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イモータル  作者: kuroford
3/5

異能持ち



2095年の世界大戦は、突然生まれた『immortalイモータル細胞』によって終局した。


だが、ウイルスが蔓延まんえんした地球には、世界で定期的にこの細胞を接種することが義務付けられる。


人類に害をもたらす病気は、『immortal細胞』のおかげにより、全て問題にならなくなった。


ーーそう思いこんでいた。


不可思議な能力を持つ者が現れ始めたのだ。

人々にとって夢の細胞は、予想もつかない進化の扉を開かせた。


まるで物語に出てきた魔物のように、強力無比な力を発揮できる者達。


その中には、自らが国のトップにという野望を秘めた者もいたのかもしれない。


しかし、世界に出来た絶対な唯一の法。

殺傷を禁じたことにより、なんとか世界に平和は保たれている。


………表面上では。


国々は能力を使える者を重宝し、その者達を『異能持ち』と呼んだ。




------



木刀での試合を終えた龍翔りゅうと岩慶がんけい)は、ぽつんと立つ山小屋に帰ってきた。


「ただいまー」

「あ!おかえりなさいませー!」


六畳ほどの小さな家。

部屋全体に畳が敷き詰められており、左端に小型の箪笥たんす)が置いてある。

正面奥の床の間には、観賞用の掛け軸に陶器が一つ飾っている。


扉を開けると、座布団に座っていた少女が元気に出迎えてくれた。


龍翔の妹。難波なんば) 詩菜しな)

ピンク色の和服を着こなし、黒い髪に二つ束ねた二つ結び。まだ14歳とあって幼い顔立ちをしているが、最近、家事を手伝い始めてくれる。


「って、お兄様⁉︎どうしたのですか!」

「ん?何が?」

「何が、じゃありません!怪我をしておいでじゃないですか!」


指をさされた頬に手を当てると、チクリと痛みを感じた。きっと木刀で擦れた時の傷だろう。


詩菜は箪笥の戸棚から木箱を取り出すと、小走りで龍翔にかけ寄ってくる。


「お兄様。手当てを」

「いいって!こんなの、つばでも付けとけば………」

「治りません!」


塗り薬を染み込ませたガーゼを押し付けてくる。

仕方がないとされるがままになると、詩菜は満足げに笑う。


「世話焼きなやつだな」

「お兄様のお世話は、私の仕事ですから!」


いつからそうなった!、と頭をぐりぐりと乱暴に扱うが、詩菜を嬉しそうに眼を細めるだけだった。


すると、扉が開く音が聞こえ視線を向けると、岩慶が小割りにされた薪を持っていた。


「ただいま帰りました。詩菜さん。薪はこれぐらいでいいですか?」

「お爺様!おかえりなさいませ!

はい。いつもありがとうございます!」

「いえいえ、いいんですよ」


お互い敬語ではあるが、家族の仲である、やんわりとした雰囲気が流れている。


「とりあえず、飯にしようぜー」


龍翔の腹が大きく鳴る。

朝からなにも食べてないから、待ちきれないようだ。


「龍翔君。君は無しと言ったはずですが?」

「あれマジだったのかよ!」

「ほほっ、冗談です」


いち早く動いた詩菜は、隣の調理小屋に忙しく料理を作る。その間、しばし祖父と会話をする。


「それにしても、君はとても才能がある。

最初の技。『水切りみずきり)』は本来、相手が打つ攻撃を横に受け流してから放つもの。

それを鍔迫り合いで誘うとは、いやはや老人には思いつきませんね」


自分だけ持ち上げられる発言に、少々遠慮気味に話す。


「それを言うなら爺ちゃんもそうだぜ?

あの場面であの身のこなしもそうだが、その後。『登流とうりゅう)』は、敵の振り降ろしを避けながら入って斬り上げる!

だろ?なのに、爺ちゃんはワザと俺を懐に入らせてから斬ったんだ。

爺ちゃんも充分すげぇよ」


お互いが深く剣の技術を話し合う。

もしかすると、異質な光景だと言われるかもしれないが、これが難波家の形なのだから仕方がない。


どれぐらい話していたのか。

詩菜が隣の小屋から矢継ぎ早に料理を運んでくる。


「ごはんが出来ましたー!」

「おお!今日は魚の塩焼きか!」

「これは美味しそうですね」


ちゃぶ台の上に並べられる昼食を三人で囲む。ほくほくと湯気を立てる白米に味噌汁。

真ん中にあるのは、こんがりやけ目の入った白身の魚だ。

いただきます、と合掌して食べると、口に絶妙な塩加減の白身魚の旨味が口いっぱいに広がった。ああ、うめぇ!感想を言ってやろうと詩菜の方を向けば、どういうわけか、プンスカとご機嫌ななめになっていた。


「もう、二人とも!いつも剣術の話しばかりしないでもっと別の話題をしてください!」

「そんなことねぇよ。別の話題もしてるって」

「では言ってみてください」

「…………………」

「出てこないじゃないですか!」


やばい。全然出なかった。

ここ一週間なんてほとんど剣術の話ばっかだ。


「だから、はい!あ〜ん!」


そう言って、白身魚を小さく箸でつまんで龍翔の口に近寄らせる。


「なんだこれ?」

「お兄様にお仕置きです」

「………………」


ちらっと祖父を見ると、目で構ってあげなさいと言うのでしょうがない。


大きく口を開けると、すぐさま食べ物を放り込まれた。


「やったー!お兄様に食べていただきました!

お兄様。お味の方はいかがでしょうか?」

「ん、うまいぞ。ありがとな」

「きゃ〜〜〜っ!」


なにがそんなに嬉しいのか、詩菜は両手を頬にあてて、身をくねらせている。

妹の将来が気になってしまった兄は、苦笑いするほかなかった。


昼食を皆が食べ終わった頃、龍翔は祖父のいる方向に向き変えた。


「で、何か話があるんだろ?爺ちゃん」

「なぜ、そう思うのですか?」

「朝の試合がそうだ。急に勝負を仕掛けてきたりさ。いつもの爺ちゃんらしくねぇよ」


岩慶は手のひらであご髭を何度か触ると、ゆっくりと口を開けた。


「実はですね。龍翔君と詩菜さん。

お二人には、この家を出て、学校に行ってもらおうと思います」

「「ーー学校?」」


唐突、ではないが、聞きなれない単語に二人して目を丸くした。


岩慶は龍翔たちの反応を伺うと、早めの口調で付け加える。


「もちろん無理にとは言いません。

ただ、このまま勉学も、そして社会も学ばずにいてはいけないと私は考えます。

この家を離れることになりますが、きっとお二人の力になると思うのですが、どうでしょう?」

「「………………」」


今、龍翔の頭の中には、学校という言葉がぐるぐると回っていた。

正直、めんどくさい気持ちがある。勉学など学ばなくとも、このまま山で過ごした方が気が楽でいいと思っている。

しかしその反面、未知のものへの憧れというのだろうか。山で暮らしていても、学校の知識はある。学生が自らの足で歩き、朝から夕方まで勉学を学ぶ。規則正しい生活をすることは、剣術でも大事な精神修業になるかもしれない。


なにより、食堂とやらに行ってみたい。


横目で詩菜を見ると、目を輝かせて両手を合わせていた。


「お兄様!学校に行きましょう!」

「お、お前はなんでそんなに乗る気なんだよ」

「だって学校ですよ!学友というものを作ってみたいです!」


どうやら学校の認識を少し間違っている気がするが、詩菜も好印象を持っているなら問題ない。


龍翔は真剣な口調で言った。


「爺ちゃん。俺、学校に行きたい」

「私も行きたいです!」

「そうですか。わかりました。では、説明はまた夕方頃に。龍翔君は、私と午後の稽古をしましょう」

「わかった」

「了解しました!」


詩菜は頷くと、空になった食器を調理小屋に運んでいった。

龍翔も詩菜と自分の座布団を片付けるために立ち上がった。

すると、岩慶が声をかけられた。


「龍翔君」

「ん?なんだ爺ちゃん」


やけに沈んだような顔をこちらに向けるので、龍翔は少なからず動揺した。


「どうしたんだよ?」

「稽古の後、君には別の要件があるので時間をもらえますか?」

「別にいいけど、なんだってんだ?」


再度聞いてみるも岩慶は、


「後で話します」


と、口を閉ざすだけだった。


そして、そそくさと逃げるように出て行った。





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