43 終わるものなど一つとなく
学祭最終日は後夜祭、現在時刻は19:36。
女装コンは凄まじかった。
何というか、阿鼻叫喚。
私も篠原君もドン引きしてた。ちらっと窺った時には、篠原君は口角をひくつかせていた。
今は女装コンも終了し、花道の撤去。そしていよいよ軽音部のライブで、その舞台設定中だった。
「………凄かったね………」
「ああ………凄かった」
せめてすね毛は何とかしてほしかった、とかぼそぼそと呟いている。
ふと、私はちょっとしたからかい心で、
「篠原君は女装したりしないの?」
「なぜ。いやしないしない。ってか俺がするような人間に見える?」
顔の前でブンブン手を振る篠原君。
「いや、ほら意外と、」
「しないって。それにあれは女装っていうかただのヨゴレ系のネタだったでしょう」
まあ確かに。でも私はちょっと想像してみて、
「………案外似合うかもよ」
「絶対に会わないし、似合ったら似合ったでそれも嫌だよね」
引きつり笑いの篠原君だった。
「しかし、何だよな。男装の女の人ってかっこよかったり違和感ないんだけど、女装の男ってたいていネタだよな」
「そうだねえ。さっきの女装コンとかまさにそうだし」
男装コンテストってないよね。女子高だったらあったりするんだろうか。
「男装と言えば宝塚。女装が様になるのは、あれかな、歌舞伎くらいかな」
「ああ………そうだね」
よく思いつくなあ。やっぱり演劇関係だからかな。
「あ、じゃあ歌舞伎で」
「女装はしないよ。しないからね」
歌舞伎じゃないし、と篠原君は笑った。
「それにあれは女装と言うより女形」
「へえ………詳しいね」
「や、これくらいは日本史で習うんだよ。っても合ってるかどうかはちょっと自信ないけど」
あ、そうなんだ。わたしは世界史だ。
「まあ調べるのは好きだけどね。コッぺリアとかファウスト博士とか、無差別に調べたりもする。調べるのは結構好きでさ」
「おお、勉強熱心」
「テストにゃでないことばっかりだけどね」
篠原君は苦笑した。
そのタイミングで、いよいよ機材のセットが終わったらしく、お、と観客から声が上がった。
軽音部が舞台へ上がってきたのだ。
「あ、広川君いるよ」
「え、どこに?」
「ほらあそこ。左のギター」
指さした方を見て、ほんとだ、と篠原君。
広川君は私たちのクラスメートで、軽音部ではないんだけど軽音部の人たちと仲が良いから、準備期間中もずっと出るとかでないとか騒いでいた。出ることになったんだね。あとは、カラオケ予選のAブロックで北条君の直後で敗退してしまって二人や、見かけたことはある人何かで、全五人。
ヴィー………ンとチューニングの音。
やがて、前方中央の男子がマイクのスイッチを入れた。
『どうもォー、こんばんは。俺たち東高軽音部、本日は今日限りの「ロッカールーム」ッス』
ロッカールームて。ロックバンドにかけた………のかな。
「あんまり上手くないぞ」
ズバリと篠原君は言い、私もあははと笑った。
この軽音部の凄いところは、ほとんどの曲を自分たちで作詞作曲していることだ。
「去年は勢い重視で、迫力はあったけど歌詞とか全然聞き取れなかったんだよね………ヘヴィメタっていうのかデスメタっていうのか」
「そうなの? 俺去年は着てないからなあ」
へえ、と篠原君はステージを見る。そういえば言ってたね。
何だか間延びしたMCの後で、早速一曲目が始まった。
ドギャァァァァン―――――
とギターが掻き鳴らされ、MCやってた人とギターの女の子がコーラスで歌い始めた。紅一点の女の子とのコーラスは上手に高音と低音が別れて、去年と違って今年はかなり聴きやすい。さっきのMCで、某軽音部漫画に大いに影響されたと言っていたけど、その影響だろうか。
「すげー盛り上がってるなあ………」
ステージ至近でうえいうえいと跳ね上がって盛り上がってる人たちを見て、やや気圧された様子で篠原君は感心している。
「あれに混ざる?」
「いや俺は………遠江さんは?」
「あはは、私もちょっと無理かなあ」
例え行くにしても、自分一人で行ったんじゃ篠原君誘った意味ないし。
って、そうだった。
私、今篠原君とここにいるんだった。
うわ、わ、今さらいきなり緊張してきた。
誘った時は結構その場の勢いみたいなとこあったし、篠原君も割とあっさり承諾してくれたからそのまま流れでここにいるわけだけど。
うわーあ、どうしよう。
「ん、どうかした?」
急に黙った私を不思議に思ったのか、篠原君がこちらを向いた。わたしは慌てて手をぶんぶん振って、
「な、何でもない! 何でもないよっ! あ、暑いねそれにしても!」
いささか強引に話を変えるけど、篠原君はうんと頷いて、
「まあ締め切ってるしなあ。こんなに騒いでなければな」
ほとんどの人が団扇で扇いでいる。私や篠原君も然りだ。
「こういうのは好きなんだけどね」
「あ、言ってたね」
「うん。祭は参加するよりも外で観てる方が好きなんだ」
パタパタと自分の顔を扇いでいる篠原君。
「でも今日の演劇部はかっこよかったよ。そういえば、あの脚立から落ちたときの、大丈夫? 凄い音してたけど」
こう、ズゴォンって。
篠原君は後頭部をさすって笑った。
「皆に心配されるんだけど、全く何ともなかったね。思いのほか丈夫らしい」
それから、ふいっと篠原君は微妙な表情になった。どうかした? と訊くと、いや、と首を振る。
「あの時の篠原君は、ちゃんと祭の中にいたよね」
「………まあ、あのときだけね」
「どうだった?」
訊くと、篠原君は少し考える様子で、
「楽しかった………よ。うん、楽しかった。偶にはまあ、ああいうのも悪くはないな」
照れ隠しにか、わしゃわしゃと頭を掻く。あはは、と私も笑った。
ステージは一層盛り上がっている。皆も熱狂の中にある。
「青春………だよなあ」
ぼそっと、篠原君は呟いた。私にも聞こえるか聞こえないかっていう声音だったから、本当に独り言だったんだろう。
……………。
「あのさ」
私は篠原君へ、意を決して話しかけた。




