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二章~新たなる恐怖~

『鬼ごっこ』二日目早朝――。

 鬼瓦島にまばゆい朝日が昇り、闇の恐怖からは開放された。

 だからと言って、何が安全になったわけじゃないが光というのは人の心に安心をもたらすというのを否応無く実感する。

 喉がカラカラになる俺はエリからもらってたペットボトルをシオリと半分づつ飲んだ。

 そして崖の下の周囲の森を確認し、馬連三連単の死体があるであろう崖の下に向かう事にした。今なら早朝だし、観察者が来るまでに回収出来るかもしれん。この島には監視カメラとかは無いようだからな。馬連三連単の落としたのはこの場所の上ではなく、傾斜の緩い手前だったから行く。

 それについてシオリは、


「鬼がまだここにいるかもしれないのに、荷物を回収してる場合じゃないんじゃない?」


「流石に鬼もいないだろ。一晩ここに俺達はいたんだからな。もう観察者が回収してる可能性もあるが、まだ回収してない可能性もある。明日になれば全て回収されてしまうだろう……明日を生きるには奴等の食料を持っておく必要がある。現代人の俺達は生水や生の果物で腹を壊す軟弱者だ。体調だけは万全でなくてはならない」


 そして俺達は『鬼ごっこ』二日目の行動開始しようとする。

 だが、シオリは硬い顔で黙ったままだ。


(まさか鬼――)


 ふと、シオリは股間を抑え言う。


「おしっこしてくる」


「は!? ったく、早くしろよ」


 そして、俺は木を背にして蹲踞の姿勢で待機した。蹲踞の姿勢とは相撲の力士が立ち合いの前にする尻を地面に付けず、しゃがむ姿で臨機応変に動ける姿勢だ。

 この森はいたって静かだ。

 静かであって欲しい。

 初めの海岸を南とすると、まだ北エリアは未知の場所だ。あまり探索範囲を広げたくは無いが、このまま食料も物資も手に入らないなら行かなくてはならない。

 けど、鬼を殺した方が早い……という考えも頭をよぎる。

 鬼瓦島の気候は変化しやすいのか、少しすると黒い雲が島の上に停滞し雨が降り出す。


「……雨か。にしても、やけに長いな。ウンコか?」


 もう十分ぐらい経つので、俺はそう思った。

 しかし、そうでない場合もある。

 鬼に出くわした場合だ。


「でも、悲鳴も無いからな……いや、用を足してる時に声も無くやられた可能性もある。何か嫌な予感がするな……」


 俺は、仕方なく立ち上がりシオリが向かった方角へ歩く。深い草木をかき分け進むと、シオリの声が聞こえた。


「来て! トキヤ!」


「シオリか?」


 そして俺は駆ける。

 やけに血生臭い匂いを嗅ぎ、鬼が近くにいる気配を感じた。

 この血の不快臭は鬼以外有り得ない。


「出て来るなよケンジ。鬼はまだ出てこなくていいんだ……」


 と、変な独り言を言いつつ森の中を走る。

 するとその開けた場所にシオリがいた。

 同時に死体を見た。

 バラバラにされた死体だ……。


「うっ……」


 俺は胃の中のモノを戻しそうになるが、ギリギリでこらえた。

 ムダな栄養を吐き出すわけにはいかない。

 仕方なくそのバラバラのパーツになる人物の推測をした。

 服装ら顔と胴体の体格から見て……。


「この男達は大人だな。しかも、全員鬼の仮面をして黒のスーツを着ているようだ。これは鬼瓦ファミリーの観察者……」


 そう、シオリが発見したのは鬼瓦ファミリーの観察者だった。

 死体片付けが死体になってしまっている。

 ミイラ取りがミイラになったようなもんだ。

 動揺する俺は呟く。


「何故、観察者が殺されてる?」


「鬼が人間を区別するとでも思うの?」


「観察者はマシンガンやダイナマイトを持って武装してるはず。もし、鬼に遭遇したらそれを使い鬼の接近を妨害しつつ逃走するはずだ。観察者は本来死ぬはずが無い。なのに殺されるという事は、相手は人を超えてるのかも知れない……それは鬼だな。だが、何かが引っかかるな……」


 シオリは無言のままバラバラ死体を見つめてる。

 よく気持ち悪くならないもんだ。

 俺はもうここにはいたくない。


「鬼は食べるか、鬼のウイルスを相手に植え付け鬼人病をうつす。このバラバラ具合は復讐とか憎しみでやったとしか思えない有様だ……」


 そう、こんなバラバラにする必要が鬼には無い。となると、個人的な感情とか思えない。鬼瓦ファミリーは許さないと言うような感情だ。

 血の流れ具合から見て今さっき生まれた死体。バラバラにしたのもほぼ同じ時間……となると、鬼しかいない。

 傷口の鋭利で美しいとも言える状態からそう判断した。俺は胸を切られた事があるから、鬼の爪の鋭さは体感済みだ。


「ま、いいでしょ。先を行くわよ。観察者だって邪魔なら殺すわ」


 この状況に興味なさげにスタスタと歩くシオリは先を歩いた。

 それに俺も続く。

 すると、一つの足跡を見つけた。


「鬼に見つからない場所は、この足跡を辿ればあるだろ」


「どういう事?」


 疑問顔のシオリに俺は教えてやる。

 コイツの顔を横に倒す疑問顔は中々かわいいな……まぁ誰にでも取り得はあるものだ。

 その足跡を指差し、言う。


「これはエリのブーツの足跡だろ。サイズ的にもこの足型もエリのブーツのはずだ」


 この足跡を追い、俺はヒロユキの秘密基地に行く事にした。


「やけにハッキリした足跡ね。まるで、わざと残したような」


「あまり疑うなよ。これはチャンスだ。この孤島の地図も無い以上、ここを北上して散策しなくちゃならないムダを省けた。たとえエリの罠だとしても、アジトさえわかればいいのさ」


「やけに自信ありげな顔ね?」


「ヒロユキのアジトなら乗っ取ってやるさ」


「なーる♪ それは面白いわ」



 ※

 

 

 エリが安全地帯と呼んでいたヒロユキのアジト。

 そこは鬼瓦ファミリーのアジトでもあるから頑丈な作りだろうし、そこにエリもいるだろ。ヒロユキはエリに首輪爆弾をつけて奴隷にしてるぐらいだからな。

 この先の目的は問題児のヒロユキと奴隷になるエリをどうにかして、鬼退治の武器と食料を調達する。それが二日目最大の目的になるだろう。

 俺達はそのまま足跡をたどると、その終点があった。


「ここで終わってるな……何か手がかりのようなものはあるか?」


「無いわ。探すしかないようね」


「そうか。やるか」


 二人で探す。


「どこだろうね。早く見つけないと、鬼が来たら困るわよ」


「脅かすな。けどそうだな。急ぐ必要はある」


 だが、中々見つからない。

 ここでは無いのか……?


「ここで消えてるって事は、この辺りなんだよアジトは。土の足跡が……?」


 一箇所だけ足跡が付かない土があった。

 そこを蹴ると、硬い土があった。

 手で少し掘り返すと下に鉄板がある。


「……おそらくここだな。地下のアジトなんだろ。でないと、安全地帯なんて言えないからな」


「そうね。いきましょう。また銃を乱射するかもしれないけど」


「おそらくマシンガンの予備は無いはず。あれは鬼瓦右京のミスでもあるだろ。あんなものを使ったら鬼の呪いに睨まれるだけだ。だからマシンガンはもう使えなくしてるはずだし、このアジトにも存在しないはず。鬼瓦右京は鬼の呪いに睨まれる事を恐怖してたからな」


 俺達はその地下アジトに向けて薄暗い階段を降りて行った。

 

 

 

 階段を下りきりアジトに入ると、左右に扉がある通路がある。そのどの扉を開ければいいのか? と悩んでると、手書きの矢印があり一番奥の108部屋に入るように書かれてる。


「多分、これを書いたのは……」


「そうね。あの女でしょうね。まだ貴方に未練があるようよ?」


「そんな事は知らん。もうエリも生き残る為に利用させてもらう。行くぞシオリ」


 ニヤリ……とした顔のシオリに、俺の中でエリへの気持ちが多少なりとも残ってた事を見透かされ、感情が乱れる。

 そんな簡単に男女の問題を割り切れると思うなよ? そんな事を思いながら、俺は108の部屋を開けた。


『……』


 そこはワンルームのそこそこ広い空間だった。テニスコート一面分ぐらいだろうか?

 パソコンとかは無く、テーブルとイスが無造作に置いてあり、その上にレトルトのごはんやカレーが食された容器が転がっていた。

 予想してたより簡素な部屋だ。

 他の部屋は違うのか?

 すると、茶髪のセミロングの美少女が俺を見据えていた。


「とうとうここまで来ちゃったのね。トキヤ君」


「ト、トキヤだとぉ!?」


 待ち構えていたように迷彩服のエリがいた。

 そして同じ迷彩服のヒロユキは素っ頓狂な声を上げ座っていたイスから転がり落ちる。

 おそらく、動揺するヒロユキを見る限りエリがここに導いたんだろう。

 外に出て鬼と遭遇してるエリとヒロユキでは、覚悟の差が違う。

 すると、横のシオリが俺をつつく。

 ヒロユキが何かをする気配を感じ、俺はヒロユキの太ももに発砲した。


「うぎゃあ!」


 エアーガンの改造弾だが、威力は人の皮膚を突き破る。

 この一発はいい脅しになった。


「死にたくなければこのアジトの事を話してもらおうかヒロユキ」


 中途半端な痛みでもがくヒロユキは両手を上げたまま話す。

 ここでコンバットマグナムの残弾は残り五発。

 無闇に撃ちたくはないが……。


「う、撃つな! 何でここがわかった!? さっきまで外出してたエリを尾行したのか?」


「雨が降って来ててその際に出来た足跡まではエリは意識してなかったようだ。それで俺達は助かったがな」


「エリー!」


 と、ヒロユキは吼える。

 とっとと俺にこのアジトの事を話せと促した。

 シオリはエリを警戒してるから、俺はヒロユキの話に集中した。


「……この孤島・鬼瓦島は知っての通り鬼瓦ファミリーの管理する島。だからこそ俺はファミリーの末端の役員の親父からこの場所の事は聞かされて知ってた」


「ほう、知ってたか。どういう風に知ってたんだ? この『鬼ごっこ』の攻略法とかはあるのか?」


「そんなんは知らん! てか、無ーだろ? だからこそ俺達はこんなサバイバル見たいな事をやらされてるんだ!」


 コイツの言葉に嘘は無さそうだ。

 確かに、この『鬼ごっこ』には攻略法なんてないだろ。実際に被害に合った奴がいる呪われてる『鬼ごっこ』である以上、誰かが鬼を殺さない限り終わらないデスゲームだ。

 そしてヒロユキの話は続く。


「親父のデータ見てて知ってたんだよ。この孤島の地形はな。それに、何度か来たこともあるし」


 どうやらヒロユキはここに来た事があるようだ。父親と歩いた道や、鬼瓦ファミリーが観察者として改造した場所をデータを閲覧する事と、過去の記憶とすり合わせてこのアジトにたどり着いたようだ。

 でも、このアジトはだいぶ簡素なアジトだ。

 もっとエアコンや自家発電設備。風呂や多くのベッドとかも置いても問題ないはず。

 そうしないと、この孤島を管理する側もこの孤島に来た時に滞在出来ないだろう。

 いや、滞在したくないのか。

 おそらく鬼瓦ファミリーも必要以上にこの孤島を改造出来ないんだな……過去に起きた鬼の呪いが恐ろしいから……。


「ヒロユキ、お前は父親から捨てたれた身だ。無駄な権力を振りかざしてると、鬼じゃなく観察者に始末されるぞ?」


「観察者は俺を……俺達を殺す事は無い。そんな事をしたら鬼の呪いを受けるからな。親父も鬼を恐れてる。そして、俺が生きて戻れば親父は今度は俺を恐れるんだよ」


「それは無いだろ。今度はお前も鬼の呪いに怯えなければならなくなる。親子でな」


 そしてエリの首にある猫の首輪のようなチョーカーを見た。

 視線でエリに今聞くと言い、


「ヒロユキ。エリにかけた爆弾首輪のコードを言え。でないとここで殺す」


「は!? そんなん冗談だよ! そんな高度な機能の爆弾首輪なんて持ってねーし!」


『は!?』


 俺達三人は絶句した。

 どうやらエリの爆弾首輪はヒロユキの嘘だったようだ。

 良かった、良かった。


『て、良くねーよ!』


 俺とシオリの飛び蹴りがヒロユキに炸裂した。

 そして首の猫チョーカーを外したエリは言う。


「貴方、さっきからトキヤ君と呼吸が合ってるけど何なの?」


「この『鬼ごっこ』での相棒よ。生き残るにはこの男が一番だと判断しただけ。貴女はヒロユキだったようだけど」


「それは仕方ないじゃない。そうするしか無かったし」


「そう決めてる時点で、貴女はそういう女なのよエリ」


 ……何だ? やけに険悪なムードだな二人共?

 すると、決定的な一言をシオリは言う。


「このデスゲームに色恋なんて持ち込んでたら死ぬだけよエリちゃん?」


「――このアバズレ!」


「まぁ、怖い」


 素早くシオリは動き、エリが取り出そうとする銃を奪う。

 そして腹に一撃を入れ、全身を調べて武器が無いかを確認する。

 その間、俺もヒロユキを床に倒して武器を隠し持って無いか調べ上げていた。

 コイツ……エロ本なんて隠し持ってやがる。

 これは没取しておこう……!


「これは捨てましょうねーエッチなトキヤ君」


「シオリ! これは俺の持ち物じゃ……」


「でも、自分の物にしようとしたよね?」


「……知らん」


 何か、シオリとエリの視線が辛いぜ。

 元はヒロユキの問題だ。

 俺は悪く無い!

 エロスは本能だからな。

 テーブルの上のカロリーバーを食べる俺はシオリとエリの視線に耐えた。

 エロスは本能だ!

 

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