プロローグ 4 深緑の魔王(エメラルドオリジン)
全てを満たす魔力の水流。円筒状の壁は白く、
全てがエメラルドグリーンに満たされている。
深い深い魔力の水底。エメラルドグリーンの髪と優しげな瞳。
髪は肩まで伸びていて流れに合わせ揺らめいている。
隻腕の少年は膝を抱えたまま上を見上げていた。
…遠い。…高い。もうずっと僕はここにいる。
どれだけここにいるのかも、昼も夜も分からない。時間の流れもここではもう分からなくなった。
腰を痛めた父さんの代わりに、畑仕事へ行った帰り道、空から落ちてきた光が僕に入ってから、
僕の人生は変わってしまった。
空から落ちてきた光が僕に入ってから
僕の体は淡くエメラルドグリーンに光りだした。
怖くなって自宅に駆け込んだ。父さんがいた。
僕の光りに触れると、父さんが怪物になった。
母さんは台所で夕飯を作っていた。
怪物になった父さんが母さんに襲いかかった。
母さんを庇おうと母さんを抱えて飛び退いたら母さんも怪物になった。
怖くなって家を飛び出した。
助けを求めて隣のおじさんの家に行った。
ドアを叩いて助けを求めた。
出てきたおじさんも怪物になった。
ビックリして、怖くて、はね飛ばされるように逃げ出した。
おじさんや父さん、母さんだけじゃない。店じまいを始めていた八百屋のおばさん、
友達と遊んで家路へ帰る二人の子供、よくお菓子をくれた近所のおばあちゃん、
僕と出会ったみんなが怪物になった。
人間だけじゃない。
犬や猫、かがり火に集まる羽虫、生きているもの全てが千差万別に怪物になった。
空を飛んでいるカラスが黒い巨大な龍に変わったのには驚いた。
光りはだんだん、広く、強くなっていく。ドーム状に広がり、やがて大気に溶けていく。
弱くなる気配もないみたいだ。
また誰かにであったら巻き込んじゃう!
できるだけ人に出会わないように夕日が沈む道のりを、僕は秋の山へ逃げ込んだ。
夜になって寒くなった。
焚き火をしようと小枝を集めたあと、火種はどうしよう?と考えた。
ライターの火を思い浮かべると指先から火が出た。
小枝に引火したけどビックリして木の根につまずいてすっ転んだ。
指先の火はもう消えていた。
(あの黒いドラゴンすごかったなあ。)
そんなことを浮かべて焚き火を見つめていると、いつの間にか僕はうとうとしていた。
朝。目が覚めると山にいたはずなのに周りは草原になってました。
「草原?何で?ん?草原?」
違和感を覚えて生えてる草を一本抜いてみた。
「これ木だ!」
抜いたのはとても小さな木だった。木だけじゃない。見える家は角砂糖サイズ。
昨日の焚き火は僕の指先に押し潰されている。
そして更に驚いたのは、
「指が三本になってる!?鉤爪!?何で?…背中に羽!?黒い鱗!?」
立ち上がって自分の身体を見てみた。
「…ドラゴンだ!?」
驚いてすっ転んだ。
(目が覚めるとドラゴンって何の冗談!?え?何で!?やだやだやだやだ!とりあえず戻れー‼戻れー‼)
自分の元の姿を浮かべて念じてみる。…すぐ体が光って元の姿に戻った。
(変身できるようになった!?)
それから色々試してみたけど生き物になら何にでもなれるみたいだった。
それから数年、断崖絶壁の上にそびえるキャニオンブルクって山に隠れ住んだ。
ここなら誰もこれないだろうって。周りの生き物みんな怪物になってるし。だけど、
軍人「魔王バース!貴様は我が隊が撃滅する!」
勇者「魔王バース!俺が相手だ!」
そんなことを僕のところに来て、言いながら怪物になってく人が出てきた。
-知らないうちに僕は「魔王バース」になったらしい。
それから色々あって、こうして捕まってる訳だけど。
魔王バース
「フィーネ、元気かな?周りはまるで水のなかだけど
泳げないみたいだし、変身もできないみたいだし。」
特にやることもないのでぼんやりと、僕はいつも遥か上からさしている光を見上げていた。