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イモータル  作者: kuroford
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異能



俺、難波なんば 龍翔りゅうとは木刀を右手に持つと、背中を見せる相手、難波なんば 岩慶がんけいに向かって突進する。


何千、何万と振ってきた木製の柄を握りしめ、10メルほどの距離を一気に縮める。


大抵の剣術家であれば、このまま隙だらけの後ろ姿に一本入れて終わりだろう。だが、俺が相手にしているのは、かの剣の頂点を極めた男。そうやすやすとは刀を当てさせてはくれまい。


「………………そこですか。龍翔君」

「ーーッ⁉︎」


あと3メルという所で振り向き、さらに木刀を突き出すあたりは、もはや刀と一体化していると言ってもいい。


丁寧な敬語とうらはらに 強烈な突きを放つ。

伸びた木刀は右の頬にかすり通り過ぎた。


「よく見極めました。また腕を上げましたね」

「……………爺ちゃん。この戦いだけは、なんとしても負けらんねぇ!!」


今朝方、祖父から提案をもちだした。

木刀をつかった試合で、負けたほうは昼食は無し、と。


それは龍翔にとって負ければリスクの高いものだが、かの『剣神』と呼ばれるほどの強者からの誘いだ。乗らないわけにはいかない。


しかし、実際に試合を行えば嫌でも感じる。

祖父の圧倒的なまでの才能を。実力を。


「はあッ!」


二人はお互いの木刀が、伸ばせば当たる距離で止まると、火の出るような打ち合いを続けた。


俺が前に出れば、同じだけ下がり岩慶が攻撃をさばく。そしてむこうが出ればこちらも木刀をさばく。

そのまま木刀をつばぜり合いに持ち込ませるも、筋力量で勝る祖父に押し込まれる。

このままいけば、大きく後退させられ、『剣神』に滅多めった打ちにされる。


龍翔はそんなの意にも介さないとばかりに口の端を吊り上げた。


「ははっ!だったらこれでどうだ!」


長年、祖父からの辛い修業を経て、教わってきた剣技。その一つ!


つばぜり合いの状態のまま、龍翔は手首の力を抜いて木刀を少し引いた。

当然、岩慶は前につんのめり、何も無い場所に木刀を当てる。大きく空振りをした姿勢で固まる祖父の無防備な胸に、左側から木刀を横薙ぎに振りかぶる。


まるで流れる川の如し。相手の攻撃を最大限さばき、空いた箇所に痛烈なカウンターを決める剣技。その名をーー


「水の型一番『水切りみずきり』!」


祖父の厚い胸板に、吸い込まれるように龍翔の攻撃が軌道し、当たる直前、


「消えた⁉︎」


今度は龍翔の木刀がから振った。目の前には確かにいたはずの祖父の姿がかき消えた。


瞬間、下から殺気を感じた。その先を見ると、龍翔の真下には、体を逆くの字にした岩慶の姿に目に映った。


岩慶は、横から攻撃する『水切り』に対し、縦、上体を後ろに反らすことで龍翔の技を避けたのだ。


考えている間に、岩慶はそのまま木刀の柄を逆に持ちかえた。


「水の型二番『登流とうりゅう』」


停止したまま、右下から左上にかけて木刀を斬り上げる。

龍翔のがら空きのあごめがけて飛んでくる『登流』を、すんでで躱し大きく飛びさった。


初めて向き合う二人。

緊張と疲労により、龍翔は紺色の道着を汗で湿らせる。まだ戦いが始まって五分も経過していないだろう。

しかし、祖父から放たれる闘気により、神経が極限にすり切れていく。


このままなら、龍翔は地力で負け、敗北は必須。状況を打開するならーー、


「『異能』を使いなさい」

「………いいのかよ。手加減できねぇよ?」

「私に手加減がいると?」

「それも、そうだな!」


岩慶は、自ら劣勢になるはずの『異能』の使用を、龍翔に強いてきた。


それは、己の剣技に絶対の自信からか………。


全身から血が沸々と煮え滾るのを感じる。体中の血脈が激しく流れ、心臓の鼓動は高らかに鳴る。

できる限り、落ち着かせようとしたが、もう限界である。そう言わんばかりに、体中が燃え上がる。


いや、比喩ではなく、現実にだ。


龍翔の後背から赤い炎が、渦を巻いて出現する。炎はまるで生き物のように、龍翔の背中から肩、肩から木刀を持つ右腕に移動した。


「ほほっ、いつ見ても美しいですね」

「火の型一番!『火閃かせん』!」


右腕を後ろいっぱいに伸ばした型から真上に

弧を描くように放つ『火閃』。

それに加え、真紅の炎が木刀に宿る。


龍翔は踏み込みながら振り下ろす体勢に入っていた。


敵の隙を作り出し、カウンターを狙うのが水の型。それはいわゆる受けの技術。それとは相反する自ら打って出る技。


苛烈な攻撃は火の如し。


岩慶は上から来る赤い刀をジッと眺めたままだ。


今度こそ当たる!

そう確信し、振り切った。


だがーー


「………………………あれ?」


手にくるはずの手応えがない。

それどころか、手に持つ木刀の重みさえも無くなっていた。


視線を右腕に移すと、あるはずの木刀は無く、地面には黒褐色とした物体が転がっているだけだ。


しばしの沈黙。

そして、至極当たり前なことに気づく。

龍翔が使っていたのは木刀は、樫で作られた木製の刀だ。そして、木は火に弱い。


つまりーー


「火力が、強すぎた!」

「ほっほっ、龍翔君は飯抜きです」

「こ、こんな終わり方なんてありかよ〜〜!」


龍翔の叫びは、山中に響き渡った。



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