む足が緩みがちになる。

 制限速度は時速四〇キロ、これならば警察に止められることもあるまい、という運転で夜道を行く、そんな折り。


 唐突に強いヘッドライトが背後から当てられてからようやく気づいた。


 急いで帰りたいのだろうか、と少しばかりアクセルを踏み込む、が、背後の車はほとんど車間距離を開けることなく、そのまま走行してくる。

 どんなに速度を上げても、その車は離れることがない。バックミラーに黄色い凶暴な光が跳ね返って目を焼く。距離を取れないのではっきりと車の全貌は見えていない上に、光に目をやられたのもあって、運転席の様子もうかがえない。エンジン音はさほど高くないが、とにかくついたが最後、決して離れようとしないのだ。


 結局は、自分が右折して市道に折れるまで車は離れることはなかった。ちらりと見えた車の横腹は夜と同じくらい真っ黒だった。


 いささか不愉快な思いはしたものの、こちらがあまりにもゆっくり走っていたのが気に食わなかったのかも知れない、とその晩は少ししたら黒い車のことは忘れた。


 数日後の夜遅く、また車が背後から迫ってきた。

 この前気づいた場所とほぼ、同じ、そして車も同じもののようだった。


 今回は少し懲りたこともあってスピードを出していたのだが、それでもあっという間に追いつかれ、背後にぴたりと付けられる。

 脅しのために、フットブレーキを急に軽く踏んでみた、後ろの車にも赤いランプが見えたはずだ、しかし黒い車は特に臆することもなくそのまま背後についている。


 先日と同じ市道への別れまで、その車は触れるか触れんばかりの位置につけて追走し、私が右折するとそのまま直進して、姿を消した。


 少し停車して、その車が行った方をしばらく見やってみた。家々の隙間から何ヶ所か、車の通るのが見えるのだ。だが、その車のテールランプが家並みを抜ける様子はついに、見られなかった。


 通り沿いの家に入ったのだろうか? それにしても、静かな夜中の通りにはすでに物音ひとつ聞こえない。


 すぐにエンジンを止めたのだろう。そう思って気にしないことにした。


 それから黒い車に付けられることが多くなった。

 毎回のように、同じような場所で出あい、同じ別れまで後ろに貼りつかれる。


 ある日、近所の友人と車の話になった折、黒い車の話題となった。

 友人が薄く笑いながら言った。

「分かった、その時間ね。今度俺も走ってみる」


 数日後、彼に会ったので夜中に走ったか聞いてみた。うん、走ったよ、と彼はごく普通の口調でそう答えてから、言った。

「セっちゃんが言ってた車に、付けられたよ。しかも二晩連続で」

「え? 同じ車に?」

「うん」びったり付けられ、聞いていた別れの場所まで追走されたのだそうだ。

 しかし二晩目の晩、彼はとんでもない行動に出た。

「ブレーキをね、思い切り踏んだんだ」

 車が数十センチも離れていない位置で、急停車してみたのだと言う。

 それで、どうなったの? 焦って訊ねると彼は淡々とこう答えた。


「消えたよ、後ろ」


 それからしばらくして、私の後ろにまた、同じ車が付いているのが見えた。

 夜中にそこを通りかかるたびに、確かにぴたりと付いてくる。


 急ブレーキを踏む覚悟はまだ、できていない。

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