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スカイリリー  作者: 青空鈴蘭
2/9

プロローグ 2 赤の姫巫女(フェニックスメイデン)

高い高い搭の上。

白い柱に白い壁。

本に囲まれたベッドの上で、寝起きの彼女はぼーっとしていた。

浮世離れした不思議な雰囲気を漂わせ、澄んだ白髪は前下がりなショートカット。

…アホ毛が一本跳ねているが。通った鼻筋に知的な瞳はエメラルドグリーン。

群青の生地に鈴蘭のあしらわれたドレス。チャイナドレスにも近いそれは背中があき、

ウェストはリボンで締められ、深いスリットが太ももまで入っている。

定時を過ぎても出てこない主を呼びに、一人のメイドがドアをノックした。


メイド

「姫様!コンスタンス様!朝にございます!お目覚めですか?」


コンスタンスと呼ばれた姫

「ふぁ、ふぁい。ベルさん、おはようございます。」


ノロノロと立ち上がったお姫さまは、これまたノロノロと扉の前まで行き、鍵をあけて扉を開いた。


ベルと呼ばれたメイド「おはようございます姫様。また遅くまで読書されていたのですか?

本日は大切な式典がございますから夜更かしはくれぐれもなさいませぬようにと申し上げましたのに。」


栗色の髪を三つ編みにして背中までたらし、カチューシャを着けたロングスカートのメイドは、

やれやれと言った感じでため息を一つついた。


コンスタンス

「えーとっ、つい夢中になっちゃって。は、ははー、正直に言うと寝てないです。」


ベル

「もうっ、姫様、公務の最中に居眠りされても知りませんよ?

さあ、早く準備しますよ?ミラ様も霊樹の皆様も朝の公務をお待ちです。」


身支度を整え部屋を出ると、鳥が一羽、バルコニーの手すりに留まった。

赤とオレンジのコントラスト。長い尾羽根と飾り羽根をが風にそよぐ。


ベル

「これはミラ様、お出迎えありがとうございます。」


メイドはスカートを両手でちょんと軽く持ち上げ、優雅にその鳥へ礼をした。


ミラと呼ばれた鳥

「キューアー。」


軽くうなずき一声鳴くと、優雅に羽ばたいて、ミラは姫の肩へと留まる。


コンスタンス

「ふふっ、おはよう。ミラ。」


ミラの喉を指で撫でながら、私はミラとの出会いを思い出していた。

元々私は戦争孤児だった。産みの親の顔はもう思い出せない。

今から十五年前、獣人を虐げてきた前王朝は、

獣人の人権保護を始まりとした人権革命を掲げる革命軍に倒された。

当時五歳。戦争の余波で親を失った私。革命軍、今のガルアス王朝が行った戦勝パレード。

それに同行していたミラ、つまり聖獣ミラキュラスと出会った。

なんとなく昔を思い出していると。


シュドラス

「姉さあああん!!!!」


コンスタンス

「シュー君!?」


シュドラス

「カンヘル!止まれ!止まれって!うおちょおわわあ!?」


騎龍へ騎乗した義理の弟が騎龍ごと、柱に盛大に突っ込んでいた。


シュドラス

「いてってててぇ。」


コンスタンス

「シュー君!大丈夫!?怪我はない!?」


十九歳の彼は、現国王前妻の長子にあたる。私の義父にもなる国王は革命軍時代前妻を亡くし、

エルフの女王を後妻に迎えているが、未だ血縁を引くのはシュー君だけだ。

女王の連れ子である二人の姉がいるが、こんな子だけど、


シュドラス

「姉さん、誕生日おめでとう。プレゼ、ん…と。バタッ。」


ベル

「ダメっぽいですね。」


コンスタンス

「シュー君!?」


正当王位継承者なのだ。

まあ、私になついてくれてる、いい子なんだけどね。


ベル「私の方からカインズ様にご連絡いたしますので、姫様はお急ぎを。」


コンスタンス「で、でも…。」


ベル「時間も更におしております。姫様は姫様の御公務を。さ、お早く。」


シュー君がくれたリボンで飾られた小箱を受けとると、ベルに急かされて

私は搭の螺旋階段を降りはじめた。








-搭の中程にある大聖堂。

床には石畳が敷かれ、幾重にも並べられた長椅子は巡礼者で全て埋まっている。

静かに祈りを捧げる彼らの手元には、一様に質素なランタンが置かれている。

樹木が描かれたフードをかぶる彼らの先には、壁に描かれた世界樹が静かに

エメラルドの輝きを放って点滅していた。


巡礼者「静まりたまえ。」


巡礼者「神の御上に平穏あれ。」


巡礼者「我等は御身の怒りを見ております。」


巡礼者「御身の慈悲を知っております。」


巡礼者「神の心に平穏あれ。願わくば汝に安寧の眠りが続きますよう。」


-霊樹教。

三百年前に落ちたとされる、魔法の元を含んだ隕石。「バースシード」。

その隕石と共に飛来した「魔王バース」を信仰する宗派である。

生息していた生物を元に、数々の魔獣や獣人達を産み出したとされる魔王バース。

二百年前、この国「クレヴァディア王国」はこの塔に魔王バースを封印することに成功したとされ、

その力を塔から無数に配管を伸ばし、利用を続けている。

魔王バースは魔法の真相にして、破壊と創造を司りし実在する禍神とされる。

巡礼者達は貴方の理不尽に対する怒りは私たちが知っています。貴方の平穏を願いますので、

私達にその怒りが向かないよう、私達を御守りくださるようにと祈っているのだ。

魔王の力を塔が処理しきれなくなってきた場合、大聖堂の世界樹画は点滅する。

信者はこれが魔王の怒りだと恐れ、怯え、祈る。


その怒りを静めるために私はここにいる。

世界樹画横の祭壇に、白の布地に金の刺繍をあしらわれたフードをかぶる男が立つ。


男「かしこみかしこみ伏して待て。巫女様の御入座。ひくーくひくーく伏して待て。

巫女様の御入座あぁ。」


巡礼者が一様にこうべを下げる中心。世界樹画へと続くそこだけ開けた真っ直ぐな道を、

道近くの巡礼者の頭上を順に腕できり、祝福を与えながら世界樹画へと進む。

世界樹画の前はステージのように少し高くなっており、手前には木製の階段が置かれている。

私が階段を登ると祭壇の男からさっと、毛皮の敷物が差し出される。


コンスタンス

「ありがとう。エルマン。」


彼はエルマン=ユグド。この霊樹教の大司祭だ。


エルマン

「本日の神儀滞りなく行われることをかしこみ伏してお頼み申します。」


こうべを下げて膝をつき、両手のこうを地につける。

ミラルスと呼ばれる霊樹教における意味として全てを受け入れる、

私には何も心配はなく、神を受け入れますという構えだ。


私は世界樹画の前に敷かれた毛皮の敷物に膝をつくと、

世界樹画を北として北、南東、南、南西へと腕をきっていく。

この世界の魔法は身に余った魔法を使ったり、

魔法を使いすぎると術者は魔獣や獣人へと変わってしまう。

だから、魔王の魔力に触れるなんて普通は自殺行為。

世界樹画へと向き直ると、肩に留まっているミラへと目配せした。

だけど、私は世界樹画へと手を伸ばす。


エルマン

「魔王バース。魔法の真相にして、破壊と創造を司る禍神よ!

ここに聖獣を宿す巫女を神代に汝の怒りを吐き出したまえ。汝の熱を吐き出したまえ。」


エルマンが言い終わるかという同時に、ミラは一瞬輝くとそこには既にその姿は消え、

私の頬から背にかけて美しい神鳥のタトゥーが浮かび上がる。

私は十五年前、ミラに巫女として選ばれたのだ。


コンスタンス

「汝の頭上に平穏ありしことを。」


私は世界樹画へと手を触れた。






莫大な魔力が流れ込んでくる!

全ての魔力を背中のミラへと受け流し、他にそれが流れ込まないように必死に意識を保つ。

タトゥーはオレンジから赤、そして深紅へと輝き、

気を失わないように耐えた永遠とも思える数分が終わると、

私の背には焔でできた深紅の羽が揺らめいていた。

世界樹の点滅が消えていく。

巫女の仕事とは、魔王の魔力を塔が処理しきれなくなってきた場合、

その魔力を神鳥へと受け流し、塔を冷却すること。


エルマン

「神の慈悲は示された。汝らの頭上に平穏ありしことを。」


エルマンが立ち上がり閉式を告げると、巡礼者達は各々ランタンを手に持ち私の前へと並びだす。


コンスタンス

「汝の頭上に平穏ありしことを。」


私は世界樹画からミラへと受け流した魔力を使い、祝福を与えながら順に魔法の焔で灯りを灯していく。この大聖堂へと続く六千階段を登りここで魔王の灯りを受けとると、巡礼者達はまた階段を降り、かつて魔王が辿ったとされる聖地を順に巡り、聖地に灯りを灯していくのだ。


次第に魔力は減っていき、残った魔力を魔力が残り少ない配管に押し込めば私の仕事は終わり。


コンスタンス

「あ、そうだ。シュー君のプレゼント何かな?…わぁ。きれいなブローチ…。」


エメラルドとダイヤで作られた鈴蘭のブローチをつけて、

入り口で控えていたベルの前でくるっとまわる。

微笑ましそうに笑うベルを見て、私も笑っていた。

神鳥に選ばれた巫女は神鳥をその身に宿し、全てを神鳥へと受け流すことができる。

しかし、そのためにはまず神鳥を受け入れるだけの魔力耐性が必要。

当代の巫女が何らかの事情で巫女としての責務を果たせなくなると、

ミラキュラスは新たな巫女を選定する。

十五年前、ミラに適正を見出だされ選ばれた私は王の養子となった。

「赤の姫巫女」。それが今の私だ。

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