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女型の正体

 ドーン! パラパラパラッ……。

 赤い鬼雲が晴れた空に花火が上がった。

 もう朝日が昇ってきてやがる……丁度いいか。

 にしても、やけにイベントじみてやがるな。

 こっちは人殺しをしてたっていうのによ。

 すると黒いスーツを着たオールバックの中年の男が現れる。

 何故か観察者のSPはつけておらず一人だ。

 おそらく『鬼ごっこ』の確信の話をする為に周りに置いては置けないんだろう。

 そして『鬼ごっこ』管理者・鬼瓦右京は言う。


「ハッピーニューイヤー。おめでとう。君達二人が生還者だね。この『鬼ごっこ』によく生き残った。君達は我々、鬼瓦ファミリーの一員として学園卒業後は働いてもらう」


 これでようやく終わりか。

 このクソのような鬼の呪いからも解放される……。

 とりあえずこの鬼瓦右京の話を聞こうとする俺は、相棒を勤めて来た女の変化に気付く。

 それは無の感情から放たれる言葉だった。


「そう言って私をレイプして捨てたのは誰だったかな?」


 ニタァ……と捕食者の赤い目になるシオリは鬼瓦右京の腕に噛み付く。

 かなり深く噛まれたらしい鬼瓦右京は絶叫を上げ、シオリから離れた。

 そのシオリの噛む力は鬼の力そのものだった。


「貴様っ! 何をする!?」


「何を? 何かをしたのは貴方でしょう鬼瓦右京。私はシオリよ。前回の『鬼ごっこ』はもう忘れたのかしら?」


 その首をかしげる仕草のシオリに、鬼瓦右京の動揺は目に見えて加速する――。


「前回の『鬼ごっこ』のシオリだと!? ふざけるな! お前は……死んだはずでは……」


 流石の管理者でさえも腰を抜かして砂に尻餅をついてやがる。

 無様なものだな……管理もできない管理者というものは。


「い、今までこの島で生きていたと言うのか? この無人島で一年もの間……」


「私は自分の中の鬼と共に生活してたからね。新種としての再生能力があったのよ。だからこそ復讐者として一年間ここで待っていたの」


 どうやらシオリは本当に一年間、この無人島の鬼瓦島で生活していたらしい。

 どおりでクラスメイトでもないし、他の学園の人間って感じもしなかったんだ。

 この女からは前々から百戦錬磨の戦士のような感じがしていたからな。

 命のやり取りをしていて冷静なのはまともな感情がある人間からは有り得ない。

 やっとの思いで立ち上がる鬼瓦右京は言う。


「……『鬼ごっこ』の終わりの合図である鬼雲は消えたはずなのに! 何故まだ鬼がいるんだ!? この噛む力は鬼の力……鬼はクボイという少年であったはずなのに何故シオリに鬼の力が……」


「今回の鬼雲は消えるでしょ。クボイが鬼で終わったんだから。でも私は生きていたイレギュラー。貴方のように呪いから逃げて現状を理解しない人間には何もわからないのが今の状況。あの流れる雲と同じように、少しずつ鬼の呪いも変化してるの……」


 邪悪な笑みになるシオリに、俺は寒気がした。

 ここでシオリに対する疑惑は確信になった。


「呪いの変化……そうか! そういえば女型の鬼は消えてなかったな!」


「ご名答」


 すると、シオリは赤い発光と共に変身した。

 全身は血を浴びたように赤く、頭には二本のツノがあり口は野獣のような鋭い牙が生えている。微かに震える身体は明らかに血に飢えており、その充血した瞳が人間という生き物をどうしたいのかを全て物語っていた。

 そしてその胸には胸がある。

 ククッと笑い俺は言う。


「やはり……そうだったか」


 女型の鬼はシオリだった。

 全てのイレギュラーはシオリそのものだったんだ。

 一人動揺する鬼瓦右京は口をパクパクさせながら言う。

 目の前で見るイレギュラーの女型の鬼はやはり怖いんだろう。


「この現状はシオリ……君が作り上げたと言うのかね? この『鬼ごっこ』の変化そのものを……君のような少女風情が……」


 鬼瓦右京も俺もシオリの変化に動揺と不快感を示す。

 流石にここまで変わられると、女の嘘はアクセサリーなんて言葉じゃ済まされない状況だぜシオリ……。


(いい顔をしてやがる鬼瓦右京。面白くなってきやがったな)


 内心、笑いつつ俺はその二人の男女の会話を聞く。


「鬼瓦ファミリーの『鬼ごっこ』管理者である私の指示した鬼瓦動物駆除部隊が一月に一度、この鬼瓦島の動物駆除をしていたはず。よく見つからなかったな? 鬼の呪いを警戒して機械的に動物の嫌がる周波数や電磁波などを備え付けられないから草木をかき分けて動物を駆逐していたはずなのに……」


「確かに鬼瓦の動物駆除部隊は優秀だったわよ。島の南から北へ動物を追い詰めるように駆除して行き、全ての動物を消す。でもそのやり方だと団体行動だからそいつらを上手く回避して背後に回れば問題無かったわよ。奴等もルーチンワークで会話をしながら駆除してたから島の住人である私からすれば気付かれる事は絶無だと思ったしね。まぁ、貴方と同じって事よ」


「どういう……事だ?」


 女王の笑みでシオリは言う。


「上司に威厳が無いから部下にそれが伝わり部隊は意思統一の散漫な弱卒になる。それだけよ」


「私の……私の弱い意思の命令が部隊にも伝達していたのか……確かに私はこの『鬼ごっこ』を見たくもなかった。いつの間にか毎年のルーチンワークでしかなくなっていた……それがこの仕打ちか。やってられぬな」


 タバコを吸おうとする鬼瓦右京は震える手で火を点けられずにいた。

 そして怒りのあまり箱ごと握り潰してシオリに投げた。

 涼しい顔でシオリはそれを回避する。


「かなり記憶は甦って来たようね。良かった、良かった。なら説明してもらいましょうか。この『鬼ごっこ』の歴史の全てを」


 そして絶体絶命の鬼瓦右京は奴隷のように語りだす。

 江戸時代にも及ぶ昔――。

 とある山村さんそんで妖怪とされた食人鬼の一族はウラメシと呼ばれていた。

 その山村では死人を食う事は優れた者とされていた。

 時の流れと共に動物を食べても人間を食べるという事はその山村でもしなくなるが、ウラメシ一族だけはやめる事が無かった。

 特異な力はそれを持たぬ者からは畏怖の対象でしかない。

 そして、優れた力を持つウラメシ一族は下に見ていた多数の民に利用され、抹殺された。

 ウラメシ一族を淘汰したオニガワラ一族は人を食う事を禁止し、人々を導き時は流れ今に至る。


(……まるで俺とクボイの関係だな)


 ふと、俺は鬼として死んだクボイを思い出す。

 冷や汗が止まらない鬼瓦右京は喉の奥から声を絞り出すように言う。


「……そのウラメシ一族の呪いが鬼瓦ファミリーの繁栄と栄光をもたらす。だからこそこの『鬼ごっこ』は終わる事が無い。そしてその呪いは管理されつつ鬼瓦の為にこれからも続いていくのだ……ハハハッ!」


 投げやりな顔で鬼瓦右京は叫んだ。

 もう自暴自棄になるこの男にはこんな説明をしている場合じゃないんだろう。

 そして俺は自分の赤い右手を見ながら呟く。


「どうやら俺も、ウラメシの血筋を色濃く受け継いでいたようだな」


 鬼瓦右京の説明を過去の映像として自分の全身の血が脳にフラッシュバックさせ、俺に教える。そして『鬼ごっこ』の始まりの歴史を知り考えているシオリに俺は問う。


「俺がクボイに噛まれても鬼にならなかったのはお前の唾液のせいかシオリ?」


「よく気づいたわね。そうよ。だからこそキスをしたの。鬼のウイルスに対する耐性を生み出す為にね。元の一族の血筋ってのは想像してなかったけど」


「そして、俺を相棒に選んだ理由は?」


「反骨心。鬼瓦右京の前で見せた反骨心よ。クボイの方が的確で冷静だったけど貴方の方が人としての感情があった。クボイや他の人間は諦めの心が支配してからの行動だったけど、貴方はまず諦めてなかった。泥臭くても迷っても間違えてもこの『鬼ごっこ』に対する理不尽さを行動するエネルギーに変え続けられると思ったのよ……私のサポートがあればね」


 その瞳は鬼瓦右京に向けられる。

 その瞳は赤く、悲しみを秘めた鬼そのものだった。


「……時が流れれば少しづつ何かが変わる。鬼も常に理性の無い獣になるとは限らないのよ。それは今までの『鬼ごっこ』でわかってるはず」


「そんな事はない……私は管理者として……」


「現場を見ないから、貴方は大企業鬼瓦ファミリーの末端のこんな呪いゲームの管理者でしかないのよ」


「黙れ化け物が!」


「化け物結構。私は前回の最後に生き残った。けど生き残る者はここでの記憶を覚えておく事は無い。それを管理者として知っている貴方は私を犯して少女の肌を堪能した。今までもそんな事をしてたんでしょう……記憶が消えるなら都合がいいし、拒んだ人間は殺せばいい。この孤島なら殺人を犯しても誰にも気付かれる事が無いから」


「黙れっ! 私はこんな『鬼ごっこ』の管理者を記憶の中から消える事もなく毎年やっているんだぞ! それぐらいは許されるはずだ! どれだけ私がこの呪いに苦しめられてると思ってる! それに私に抱かれたお前は自分でどこかに逃げたはず……その背後を撃ったまでは覚えているが、鬼の呪いと銃弾による傷……どう生き残った?」


「鬼の呪いは生んだ子供に感染させたの。銃弾の傷は女型の鬼になった時に癒えたわ。今までの『鬼ごっこ』の歴史で貴方に犯され、殺された少女達の怨念が私を女型の鬼にさせた……断罪するわよ鬼瓦右京」


 この『鬼ごっこ』の結末の全てはシオリが仕組んだ罠だった。

 シオリは年齢的には高校生であり、前回の参加者として死んでない鬼だった。

 変化する鬼の呪いがシオリを蝕み、鬼ごっこが終わってもシオリの中の復讐心がシオリを女型の鬼へと変化させた。そして鬼の死のウイルスを子供になすりつけ生き残ったようだ。身体を憎悪と狂気で震わせるシオリは叫んだ。


「憎しみは殺意、殺意は復讐。私はもう一度貴方に会い、鬼瓦に復讐する為に鬼であり続け……進化した! 殺すわよ鬼瓦右京。過去に殺された少女達の全てを込めて殺す!」


 無表情のシオリはザッ……ザッ……と海岸を歩く。

 それを俺はただ見守る。

 これは他人が介入する事じゃない。

 復讐鬼の願いは邪魔出来ない。


(この復讐が終われば次は……)


 もうすぐ死ぬ鬼瓦右京は半笑いで自分の人生を振り返っているようだ。

 後ずさるその男は何故か冷静さを取り戻しながら言う。


「勝った……君と話し込んでいて良かったよ。これで私の勝ちだ! 化け物が!」


「死の恐怖でおかしくなったのかしら? 死ね――」


 女型の鬼に変化し出すシオリが鬼瓦右京を襲う――瞬間、俺は驚愕の光景を目にする。

 何故、あの女が――生きてるんだ?

 黒のスーツに身を包むセミロングの茶髪の女が銃を発砲し、その少女の名前を呟いた。


「エリが生きてる……だと?」


 この鬼瓦島で俺を助け、裏切る行為を幾度かしていたエリがシオリを撃った。

 撃たれたシオリは砂に倒れる。


「その黒服……そうか。だから生きてたのかエリ」


 どうやら鬼瓦右京に取り入って生きていたようだ。

 つまり、管理者である鬼瓦右京はこの『鬼ごっこ』に介入した。

 無論、それは鬼の呪いが許さない事。

 その罰はどういうものになるか……。

 まぁ、それよりもエリがシオリを射殺した。

 動かなくなるシオリを見るエリは満足したようだ。


「これで鬼は死んだ。これで『鬼ごっこ』は終わりよ……全て終わり」


 そのエリは俺に走り寄る。


「……」


 けど、俺はもうわかっていた。

 冷めた目で、俺は茶髪のセミロングの美少女を眺めていた。

 女型の鬼に首を飛ばされるエリの笑顔を――。

 シオリは鬼としての経歴が一年に及んでいたから基礎的な身体能力などが向上していて、銃弾程度では殺せない身体を人間体でも手にしていた。この孤島で俺がピンチの時に助かったのは、この身体能力のおかげだろう。

 そして、生首は海にドポン……と落ちエリは死んだ。


「ヒロユキを殺した時に生かしてあげたのに残念だわエリ」

 

 

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