開戦
?「敵襲ーーー!!!」
クレヴァディア王国謁見の間。水色に染め上げられたカーペットと垂れ幕には、国旗である翼の生えた白蛇と鈴蘭が描かれている。
突然の警鐘に浮足立つ広間に、黒鎧の大男が転がり込んできた。
壇上から見下ろす位置の玉座に座るは、金髪を短く刈り揃え、背には水色のマント、
レガリア(王の証)である雫型の蒼宝を額に冠し、銀鎧の完全武装で身を固めた、凛々しき偉丈夫。
ホール上部をグルリと一周するバルコニー。貴賓や上級貴族は杯を傾けながら
バルコニーにて談笑をし、下級貴族や貴族に片足を突っ込んだ成り上がりの商人等は
ホールにてダンス等に興じていた。緊迫した空気を叩きつけられ、水を打ったように
辺りは静寂に包まれた。
国王クレヴィア=ガルアスは、喜色を顔に浮かばせる。獲物を見つけた獅子のそれで、
静寂を切り裂き、王は黒鎧へ声をかけた。
ガルアス
「敵襲?私の国に喧嘩を売ってくれたのは何処の馬鹿だ?ゼノアス。この警鐘は人間を指すものだろう?」
全力で走ってきたであろう彼は珠の汗を額に浮かべながらザッと片膝をつき、略式であるが臣下の礼を取る。
ゼノアス
「ハッ!急時につき略式にて失礼!国王陛下に御報告申し上げます!現在外門を襲撃している敵は国旗を掲げていない所を見るに、恐らくブラム獣王国が傭兵! 目測で……約2万!」
その数に、少なくないどよめきが方国を受けて再起動した貴族や貴賓達の間に走る。
彼らは200年式典演目であるドラグーン(龍騎兵)による軍事演習を観たあと、
謁見ホールにて立食形式で昼食を取っていた最中だった。
休憩時間の少なくは無い警備兵や貴族出身の兵たちは、まだこの後も仕事があるので
鎧姿のまま身内と話している。
演習に参加していたガルアスも鎧姿のままだ。
エルマン
「一大事もあり得る。直ぐに巫女様へ護衛の親衛隊を向かわせなければ!」
大司祭エルマンが足早に席をたつ。その背にガルアスは「ついでにシュドラスを各部隊長へ伝令に向かわせて下さい。」と手近な衛兵を案内につけた。
?「ええい!哨戒のドラグーンは何をしていた!?」
玉座段下左に控えていた白髪白髭の壮年貴族が、いきり立って大股でゼノアスへと詰め寄ろうと距離を詰める。
ゼノアス
「お気を鎮め下さいハスター宰相殿。敵は突然外門付近に出現し、
数に任せて外門の警備を突破。現在外門と第一橋上門間で付近にいた兵で対処していますが
何分多勢に無勢。至急応援を求みます!恐らく召喚魔法による転移です。
都市防衛魔法障壁に阻まれ王都外に出たのかと。哨戒でどうにかなる物では…」
ハスター宰相
「二万人を転移出来る召喚士等そうそう居てたまるものか!」
ゼノアス
「ですが現実に!」
ガルアス
(何を慌てる必要がある?)
口論を白熱させる二人を見やり、王が玉座を立つ。
ガルアス(我が国こそ南半球にかの国ありと轟く軍事国家!)
ズカズカと壇上を降り、近くのテーブルクロスが敷かれ、料理が並べられた丸テーブルを片手で掴むと、
ガルアス
「ぬううぅうりやあぁああ!!!!」
「バキャ!キン!ゴン!カッ!コッコココ…。」
謁見ホール正門言い争う二人の背後、尋常ならざる肩力で投擲位置から
約300メートルの距離に丸テーブルを叩きつけた。テーブルはバキバキに割れ、
載っていた銀皿が転がる。
ガルアス
「客人の前だ。無様を晒すな!!」
シンと静まり返るホール。
誰もが彼の言葉に耳を傾けるなか、
ガルアス「…諸君には、分かり切ったことをあえて言う。」
❲王が口を開く。❳
「敵を殺せ!」
静寂の中、「オウフォウ!」
ダン!と一人の警備兵が床を踏みしめた。
応えた。
それは忠誠の証。
‘ガルアス
「お前が打ち漏らした魔獣の一匹が、お前の親子供兄弟女房を食い殺すぞ!」
「フォウ!」
ダン!更に一人が槍の石突で床を突く。
それは王国兵の挟持。
ガルアス
「お前が打ち漏らした敵の一兵が、お前の親子供兄弟女房を嬲り殺すぞ!」
「フォウ!」「フォウ!」ダン!ダン!ダン!ダン!二人は三人に、三人には八人に。
ガルアス
「死んでる暇があるなら敵を殺せ!
足をもがれたなら首を刈り取れ!
首を切られたなら喉笛を食いちぎれ!
それが王国民の矜持であると、
汝が相対するは尽くの死兵であると、
遍く敵に知らしめよ!」
「陛下のご随意にぃいい!!!」「フォウ!」「フォウ!」
ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!キン!カン!
‐さざめく。
「足を鳴らせ!盾を鳴らせ!剣を鳴らせ!」
‐騒めく。
「足を鳴らせ!盾を鳴らせ!剣を鳴らせ!」
‐轟く。
「足を鳴らせ!盾を鳴らせ!剣を鳴らせ!」
ガルアス
「我ら生まれてこの方戦い続けてきた、生まれついての戦人!」
「フォウ!」「フォウ!」やがてそれは地鳴りに。
ポカンとする、或いは狂気的な熱に気圧される貴賓なんざ
知ったこっちゃない。
価値ある死こそが何より重要。
ガルアス
「名誉と共に死ぬるは今日!
戦うは今日!諸君に告げる!
敵が来たぞぉ!!!」
王国兵
「ウオォオオオオオオオァエアアア!!!」
クレヴィア王国、死より栄誉、価値ある死こそ喜び。
南半球で唯一、龍を飼いならした死を恐れぬ筋肉の津波。
南半球最強の軍事国家である。
開戦。