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イモータル  作者: kuroford
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緑川 延莉



「こ、ここが都会ですか?」

「はい、そうですよ。詩菜(しな)さん」

「人がくそ多いな」


山から下りてきた難波(なんば)家一同は、徒歩で歩くこと2時間、バスに乗ること2時間、電車に揺られること5時間が経過してやっと目的の都市の着いた。


目の前にはアスファルトの上でたくさんの人がごった返す光景。


昼頃なので、それぞれ昼食を求めてだろうか。たくさんの人が、手に財布や袋を持って歩いていく。


田舎者の龍翔(りゅうと)と詩菜は唖然とした表情でそれを眺めた。


「どうしました?こちらに来てください」

「あ、お爺様待ってください!」


岩慶の後を慌てて詩菜が追う。それに龍翔も続いて行った。




------



「これが…………」

「そうです。ここが龍翔の通う学校です」


言われ、巨大な建物に目を移す。


ぱっと見えるのは、学校というよりもお城みたいな印象だ。正面に学生が通るであろう石が囲った昇降口がある。

まわりが厚い石で作られた昇降口は、白漆色の塗装が施されたアーチに見える。


その上の校舎もまた洋風だ。


全体的に赤褐色の外壁に、点々と窓がはめ込まれている。見た感じ、教室は見た目より少ないのかもしれない。


両端はそれぞれ高低差がある校舎で、真ん中にいくごとに高くなっている。

その真ん中の校舎は一番高く、屋上はお城のように突出した屋根の造りで、その下の外壁には大きめの時計が取り付けられていた。


「すごいですー!お城みたいー!」

「ああ………」

「もう、お兄様!もっと喜んでください!」


興奮気味な詩菜に軽く頷く。

龍翔にとって初めて尽くしな事ばかりだ。

何に喜べばいいのか、反応が薄くても仕方がない。


圧倒されすぎて逃げ出したいくらいだ。


「龍翔君。大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ。早く行こう。爺ちゃん」

「そうですね。こちらです」


そう言って向かった先は、正面口ではなく左端の校舎だ。


そこにも玄関口があるが、石のアーチが囲ったものとは違い、こちらは全てガラス張りで作られている。来客用にある玄関だと理解する。

綺麗な絵画に鮮やかな花が添えられた花瓶が置いてあるのでそう確信した。


玄関口に入り立ち止まった扉の上部には、「理事長室」と書かれた札が張り付いていた。


すると、岩慶がこちらに念を押すように語りかける。


「いいですか?二人共、理事長は私の友人です。これからお世話になるのですから、無礼のないように。礼儀を尽くしなさい」

「はい、お爺様」

「わかってる」


緊張な面持ちをした二人に小さく微笑む。

振り返り、扉にノックをすると、中から「どうぞ」と短い声が聞こえた。


扉を開け中に入る。


広い空間だ。

まず最初にそう思った。


オレンジ掛かった濃いクリーム色の大きな壁。そこいっぱいに額に入れた賞状が何枚も飾られている。部屋の角にガラスケースなんかもあり、中にはきちんと整えられたトロフィーがあった。


次に視線を向ける。

そこに目的の人物がいた。


縁のないメガネを鼻にかけ、長く整えらた髪を腰まで垂らしている。

黒いスーツ姿で胸元は大きく膨らんでいる。

目つきは鋭く、前傾姿勢で机の上にある紙とにらめっこをしていた。


友人は女性だった、だがそれよりも、女性が理事長をやっていることに驚いた。


こちらに気づき顔を上げると、軽い挨拶をよこした。


「ようこそ、我が校へ。

私は緑川(みどりかわ) 延莉(えんり)。君たちを歓迎する」


これに反応したのは詩菜だった。


「は、はい!難波 詩菜といいます!

ど、どうかよろしくお願いいたします!」

「ほう、難波さんのお孫さんか」

「ええ、これからお世話になるので何かと面倒を見てやってください」

「難波さん。それはもちろん。私もあなたに面倒を見てもらった恩返しだ。全力をもってサポートしよう」

「いやはや、頼もしいですな」

「…………」


なんだ……、この女……。


一見和やかに見えるが、龍翔はまったく和めなかった。


岩慶と話していた緑川がこちらを一瞥(いちべつ)する。


「君が、難波 龍翔かい?」

「…………あんた、何者だよ?」


祖父との約束を破り、不躾に尋ねる。

緑川 延莉は、意外そうな顔をする。


「へぇ、私の闘気に気づいてたのか」

「闘気?ふざけんな。殺気の間違いだろ」


この部屋に入ってからずっと感じてた。

まるで巨大な岩を持ち上げているような圧迫感。気を抜けば一瞬で殺られる。

龍翔は自分で気付かないうちに額に冷や汗を浮かべていた。


「あれごときが殺気?天下の剣神様の孫は、どうやらあれを殺気と呼ぶのか。

ははは、剣神の似て気が抜けてらっしゃる」

「あ……?」

「なんだ?怒ってるのか?」

「たりめーだ。なんで爺ちゃんが関係あるんだよ」

「はは、弱い犬ほどよく吠えるとはこのことかな」


やけにつっかかってくる緑川は、龍翔をさぞおかしいものを見ているかのように笑う。

それは龍翔に油を注いだ。


「あんたは偉いか知らないが爺ちゃんを馬鹿にする権利なんてどこにもねぇ!

ふざけたこと言ってるとぶっ飛ばすぞ!」

「ぶっ飛ばす?身の程をわきまえろ。

子供(ガキ)が調子に乗るんじゃないよ」


キッと緑川を見据える。


「ーーなら、勝負しようぜ」


それに緑川は微笑で応えた。


「勝負?勝負とは対等なものがやるものだ。

私に弱いものいじめをする趣味なんて無い」

「なんだよ。怖気付いてるのか?」

「ふん、いいだろう。教育は教師の務めだ」


龍翔の方へ歩いてくると、そのまま通り過ぎ、くいっと首で付いて来いと示す。

しばらく腹正しさを感じてその場にいたが、黙って付いていった。



------



着いた場所は、だだっ広いグラウンドだった。

中心に人工芝が生えており、その周りを陸上部が使うのであろうトラックが囲っている。


人工芝のグラウンドは、部活動に(いそ)しむサッカー部や野球部が、声を張り上げていた。


「お、おい!あれって理事長じゃないか?」

「えっ?ほんとだ!延莉様がなんでこんなところに⁉︎」


緑川を目にした野球部が驚いた顔をする。

だが、龍翔は生徒に様付けで呼ばせるすぐそばの女に驚愕した。


龍翔は注目されている人物を怪訝とした目で見る。

緑川は視線を逸らし答える。


「勘違いするなよ。私が呼ばせてるのではなく、こいつらが勝手に呼んでるだけだからな」

「別に聞いてねぇよ」


そうこうしているうちに、練習中の生徒がどんどん集まってきた。


「延莉!こっち向いてー!」

「延莉様!どうしてこちらに⁉︎」

「理事長ーーー!」

「延莉様!愛してるー!」

「キャアー!延莉様ー!」


口々にラブコールをいう生徒は、どこから湧いてきたのか、グラウンドが埋まるほどに数を増やした。

皆が一様に興奮している。

この有様を見れば、ーー知りたくもなかったがーーこの女がどれだけ慕われているのかがよく分かった。


ピタッと歓声が鳴り止む。

何事かと思うと、緑川がゆっくりと挙げた手と同時に静寂に満たされたのだ。


そんな中、緑川の声だけが響く。


「全員、今すぐそこをどけ!」


瞬間、生徒達の動きがシンクロし、一斉に後ずさった。

残ったのは無人のグラウンドだけ。

緑川は髪をかき上げ悠然と真ん中まで歩いて行った。


な、何なんだ。この女は………。


困惑して立ち尽くす龍翔を眺め、心底可笑しそうな顔をすると、緑川は声を高らかに張り上げた。


「お前ら!私は今、この場で、この男に決闘を申し込む!」

「な………っ⁉︎」


あまりの衝撃に目を丸くした。


緑川の宣言は、瞬く間に生徒達に広がった。


「決闘⁉︎延莉様が戦うところが見れるのか⁉︎」

「でも、誰がやるんだよ」

「あの子じゃない?延莉様の前にいる」

「はぁ⁉︎あいつがやるのか⁉︎殺されるぞ!」


周囲が騒めき立つ。

この場の全員が緑川の勝利を疑っていない。

まるで決められたことのように龍翔が負けると断言していた。


ーーふざけるなよ!


体の奥底から湧き上がる憤怒が今にも爆発しそうだった。

こいつらは龍翔の実力を知らないで敗北だとのたまっている。

いったいこの場のイかれた信者どもは龍翔の何を知っているのだ。

だったら、見せてやろうではないか。


ーー俺が勝利する姿を!


動揺した心を固め、緑川の前に歩を進めた。

緑川は、ひたすら笑みを浮かべたままだ。


「さあ、始めようじゃないか」

「てめぇ………、絶対に殺す!」


正面にいる相手に、そう宣言し、決闘の幕を切って落とした。



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