親友
セパ
「それで公務も何も放り投げて、ウチで今日もダベってるわけかい。この不良王子は。」
褐色系の肌に太っているがガッシリとした体型、40代くらいの見た目、青い半袖にエプロン、
サンダル、半ズボンという出で立ち。
バザール露天が並ぶ大橋の一角。果物屋前にて丸テーブルと四脚の椅子が置かれた簡易的な空間で、
シュドラスは半ばまで飲み干したマンゴージュースのグラスを片手にテーブルへ突っ伏している。
亜熱帯気候であり、気温40度、湿度60%という今日、軽装とは言え鎧を着たまま
全力疾走したシュドラスは完全に伸びていた。
カンヘル
「キャルルー♪」
店の裏手で彼を助けた相棒はさっさと湖に飛び込み、水遊びに興じている。
時刻は正午手前、仕事の合間に手早く昼食を済まそうとする職人や、
200年式典を見に来た観光客で多少混み始めている。
既にシュドラスが出る予定であった演習披露は終わっており、ぶっちぎりのサボりである。
しょうがないねぇー、という顔で果物屋店主のセパは苦笑しながら、
新たに近付いてきた人物を見留めると、ジューサーに皮を剥いたバナナとパイナップルを放り込んだ。
セパ
「お迎えかい?マルフィス。どうせアンタもいつもの飲んでくだろう?」
マルフィス
「やっぱりここに居たか。ああ、おばちゃん、いつもありがとう。鉛貨五枚ですよね。
カインズさん、また相当絞られてたぞ?お前のせいで。」
セパに硬貨を渡しながら、青年がシュドラスの対面に腰掛ける。
赤眼鏡をかけた白人系で、革鎧の上からこの国の国色である
水色の支給服を羽織っている。首には龍笛。
腰に提げていた伸縮式の長槍と、背中の金具に掛けていた
折り畳み式のクロスボウをテーブル隅に置くと、セパからジュースを受け取り、
あちーっと、冷えたグラスを額につける。
シュドラス
「カインズ、しつこさに磨きがかかってるよ。カンヘルに乗った後も暫く追いかけてきて、
仕方ないから適当なヤシの木に飛び移って、カンヘルを囮にして撒いたんだ。」
マルフィス
「…その後、またお前追いかけられてなかったか?」
シュドラス
「姉さんにプレゼント渡したまでは良かったんだけど、柱に衝突して気絶して、
また捕まりそうになった所をカンヘルが咥えて運んでくれたっぽい。
気づいたら橋下の堤防で寝てた。…子供に棒で突付かれて起きた。」
首だけマルフィスを向いて反応する。
マルフィス
「主人よりよっぽど優秀だな。」
シュドラス
「全くだよ。たまに俺、カンヘルが頭良すぎて人間に見える。小腹空いたらどっかから、
果物やら魚やら採って来てくれるし、演習で水に落ちたら温めようとひっついてくるし。」
マルフィス
「どっちが飼われてるんだか分からんじゃないか。」
シュドラス
「いやー、全く全く。」
マルフィス
「ちゃんとしような!!?私のユルングそんだけパシったら絶対キレるからな!?
ドラグーンの同僚でお前みたいなの見たことないわ!懐かれ過ぎだろ!」
暑さに果実ジュースのグラスを空けながら喧嘩漫談を続けていく。
マルフィス
「しっかし、お前本当に巫女様好きだよなぁ?」
シュドラス
「あ、うん。大好きだけど。」
マルフィス
「」
シュドラス
「それで?」
マルフィス
「真顔で返すな馬鹿!。反応に困るわ!
姉だろ?普通仕事ほっぽり出して誕生日祝いに行くかぁ?
そりゃあ私も巫女様の親衛隊だし、慕ってはいるけど。」
シュドラス
「だって俺、姉さんと血ィ繋がってないもんよ。」
マルフィス
「そりゃそうだろうけどよ、」
シュドラス
「革命のゴタゴタで軍人だった親父がいきなり王様、ミラ様に選ばれただかで、
拾われてきた姉さんが巫女として養子。「今日からお前の姉さんだ。」だぜ?
いきなり王子になっただけでキャパ一杯の所にだよ!?
今日から一人称は「僕」にしなさいいきなり言われてた時期にだよ!?
15年経っても普通に異性だよ!姉さん普通に可愛いし!」
マルフィス
「四歳の頃の初恋どんだけ引きずってるんだよ。
まあ、外に出れない巫女様をシュドラスが気にかけるのは分かる。」
シュドラス
「大体、親父は何してるんだよ。塔の管理があるから姉さんは外に出れないんだぞ?
仕事にかまけてちっとも寄り付かない!親父が呼んで養子にしたんじゃないか!
顔くらい出せよ!姉さん親父の話したら寂しそうだったぞ!
親父が行かないなら俺が行くしかないだろ!俺が幸せにするしかないだろ!
仕事放り出して誕生日祝いに行くしかないだろ!」
マルフィス
「本当は?」
シュドラス
「半分は王子らしいことをするのがタルかったのと、姉さんに会いたかっただけ…」
マルフィス
「有罪!」
シュドラス
「ぎゃあ!」
首だけもたげていたシュドラスの頭に伸縮槍の柄が叩きつけられ、
シュドラスは再びテーブルに突っ伏す。