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勇太くんと泉ちゃんシリーズ

僕の彼女の勇者討伐が不安で不当でたまらない

 僕には彼女がいる。

 黒髪でかわいくて、優しくて、思いやりのある子だ。


「勇太勇太勇太ー! ど、どうしよう! もうすぐ勇者がくるって!」

 

 と、焦った表情で言う魔王、泉ちゃん。正確には魔王女か。


「まぁ、魔王城の全戦力を持って物量で押せばなんとでもなるだろ。どうせ4人程度のパーティーだし」

「ぶ、物量ぅ? お、押す? 勇者を押し倒すの……?」

「よくそれで魔王が務まったな!?」


 少し抜けている所もまたかわいい。


「はぁ、じゃあ僕の言う通りに戦力を配置すること。いいね?」

「うん!」

「正面玄関に7割、背後に3割で勇者を迎え撃つ」

「ダメ!」

「なんで!?」


 この魔王城は特殊な魔法で、敵の魔法が発動しにくくなっている。だから、敵を侵入させてから退路を断ち挟撃するのが最も有効だ。


「それじゃあ魔物が死んじゃうでしょ?」

「そりゃあ一匹二匹は死ぬでしょ」

「それがダメなの!」

「無茶言うなよ」

「この役立たず! ばーかばーか!」


 うーん。なかなか無理難題をおっしゃる。さすがは泉ちゃんですな。


「じゃあこうしよう」

「どうするの? でも死人が出るのはダメだからね」

「宝物庫を使う」

「宝物庫?」


 この城にある宝物庫は確か伝説クラスの剣が眠っているはず。そこに勇者をおびき寄せる。


「宝物庫をどうするの? あ、わかった! そこで四天王に待ち伏せさせるんだね?」


「宝箱に爆弾をしかける」


「え?」

「入り口には価値は低い本物を置く。それで勇者を油断させて、奥の本命の宝箱に大量の爆弾を仕掛けてドカン」

「そ、それはちょっとー……」

「うん? なんで? 魔物に被害はでないよ?」

「で、でもそれじゃあ勇者が木端微塵になってかわいそう……」

「あんたそれでも魔王か!?」


 勇者相手にかわいそうですと? 泉ちゃんは優しいな。


「じゃあ、宝物庫の床に地雷を敷いて手足の一本でも吹き飛ばせば……」

「だ、だからダメだって! 勇者にだって家族はいるんだから……」

「でも北の四天王って勇者にやられたんだろ? だったらそんなに甘いこと言えないんじゃないのか?」


 と、優しく諭す。あくまで優しくね。すぐ泣いちゃうからねこの子。


「殺されてないよ? ヤバくなったら死んだふりしてでも逃げて! って言ってたから!」

「それで逃げるような四天王いらねえ」

「この間子供が生まれたって報告が手紙で届いたよ!」

「うん怒ろうねそこ」


 だ、ダメだ……。泉ちゃんが勇者に殺される未来しか見えないぞ。


「じゃあこういう作戦はどうかな?」

「ん? どんな作戦?」

「適当に戦いたい魔物だけを配置して、やられそうになったらお金をあげてもいいから逃げてって言っておくの」

「そこか! 勇者の財源があまりにも尽きないからどこから出てるのか疑問だったけど魔物からでてたのかよ!」

「お金で命が助かるなら安いものでしょ?」


 と抱きしめたくなるような笑顔で、両手を広げつつ言う。

 まあ泉ちゃんが言うのだから認めるしかないだろう。


「わかったわかったもう魔物はそれでいい。でも僕がなるべく勇者が早く撤退するように罠を仕掛けるけどいい?」

「う、うん。でも危ないのはダメだよ?」

「はいはい。全くどんな魔王だよ……」

「ありがとー! 勇太だいすき!」

 

 ぎゅーっと抱き着いてくる。うーんいい匂い。絶対に勇者なんかにこの子を殺させてたまるか。僕の知恵を絞った罠で追い返してみせる!


                       ☆

「勇者一向がヌメヌメの罠にかかりました!」

「続いて勇者一向がベトベトの罠にかかりました! ゴブリン部隊が勇者にノミを投げつけています!」


 と、続々と手下達から勇者が罠にかかる報せが届く。

 中央のスクリーンには、苦痛に晒される勇者一向の姿がでかでかと映し出されている。


「ず、ずいぶんと陰湿な罠だね……」

「わはははは! 愚かな勇者ども! 僕の罠におぼれて死ね!!」

「いやだから殺しちゃダメだからね!?」


「勇者一向の魔法使いが泣きだしました! もう帰りたがってる模様です!」


 よしっ! もう一息だ! 


「いまだ! 最終兵器『トロールの腋汗』をだせぇ!」

「もう名前だけでも嫌な響きだねそれ」


「魔法使いが失神! 僧侶が魔法使いを連れて逃げ出しました!」

「ふはははは! その程度か雑魚どもめ!」

「もう勇太が魔王になればいいよ……」

「ん? 何か言った泉ちゃん?」


「ダメです! 勇者と戦士は罠を突破しました!」

 野郎二人が罠を突破したようだ。だが問題ない。まだまだ奥の手はあるさ。

 泉ちゃんが少し不安そうな顔で僕を覗き込んでくる。任せなさいって。


「次だ! 『トロール、ゴブリン美女化計画』始動!」

「ゴブリンとトロールを美女にしてどうするの? それで不意打ちとかはダメだよ? トロールもゴブリンも力強いから危ないよ」

 と、首をかしげつつ泉ちゃんが聞いてくる。


「戦士が美女を助けました! 今からやらせますか?」

「まだだ! もう少し機会を待つ!」


 流石は勇者一向だ。いくら魔法使いと僧侶がいないといっても、足止め程度に魔物を向かわせたところであっという間に蹴散らしてしまう。


「恋に落ちた戦士が美女とキスをしました!」

「よし、いまだ! 魔法を解いてやれ!」

「勇太って鬼!?」

「戦士が泡を吹いて失神しました! あ、勇者が戦士をテレポートさせました! 残す所あと勇者一人です」


 よし! この調子なら勇者も一瞬で撤退するな。やつらを追い返したら、また泉ちゃんとの幸せな日々が待っているんだ!


「だ、ダメです! 勇者、ギットギトの罠を突破! キメラのフン爆撃も、ものともしません!!」

 だがやはり、そううまくはいかない。勇者は破竹の勢いで歩を進めている。この調子なら全ての罠を突破するのも時間の問題だ。

 くそ! もう少しで奴がここに来てしまう。最悪でも泉ちゃんには逃げてもらわないと。


「ちぃ! 奴は化け物か! 泉ちゃん、下がっててくれるかな?」

「いや! 勇太も一緒に逃げるの! あたしだけ逃げるなんてできないよ!」


 やっぱり、なんて優しいんだ泉ちゃん。なんでこんなにいい子が殺されなくちゃならないんだ! 


「大丈夫。僕はこれでも強いから。ほら、お前らも逃げろ!」


 と僕が言うが早いか、一目散に逃げる手下ども。いやいや忠義とかはないのかよ。


「いい? 僕は泉ちゃんに生きていて欲しいんだ。こんなところで勇者に殺されるなんて我慢ならない」

「で、でも! だったら勇太も一緒に逃げようよ?」

「それはできない。誰かが勇者を足止めしないといけないからね」

「やだやだ! 勇太も逃げるの!」


 と、目に涙を浮かべながら必死に懇願する泉ちゃん。あぁ。やっぱり泣かせちゃったか。

 いっつも大事な所で泣かせちゃうんだよね。ダメだなぁ僕は。


「さぁ行って! 僕にここはまかせて!」

 

 とだけ言って、泉ちゃんを後ろのドアから無理やり押し出す。ほぼそれと同時に、前のドアが開き、薄汚れた勇者が入ってきた。

 もともと白金色であろう鎧は、何か得体の知れない液体で汚れている。


「ふははは! よくここまで来たな勇者! 我こそが魔王だ! ここまできた褒美だ。一撃で楽にしてやろう」

「……やっと、ここまで来た。……やっと、お前を殺す事ができる……!!」


 感慨深そうに肩を震わせる勇者。溢れんばかりの魔力が、奴を包み込む。


「行くぞ! 覚悟しろ魔王! 今ここに、俺のすべてをお前にぶつける! ハァァァァァァァァァァ!」

 勇者の剣が黄金のオーラが纏い、大きく光り輝く。その光はまるで、世界に自分の存在を示しているかのように煌めいている。


 「イヤアァァァァ!!!!」


 次の瞬間、勇者がまるで疾風のようにこちらに突っ込んでくる。

 あまりの素早さに、一瞬虚を突かれる。このままじゃ致命傷を負ってしまう。

 速攻で魔法壁を築き、衝撃に備える。


 勇者が、部屋の真ん中の床を踏み抜く。

 その刹那。

 

 ポチッ! ドカァァァン!


 部屋の中央に仕掛けておいた地雷が爆発した。

 

 完全に足元がお留守になっていった勇者はあらぬ方向に吹き飛ばされ、壁に大きな音を立ててぶつかり、止まった。


「ふっ。甘いな勇者!」

 

 テクテクと勇者の元に近づき、容体を確認する。ほっ。どうやら死んではないようだ。足もついている。じゃああとはこいつをどこかに適当にテレポートして……。

 っと、その前にもう一度来られても面倒だし装備を全部剥ぐか。

 勇者の装備を全部没収し、指を勇者の額に当てつつ呪文を唱える。

 ふっ、と勇者の体は消え、静けさが辺りを包み込んだ。

 ふぅ。なんとかなったな。


「勇太を殺さないでぇぇーー!!」


 その瞬間、爆音と共に後ろのドアが吹き飛ぶ。

 そこには逃げたはずの泉ちゃんがいた。俺の事を心配して戻ってきてくれたのだろう。

 彼女は少しキョロキョロしたと思うと俺の姿を見つけ、泣きながら走ってきた。


「勇太ぁぁ! やっぱりあたしだけ逃げるなんてできないよー! ケガはない? 勇者はどうなったの?」

「追っ払ったよ。たいしたことなかった」


 泉ちゃんの顔がみるみる綻んだと思うと、僕に飛びついてきた。


「勇太すごい勇太すごい勇太すごい!」


 と、胸に顔を埋めつつ泣きながらほめてくれる。いやいやこれっぽっちもすごくないことは黙っておこう。


「はい勇太!」

 顔をあげ、目を瞑る彼女。これは彼女のキスのねだり方だ。

 

 僕は彼女の頭を優しくなでつつ、キスをした。





 

 



 

 読んでくれてありがとうございます。

 まだ三作しか書いてませんが、シリーズとしてまとめました。よかったらみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲラゲラ笑いました
2016/02/09 17:30 退会済み
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