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42 そこから世界を見渡せば

 学祭は最終日で、後夜祭が絶賛開祭中。そんな時刻は現在19:12.

 仲井先生の驚きのアクロバットから始まったダンス部とその他のステージは、最後まで大いに盛り上がって終わった。ステージ至近に群がる連中はまだうおおとか盛り上がっている。できるなら俺もあの中に混ざって猿のように大はしゃぎしたいところであったが、さすがに宮野の前でそれをやらかすのははばかられた。

 しかし、少しエネルギーが有り余っているのが正直なところだ。

 不意に隣の宮野がふふっと笑った。

 どうした、と見ると宮野は笑みのまま、

「山梨君、あの中入りたかったでしょ」

「………いいやあ? そーんなことないぞう」

「またまたァ、ずっとうずうずしてたじゃないですか」

 別に行ってもよかったのに、などと言う。おいおい宮野よ、終わってからそれを言うかね。

 会場の興奮が少し落ち着いてきたところで、BGMが切り替わった。

 なんだかやたらとアヤシゲなBGMだ。それに合わせてスポットライトも赤や紫に代わる。

 どうでもいいけど、何か妙にいかがわしい雰囲気なのな。闇の中にこういう色のライトって。

『ハイ、皆さんいいですかーっ? ここで大いに盛り上がった血圧を一度下げるために、気になるお次のこのコーナー!』

 橙に赤い金魚のあしらわれた浴衣の女の子がマイクに向かって言うと、横の桃色に空色のとんだ女物の浴衣を着た男が、

『THE・女装コンテストォォォォ!』

 お前のテンションまだまだ高いじゃないかおい女装。

 BGMがやや軽快なものに切り替わるのに合わせて隣の宮野のテンションが弾きあがった。

 ああ、見なくてもわかる。そりゃあもう、よぉくわかる。

 だって宮野、全力で拍手しながらマジで飛び跳ねてるんだもの。

「うおっほほお! 山梨君! 女装コンですよ女装コン! 前行きましょ前前!」

 うおっほほおって、おい。

 問答無用にぐいぐい俺の手を引いて行く宮野に、俺は笑み交じりのため息をついた。

 俺もさっきこうすればよかったのかねえ。

『さあさあ今宵も漢に磨きをかけた女装たちがその美貌で寂しい独り身野郎どもを不毛に☆悩☆殺☆………!』

 拳を握り、一息に顔を真っ赤にして吠える女の子。その横でくるくる回る女装司会。会場はオオオオと盛り上がった。

 女の子が拳を突き上げる。

『独り身どもへ爆笑を!』

『オオオオ!』

『壁際のリア充どもへ冷や汗を!』

『オオオオ!』

『見てるかコラ壁際の貴様らァァァァ!』

 絶好調で叫んでるけど、あの女の子、何か嫌なことでもあったんだろうか。

 そしてその魂の叫びに追随し雄叫ぶ中央組。

 全っ然血圧下がってないじゃないか。

 むしろ鰻登り、いやもはやこれは滝登り。

 こいつらテンション滝登りだ。

 そして宮野もまた例に漏れず、セットされた花道に眼前まで突っ込んで、それはもうわくわくしている。

 中学からの仲ではあるが、俺は未だに宮野のこの辺の感性がよくわからん。

『さあ、本日その美しさを披露してくれる皆さんは五組各五名で計二十五名! 皆さん存分に悩殺されてくださいね! あ、それと、撮影はオッケーですがタッチは不可ですよ! それに言うまでもないですが、被写体は必ずこの花道を通る戦士たちですからね! 間違っても気になるあの子の写真とか隠し撮りすんじゃねェぞ!! ってなわけで、はい早速一組目行ってみましょー!』

 特設ステージではなく、本来の体育館ステージのプロジェクターに光が照らされ、男子………いや、女装五人組が映し出される。

『一組目はこちら! 三食のお伴はプロテイン! 鍛え抜かれた肉体美を見よ! 筋肉系美少女集団マッチョラーズっ!!』

 女装コンの要素がどこにも見えないぞ! 取ってつけたように美少女とは言ってはいるが。

 プロジェクター側の入り口が勢い良く開き、やたらと体格のいい浴衣集団が現れた。銭湯のゴリラ(失礼!)は威風堂々と胸を張り、のしのしとガニ股で花道を入場してくる。

 プロレスラーかよ。

 後に続く四人はそれぞれくねくねとしなを作って歩いている。

 男らしいんだか女らしいんだか。

 カツラと女物の浴衣を着てはいるが………壮絶な光景だ。隣の宮野は狂喜しているが。

 マッチョで女装ときたら、そりゃあ宮野は大興奮だろうなあ。

 花道をBGMに合わせて歩ききり、特設ステージに上った五人はそれぞれの配置につき、音楽のクライマックスで、

 一斉に諸肌脱ぎボディビルポーズをキメた。

 ドォォォォンと腹に響く音が響いた。

 会場中に歓声が充ちる。苦鳴と嬌声が半々だった。

 ………嬌声が半分もか。

 しかし………何だな。

 ただの筋肉集団じゃないか。

 出るとこ間違えてるだろ。何か全員テカテカしてるし。

「いやああああ凄っ凄いですよ山梨君! 筋肉凄ォォォォ!」

 宮野さん大興奮。痛い痛い、痛いからそんなにバシバシ叩かないで。

 ってか、よく見ると向かって左のあれ、北条氏ではありませんか。

 スゲェ………本当にできないことは何もないのか。

 しっかし、暑いなあ。

 ただでさえ体育館は熱気が籠もってもの凄いのに、その中心に突っ込んできたんだから当たり前だ。

 でもこの熱気も、今年で最後なんだよなあ。

 新しいところに行けば、大学なり企業なりに行けば、そこにはそこの熱気ってものもあるんだろうけど、ここでこうして盛り上がることができる熱気は、今で最後なんだ。

 卒業して、その後でもう一度ここに参加しても、今ほどの盛り上がりはないだろう。

 だから、俺ももう少し暗い乗ってもいいよなあ。

「キャァァァァ! いやぁぁぁぁ! ちょ、凄、山梨君見てくださいよアレ! アレ! な、もうこれ放送できませんよ!?」

 ………でもさすがにこのテンションは無理かなあ。

 周りを見れば、誰もかれも血気盛んに騒いでいる。

 まさに祭。

 青春だよなあ。

 その色は一色じゃない。宮野くらいノリにノッてノリノリな奴もいれば、俺みたいにいまいち置いてかれてるような奴もいる。青春ってのは、やっぱりこれくらい混沌としていて、そして楽しいものなんだろう。

 祭も、青春も、いつか必ず終わってしまう。だから思う。この時間がずっと続いていけばいいのに。

 叶わない願いほど願いたくなる。

 でも皆知っている。

 終わらない祭はない

 終わらないことなんて決してできない。

 いずれ必ず青春は終わる。

 だから、今この瞬間を、全力で騒ぐんだ。

 祭なんて、そんなものだ。

 そういえば、篠原と遠江さんはどうしているだろう。あの二人もどこかで青春してるんだろうか。

 いいねえ。


 それじゃあまあ、俺もそろそろ舞台を降りる頃合だ。残りは主人公たちに任せるとしよう。

 なんて、まるで物語みたいな台詞を囁いたりして。

 ああ、ほんと、いいよなあ。

 青春万歳。

 唸れ青春。

 ビバ青春。



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