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スカイリリー  作者: 青空鈴蘭
3/9

プロローグ 3 鉄の兵士(メタルソルジャー)

-果てなく続く雲海。

雲しか見当たらぬその上を、巨大な飛空空母が航行していた。

クレヴァディア王国上空、はるか北に位置する島国「ヤマト」の旗を掲げ、

船体全体に張られたソーラーパネルが太陽の光を煌めかせながら、空母はポツンと飛んでいく。

七千六百二十二名。一万人にも満たない人数で本国の約三十倍以上の国土を持つ国に、

この艦は喧嘩を売りにいくのだ。

第二次世界大戦の総戦死者数、四十四万六千五百人。

比べれば一見、どれだけ無謀に見える戦いかお分かりいただけるだろう。

しかも約四千人の民間人を乗せたままだ。


この一見無謀とも見える作戦の指揮官。

彼の名を御堂 進という。


作戦までまだ時間がある。人気のない格納庫。自らの愛機のコックピット。

シートに深く腰掛け、軍服を着た彼は深く鉄帽をかぶり煙草をふかしていた。

不意に通信画面に入電が表示され、彼は応答ボタンを押す。


?「よう!御堂の大将!一人で黄昏てんのか?へへっ。」


御堂

「大黒か。ここが一番落ち着くんだ。」


画面に映る髭面の筋肉達磨を見て、愚官は頬を緩ませた。


大黒

「管制室のモニターで大将が格納庫に入るのを見かけたからよ

、緊張してんじゃねーかと声かけたんだが、なんだぁ、いつも通りか。」


御堂

「愚官はいつも通りだ。そちらも変わりないようで何よりだ。」


髭面のハゲ頭は人が良さそうに笑っている。


大黒

「なあ、大将。その自分を愚官って呼ぶのやめないか?

大将が本国を裏切ってくれなきゃ、俺らはメリス国で捨て駒か奴隷扱いだ。」


御堂

「こんな成功率三割にも満たない作戦にたったこの人数で挑ませる時点で愚官だよ。

しかも民間人を乗せたまま、撤退も今回は許されず、敗北は死に直結とくる。

馬鹿な作戦だと自分で思ってる。」


大黒

「この艦に乗ってる奴らは、みんなその作戦を織り込み済みな

馬鹿達さ。大将が気にするこたぁねぇよ。」


 


 -部下の手前、軍に入隊したのは国防の熱意により志願したことにしているが、

実際の理由はそんな上等なものではなかった。

なんてことはない。高校を卒業したが職も見付からず駅前をぶらついていたら

軍の勧誘隊に声をかけられたのだ。

飯はタダ。寮暮らしができて家賃も格安。給料も高くボーナスも出て銃まで撃てる。

おまけに肩書きは特別国家公務員。

二十歳にもならないケツの青いガキが飛び付くのにそう時間はかからなかった。

体格がいいだけの今までスポーツもろくにやってこなかった愚官は、最初の訓練で大いに吐いた。

吐いて焦った。高校での成績は中の下で学もない。武道の経験もない見かけ倒しだ。

このままでは張りぼて野郎と馬鹿にされる。焦った愚官は考え、筋肉の鎧に立てこもった。

起床のラッパが鳴るより早く誰より早く起床して、自分が担当する雑用をこなすと、

ランニングに始まり腹筋背筋腕立て伏せ、あらゆるトレーニングを実施した。

吐きそうになるまで飯を食い、武道の心得を持つ先輩を見つけると、頭を下げて指導を乞うた。

空手に柔道、合気道、剣道、相撲に射撃に銃剣道。

三年自らの身体をいじめ抜いた頃には、四十キロの装備を背負い山野を駆け抜け、

単騎で愚官の小銃は相手小隊を沈黙せしめるまでになった。


大黒はその頃から軍曹で、空手、相撲、射撃など、愚官を鍛えてくれる上官だった。

上でふんぞり返るのは性に合わねぇと昇級を拒み続ける変わり者で、

学歴はないが腕を持つ職人のような扱いだったと思う。

 愚官が努力を認められ、破竹の勢いで准尉になった頃、一通の命令書が届いた。

内容は皇室の要人警護任務。任務終了期間は未定。

要は体裁のいい厄介払いだった。


「あの馬鹿上官をぶんなぐったのが悪かったか。」

命令書が届く一週間程前、愚官は敷地内で部下が偉そうなおやじに虐められているのを見かけた。

ぶつかっただの下らない理由でわめき散らすおやじを、最初は正論でものの見事に完封したが、

やがて相手が逆上し警棒を持ち出したために正拳で一撃のもと沈めたのだ。

 口数は足らなく部下にも厳しいがそれ以上に自分に厳しかった。

自分で言うのもなんだが、あの頃部下達は愚官より、他の上官を軽んじているように見えた。

それは命令系統に支障をきたすことが理解出来ていた愚官は、本当の理由はそこで、

この前の出来事は丁度良かったのだろうと理解した。あの時その場で罰として

腕立て伏せ四千回を言い渡されたがやり終えて、けろっとしていたしな。

納得してその日は荷物をまとめ、次の日皇室へと向かった。


?「よう!新入り!俺っちは「谷矢 昴」技術少尉。お前と同じ左遷組だ。

上官の娘さんに手を出しちまってこの様さ。たにやんとでも呼んでくれな?」


皇居の案内人として出会った軽薄そうな優男。この日、愚官は後々親友となる男に出会う。

この艦に乗り合わせることが出来なかった親友に。


大黒

「何黙ってやがるんだ?大将が無口なのは今に始まったことじゃないけどよ。」


御堂

「いや、少し考え事をしていた。」


大黒

「ここまで来て考えたって意味なんてないだろう。

それより俺は祝勝祝いで大将が踊るやすきぶしが楽しみだ。」


御堂

「待て、何故俺が踊ることが決定している!?」


大黒

「踊ってくれるんだろ?何せ大将は真顔のまま人を笑い転がす名人だ。

新年会の翌日、大将の隊は特に使い物にならなかったよな?そりゃそうだ。

大将の顔見た瞬間、どいつもこいつも思い出し笑いで笑い転げて撃沈ときた!」


御堂

「わ、分かったからよせ!」


大黒「自分で狙ってやってないのがたちが悪いよな?最初に会った時からそうだ。

身体がでかすぎてまるでメットはお供えの鏡餅、靴は便所のサンダル。

ズボンは丈が足りなくてまるで半ズボンだ。

俺が面白がってジープに乗せて敷地内を練り歩いたの覚えてるか?

そんな奴が真顔のままくそ真面目な顔で堂々と乗ってるんだ。

見た瞬間全員笑い転げてことごとく撃沈。下手な機関銃より威力があらぁ!

あの時もし出動命令があったらヤバかった。

何せ駐屯地全てが一時的に機能停止したんだからな!?

ひっ、ひーっはっは!やべぇ思い出したら笑えてきた!」


御堂

「このおやじは毎度毎度、人で遊びやがって!いい加減やめろってんだ!」


大黒

「やめないね。今夜は大将のやすきぶしで笑い転げるって決めてんだ。

それに、ようやく眉間のしわがとれたな?」


御堂

「何っ!?」


大黒

「さっきは相変わらずと言ったが、ありゃあ皮肉だ。

そんな皮肉も通じないくらい余裕のない奴になんか、背中は預けれねぇよ。

おう、ようやくいつもの大将になったじゃねぇか?」


御堂

「コイツっ。」


大黒

「それじゃあ俺は作戦まで一眠りするわ。作戦前だ。肩の力抜いとけよ?じゃあな。」


言い終わると大黒は通信を切り、コックピットは再び画面の光だけがひかり、薄暗さに包まれる。


御堂

「はあ、敵わんな。ふふっ」


軽く微笑み、鉄帽をまた深くかぶり直すと、御堂は二本目の煙草に火をつけた。

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