↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/17

遭遇

 鬼瓦SPである観察者を見た後、俺とシオリは夜の闇に染まる孤島の森の中を歩いていた。

 幸い、満月が明るく孤島を照らしているから、全く先が見えないわけじゃない。

 海岸に行くまでに目印として木の根っこの部分に丸印を刻んでいた。それを目印に根城である洞窟に帰還しようと歩いているが、どうにもシオリという女は俺の先を歩きたがる。

 俺はこういう男を立てない女は好きでは無い。友人のエリなら男を立ててくれるから行動しやすかったんだが……。


「……お前は何故俺の先を歩く? 目印をちゃんと確認しとかないと、迷ったら終わるぞ? いつ、鬼と遭遇するかもわからんし……」


「ホラ、この木の根っこに丸印あるよ。私の記憶力舐めんじゃないわよ?」


「くっ……」


 何故か暗い森の中をこの孤島の根城である洞窟に迷い無く歩いて行くシオリの後に続く。

 まぁ、俺の予想が外れてしまったから今は我慢するか。ハイエナ行為は生き残る為に仕方ないと思ったが、鬼瓦ファミリーはそれを許さないようだからな。

 そして、俺もこのシオリを許せなくなるかもしれん……。


「……だから言ったじゃない。観察者は死体は放置しておかない。放置しとくと、必ずハイエナをする奴が出るからね。それを避ける為には、死体を回収するしか無いし、私達は生きてる人間から物資を奪わないとならない。鬼に殺されるか、鬼になる前にね」


「フン、もう終わった事だ。今日は俺の持っていたカロリーバーをやる。飲み水は洞窟に溜まってんのを飲めばいいから、今日は休んで明日から行動を開始するぞ」


「そうなるといいけどね。鬼は夜に行動するかもしれないよ。それに人間も」


 ……そうか。

 敵は鬼だけしゃない。

 互いに誰が鬼かわからない疑心暗鬼になった人間も敵なんだ。

 もし、寝込みを襲われたらアウトだ。

 ここには鍵の付いた部屋なんて存在しないんだからな。

 だが、今は休むべきだ。

 交代で見張りをして体力を回復させないとならない。

 流石に今日は疲れた。

 他の人間もそうだろ。

 鬼はどうだか知らんが……。

 すると、立ち止まるシオリの背中にぶつかる。


「おい、どうしたシオリ? 確かこの目印は海岸に行く時に初めの方に付けた目印。つまり、根城の洞窟までは近いって事だ……?」


 シオリの奴の反応が無い。

 腹でも下したのか?

 そのシオリの横顔は引きつっていた。

 瞬きをせず、ただ一つの方向を見据えている。

 それは森の奥の一点。赤い物体に注がれていた。


「……!」


 俺もソレを見た。

 全身の毛穴から汗が噴き出し、心臓の鼓動が早くなる。

 喉がやけに渇き、寒気と震えが止まらない……。

 くちゃぁ……くちゃぁ……と何かの繊維がゆっくりと引き下かれ、噛み砕かれてるような耳触りや嫌な音が聞こえる。

 そこには何かが存在した。


「……」


 ソレはこんな外見をしている。

 肩まであるボサボサの白い髪。左右のこめかみに鋭いツノ。野獣のような大きな口には鋭利な歯。そしてペンキを塗ったような真っ赤な全身からは殺気しか漂よっていない。

 俺達に背を向けてしゃがみ、肩まである白髪頭は老婆のようでもあり、全身をその口と同じく真っ赤であるソレは動いていた。動かぬ死体へと変わり果てたクラスメイトの誰かの片手を、鳥の手羽先のように喰った。


「グアアッ……」


『!?』


 そして、半身になるソレは手に持つ眼球を丸呑みし、俺達に気付いた……。

 ソレの充血した両眼がグググ……と動き、俺とシオリを捉えた。

 ソレの名を、俺は呟く。


「鬼だ……」


 全身の筋肉が硬直し、身体が動かない……。

 こんなものが存在するなんて、ゲームやアニメの世界だけだろ?

 ふざけんなよ……何が『鬼ごっこ』だ。

 こんな化け物をどうやって殺せば――。


「逃げるわよ!」


 シオリの言葉に弾かれるように俺は踵を返し、逃げる態勢に出ていた。

 大きく口を開け白い髪を悪鬼のように振り乱し、物凄い足音を立てて鬼は駆けてくる!

 俺とシオリはもう来た道などわからずとにかく逃げる。

 もう頭には開けた道に逃げる事しか無い。

 鬼は進む道の草を鋭い爪できざみ、丸太のような太い木でさえも人間が受けたら致命傷になる傷跡を残しながら真っ直ぐ進んで来る!

 この状況では、どうする事も出来ない。人で無い存在相手に、何か武器で対抗するなんて考えられなかった。


「……あああっ!」


 冷たい夜風を切りながら俺は無心で駆ける。

 すると、シオリは俺の手を引き違う道へ行かせる。


「こっちよ!」


「そっちは行き止まりじゃないのか? 草が深くて道が無いぞ!?」


 すると、シオリはその手を離し言う。

 その迷いの無い瞳は、戦士だった。


「死にたくなければ来なさい」


 駆け出したシオリの背中を見て、息を呑む俺は背後から迫る鬼のプレッシャーに耐え切れず、せめて死ぬなら二人で死にたいという感情のまま後を追う。同時に、シオリの別人のような雰囲気からここを逃げ出せるような錯覚すら覚えていた。

 そして、木が視界を遮るように生える場所まで来ると、鬼の物凄い足音は遠ざかった。

 そして俺は言う。


「振り切ったか!?」


「わからない! けど、この抜け道を使えば振り切れるはず!」


 俺はシオリの通る抜け道とやらを見た。

 倒れた巨木のスキマに人一人分の抜け穴があった。

 その奥は雑草が深く生い茂っていてまずそこを通ろうとは思わないだろう。


「奴に見つかる前に早く!」


 そして俺も巨木の下をくぐり抜ける。

 すると、何故か身体が途中で止まってしまう。スキマに余裕はあるはずなのに……!


「マントが引っかかった……クソ!」


 もう鬼が迫ってる!

 まだこっちに、気付いていないようだが時間の問題だ。

 このマントは死んだ母親が作ってくれたマント……破るわけには……。


「これは母親との絆だ。病気で死ぬ前に最後に作ってくれたマント。だから俺は……」


「絆は心で感じなさい! まずは生きて! 全てはそれからよ!」


 鋭利な爪で、シオリは俺のマントを切った。

 物凄い足音で近づく鬼は巨木に迫る――。


『……』


 互いに心音を止めるように息を止めた。

 キョロキョロとする鬼は、俺達を探している。

 互いの体温を感じながら、じっ……と鬼が去るのを待つ。


(来るなよ……来るなよ……)


 確実に鬼が近づいて来やがる。

 多少の迷いがあるようだが、確実に俺達の方に足を向けて歩いてきやがるな。

 ここは……仕掛けてから逃げるか、俺が囮になって……。


(――来た! 鬼が来た!)


 そして鬼は巨木の前に立った。


「ウギャアアアアアッ!」


『!?』


 突然の絶叫に俺は吐息が漏れる。

 まさかバレたか!?

 俺は胸のエアーガンに手をかける。

 このコンバットマグナムで戦うしかないか……せめてこのシオリが逃げる時間は稼がないとな……。

 俺はコンバットマグナムを抜いて立ち上がろうとする。それを抑えるシオリは、鬼を指差した。


「……?」


 鬼は何か新しい獲物を発見したように森の奥へ消えた。


「助かった……のか? そうか、助かった……」


「うん助かったね。けど、オシッコビショビショだね」


「あ! すまん!」


 覆いかぶさっていたから、俺のオシッコがシオリの太ももにかかってしまっていた。

 まさか、お漏らしをするとはな……。

 すると、シオリは俺を抱き締めた。


「……なっ!」


「よしよし、もう大丈夫。大丈夫だからねー……」


「……すまん」


 寒気で冷えていた身体の奥が、熱くなる。

 心が安らぐ……。

 これが女の身体か。

 これは心地いい。

 あったかい湯の中にいるようだ……。

 お姉さんのように俺の頭を撫でて、シオリは言う。


「でも、吐かないだけマシよ」


「そうか。悪かったな。落ち着いたよ」


「照れるなよ。甘えん坊」


「う、うるさい」


 この女に俺は変な気持ちを抱いてしまった。

 クソ……俺ともあろうものが……。

 そして、俺達は何とか鬼との『鬼ごっこ』から生還した。

 だけど、それはこの孤島から生還したわけでも無く、一度目の『鬼ごっこ』から生還しただけ……これは鬼を殺さない限り、死ぬまで終わらない。

 今回はシオリに助けられた。

 借りは借りだ。

 俺はコイツを命を賭けてでも守らないとならない……。

 今の『鬼ごっこ』での経験から導き出した答えを、言った。


「一週間だ……体力的にも精神的にも一週間以上はこの孤島にはいられない。早い段階で、討ち死に覚悟で鬼を殺さないとならないな。最悪、俺は死んでいい。お前だけでも生き残れ。お前に借りを作ったまま死ねないからな」


「うーん。それはこのイベントを乗り越えてからもう一度言ってくれる?」


 シオリは、その先を見据えていた。

 まさか鬼か!?

 一体、何を言って……。


「このイベント? ……!? お前達は!」


 クラスメイトの男の三人がそこにはいた。

 ウマガシラ、ウマガミ、ウマジリの三人だ。

 通称・馬連三連単うまれんさんれんたんがいた。

 競馬好きの三バカだ。


(三対二か……こっちは相棒が女。俺がやるしかないか)


 ここでまず、俺は命を賭ける事になった。

 

 

 

 馬連三連単を体術で倒そうと、俺は構えた。

 今回は不意打ちでも無いし、訓練されたSPでもない。

 なら勝つのは俺だ!

 自宅でテロメアとナノマシンの暴走に苦しみながら鍛えた体術を披露してやる。


「シオリ。動くなよ。俺が倒す」


「いやいや、敵は三人。私、それなりに……」


「先手必勝!」


 俺は腰を屈め、閃光のように駆け出した。

 ガッ! と真正面のウマガシラに金的蹴りをし、悶絶させ右耳を拳で叩く。

 脳震盪を起こしたウマガシラは倒れる。

 今の動きに反応出来ていないウマガミは吠える。


「トキヤぁ!」


「黙れ馬面」


 真っ直ぐ迫る拳をいなし回避し、前のめりになったままガラ空きになる背中に蹴りを入れる。そして一番屈強な馬シリーズの男が言う。


「どいてろウマガミ」


「悪ぃ、ウマジリ。トキヤをやってくれ!」


「任せろ――」


 そのウマジリの瞳に、俺は映らない。

 そう、俺はワープした。

 ようにウマジリは見えた。


「!? 真下だと!?」


「無駄口を叩いてるから標的を見失うんだよアホウ。撃ち抜くぜ!」


 地面に手をつき、真下からアゴを蹴り上げた。

 アゴが砕ける鈍い音が聞こえ、俺はフゥ……と息を吐く。

 まぁ、こんなもんだろ。

 これがヒイラギ式体術だ。

 すると、パチパチパチ! と拍手が聞こえた。


「やるねぇトキヤ。中二病のモヤシボーイだと思ったけど」


「当然だ。俺はやる男だからな。ヒイラギの……」


「あ、話長くなるならやめて。戦闘中だし」


「……あぁ、そうだな!」


 クソ! この女といると調子が狂う!


「ちなみにヒイラギ流は我流だ」


 ウマジリはアゴが砕けたはず。

 もう立ち上がれまい。

 ウマガシラとウマガミの二人は立ち上がる。


『おい、ウマジリ!』


「……」


 やっぱり奴はアゴが砕けたか。

 戦闘不能だな。

 起き上がった二人は俺に迫る。

 ウマガミがライターの火を棒に付けて叫んだ。


「ファイアクラック!」


「!? 炎!?」


 いや、ただのロケット花火だ。

 コイツ、遊びに来るつもりだったようだな。

 それは、俺にも少しあったか……。

 覚悟を決めた俺は突っ込む。


「当たっても、どうという事は無い!」


「うそん!」


 そして胸を抉るような両手突き入れ倒した。

 振り返る俺は、足元が無い事に驚く。


(地面に穴が開いてるのか!? 暗くてよくわからなかった――)


 足元の大きな穴に気づかない俺は足元の穴に落ちそうになると、全身に電撃が走り倒れる。


「何だ!?」


「スタンガンだよトキヤ!」


 シオリの言う通り、スタンガンをくらったようだ。


「女の言う通りスタンガンだ。おっと! 何てタフさだトキヤ。見た目とは違うな」


 立ち上がる俺はウマガシラに蹴りを入れるが外れた。そして、俺の耳に黄色い悲鳴が聞こえた。


「きゃあああ!」


「シオリ!」


 そしてアゴが砕けたウマジリがシオリに襲いかかる。

 ケラケラ笑うウマガシラはスタンガンをちらつかせ言う。


「甘いな。打撃を浴びせるには近寄らないとならない。それにはこのスタンガンをくらう必要もある。女もいずれ犯される……さて、どうする?」


「どうするもこうするもないさ」


 俺は愛用のS&W M19いわゆるコンバットマグナムを腰から抜いた。

 ウマガシラは一瞬怯むが、


「……エアーガンだろ? バレてるぜ」


「撃ち抜くぜ」


 銃口をウマガシラの額に向けたまま外さない。

 怒るウマガシラは顔を歪めながら叫んだ。


「テメぇなんぞに負けてたまる……か!?」


 瞬時にシオリはスタンガンを持つ手首を捻じ曲げ、みぞおちにエルボーをかました。

 それに満足する俺は、


「奴は俺の本気蹴りを受けた。気合いで動けるのは一分にも満たず終わる。それにシオリは弱く無い。そして、背中を蹴られたウマガミも背骨にヒビが入ってる。残るはお前だけだ」


 後ずさるウマガシラは震えながら言う。


「俺は鬼はかもしれねぇぜ……」


 ハハハハッ! と俺は高笑いする。


「お前等の中に鬼はいない。いたとしたらすぐに鬼になってるし、『鬼ごっこ』において仲良しこよしは成り立たないんだよアホウ」


 そう、今さっき鬼に襲われた俺にはそんな嘘は通じない。

 鬼になった人間はまともじゃない。

 まともな精神ではいられないはずだ。

 三人で笑って過ごすなんて、出来るわけがない。あんな人外の存在になって、まともでいられるわけがない……まともでいられたら、それは人間じゃないだろう。

 もしかすると、それが先見の明。

 ヒイラギなのかもな……。

 そんな俺の理想を砕くような嫌な考えが広がる。

 俺の耳にノイズが走る。


「お前等は何なんだ!? 二人でカップルのつもりか! それに、その女は誰だ? 鬼瓦学園の三年で見た事ねーぞ!?」


「だから他校の生徒のシオリよ。貴方達のクラスメイトに彼氏がいるの。だから『鬼ごっこ』に参加する羽目になったのよ。ヨロピク♪」


 と、変なポーズを取ってる。にしても――。

 彼氏か……。

 気になるな。

 スゲー気になる……。

 この女と付き合う男はさぞかし苦労するだろう。俺にはわかる。うん。


「ちなみに誰だ?」


「気になる?」


「少しは……」


「少し? じゃあ、教えてあげなーい」


「!? くっ! こっちだって知りたくも無い! アホウ! ドアホウ!」


「ドドドド! ドアホウトキヤ!」


 ベロベロベー! と舌を出して俺を挑発してる……まるで子供だな!

 コイツは本当にムカつくぜ!

 カワイイ顔した奴ほど、性格が悪いのは本当だな。

 けど、エリも結構カワイイよな……。

 それよりも、目の前の問題を解決する。

 コンバットマグナムを構える俺はウマガシラと対峙する。

 コンバットマグナムの残弾は多くない。

 ……ハッタリをかましてみるか。


「俺は空間をワープ出来る。今からお前を気配も立てずに半殺しにしてやるぜ?」


「空間をワープが出来るだ? アホかお前。鬼にも出来ない事がお前に出来るかよトキヤ。第一、それはエアーガンだろ? お前はエアーガン所持でよく注意されてたからな。そんなオモチャじゃ人は死なねーよ……」


「ほう、これで死なないならお前は鬼だな」


 そう、普通はワープなんてマンガやゲームの世界の事だよな。

 けど俺は飛べる。

 俺はナイフを取り出し宙に投げた。


「撃ち抜いてやるぜ」


 ウマガシラの背後に現れた俺は銃を一発撃つ。

 そして宙に投げていたナイフがウマガシラの肩に刺さる。


「ぐああああっ! 何でだ!? マジでワープしたのか!?」


「足元の大穴だよ。この大穴は少し先にもあるのが見えた。ならば繋がってるのはわかるだろう?」


「何がワープだ。それにお前……エアーガンを改造したのか? 鬼畜だな!」


 ウマガシラはナイフが肩に刺さる痛みより、右腕を撃たれた痛みの方が痛い事に気づいている。当然だ。俺のコンバットマグナムは特別性のエアーガンだからな。


「改造してあるのさ。本物の銃ほどの威力は無いが、威力の弱さで弾が体内に残るから傷口がいずれ腐るぞ」


「トキヤ……お前鬼だな」


「言ってろ」


 さて、こいつ等をどうする?

 このまま生かしておいても仲間にならないのは明白。

 だが、流石に人間を殺すのは躊躇するぜ……何か運が良ければ死なないようなものは無いか……。俺は考えていると、暗い視界の先が開けているのを見た。


(少し先は崖か。丁度いい。崖を使うか)


 俺は敵を崖から突き落とす事にした。

 これなら多少の罪悪感だけで済むだろう。

 そのまま崖の方へ歩けと指示した。

 そしてウマガシラは泣きながら言い出す。


「本当に殺すのか? 敵は鬼だろう!? 人間じゃないはずだ! 俺達は人間だぞ!」


「殺すさ。お前はあの時……海岸での事件の時にクボイにタックルをかまして逃げた。許すつもりは無い」


「お前が友情を大事にするとはな……ただの孤独な中二病のキザヤローだとしか思ってなかったぜ」


「その意見、全て受け入れよう。そして俺はお前を撃ち抜く」


 そして俺はコンバットマグナムの引き金を引いた。

 驚く顔のウマガシラは眉間に弾が直撃し、驚きの顔のまま崖の下に落下した。


「さて、後はシオリの近くで寝てる二人を……!」


 シオリは勝手に残りの二人を崖から落として始末してた。

 落ちた二人の絶叫が聞こえる事も無かった。

 おそらく……落とす前に気絶させる程の一撃を叩き込んだか、殺したかだ。


(あの女……中々やるな。敵にしたらマズイ奴だった。何の躊躇いも無く崖下に落とす覚悟は相当なものだ)


 その危険な女と俺は崖の下を見た。

 そしてここから離れようと歩き出す――が、


「グオオオオオオ――ッ!」


『!?』


 鬼が近くにいる!

 最悪だ!

 急いで逃げないとならない。


「シオリ、逃げるぞ」


「待って、やけに近くから足音が聞こえるわよ?」


「何だと? 馬連三連単を相手にしてて接近に気づかなかったか……」


 俺達は鬼との遭遇を覚悟した。

 確かにもうすぐ近くの林の中を駆けて来てる。

 今更逃げるならカウンターでもかましてから逃げた方がマシだ。

 勢いに乗った相手に対するカウンターは絶大な効果があるからな……。

 ナイフを持ち前に出る俺は言う。


「シオリ。俺が前に出る。お前は逃走経路の確保を頼む」


「わかったわ。鬼は足でも引っ掛ければいいでしょ。そしてさっきの崖を利用するのがいいと思うわ」


「冷静な事だ……来るぞ!」


 やけに冷静に判断するこのシオリの度胸に男として腹が立つが、コイツが相棒でよかったとも思う。鬼の駆ける勢いでカウンターをかまして倒し、崖まで戻って落としてやる!

すると、深い林からバサッ! と何かが飛び出して来た!


「こ、来い――鬼――?」


 呆気に取られる俺は、腰を抜かしてしまう。

 シオリも茫然としており、俺は目の前の存在を理解するのに時間がかかる。

 それは迷彩服を着た茶髪のセミロングの人間だった――。


「エリ!?」


 海岸で別れたエリと出会った。

 鬼かと思ったがエリだった。

 ……助かった。

 しかし、鬼の声が聞こえたのも事実。


「こっちよ! 鬼の正体を教えてあげる」


「わかった! 行くぞシオリ!」


 ちょうど良かったぜ。

 エリが向こうから来てくれたおかげで探さなくて済んだ。

 だが、シオリは立ち止まっている。

 何やってんだ!?


「まだ鬼とは距離がある。急げ!」


「……」


 そして、俺とシオリはエリの後を追いかけた。

 エリが隠れてたらしい洞窟に入った。

 入口が草木に隠れてるからそう簡単に見つかりそうも無い。

 ここで一夜を過ごすにはいいかもしれん。

 ふと、エリの変化が気になり尋ねた。


「そんな猫の首輪みたいのしてたか? それに迷彩服なんて……」


 確か、海岸では黄色の星が描かれたウインドブレーカーを着てたはず。


「これは、サバイバル用よ……」


「そうか。個性は人それぞれだからな」


 とりあえず、色々あったんだろ。

 こっちも色々あった……。

 その話はこれから聞けばいいさ。

 何はともあれ、俺はこの洞窟で鬼からの恐怖から一時的に逃れる事が出来た。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。