39 その輝きこそ青春の祭典
東高の学校祭、その一般開放は全て終了した。現在時刻16:23。東高の生徒はこの後閉祭式、それから後夜祭なのだそうだ。まあうちもそんな感じだから、どこもそうなんだろう。
今別れてきた梓と金村のことを思う。二人とも三年ぶりだったけど、梓は相変わらず明るくて、金村は相変わらずぱっとしなかった。二人にとってはウチはどう見えていただろう。梓は変わってないと言ってくれたけど、そうだろうか。
二人は、少なくとも梓は楽しそうで、多分高校生活に成功していて。
対してウチは、敵だけは作らないようにしながら、でも味方もいないような生活を、三年間。
多分ウチは、失敗している。
そしてそれをどうしようという気もない。
きっとウチはどうしたって、どんなことをしていたってこうなっていただろうと、素朴に思うからだ。
なるべくしてこうなった。
こうなるしか、なかったんだって。
ただ梓がウチのことを覚えていて、昔と変わらず話してくれたことを、ウチはひっそりと感謝する。何かに、あるいは誰かに。
そして梓に。
シノハラ君………だったか。あの人がひっくり返ったのが演出だったのかあの人のミスだったのかは結局わからずじまいだったけど、でもあの人の描いていたあの絵が何を表わしていたのか。劇中では何と最後まで明かされなかったけれど、ウチには何となくわかった。
あの絵は、多分………
自分の学校の学校祭のことを考えてみる。時間はないのに足りない人手。やる気のある人とない人との明確な温度差。このままでは、少なくともウチのクラスはあの絵の描いていたような姿にはなれない。かといって、今まで目立たないようにだけ注意して立ち回ってきたウチの声なんて誰にも響きはしまい。
こんなときに今までのウチはどうしていたか。
いや違う。
あの三年前までのウチならどうしていた。
自転車のスピードを上げる。頬に触れる風が気持ちいい。
残り時間は一週間もなくなっている。するべきことはいくらでもある。そして、ウチにできることだって山ほどある。
さらには、学祭に梓が来るのだ。未完成で中途半端な学祭にして、恥を晒したくはない。ウチは途中参加だったから、とか、そんな恥ずかしい責任逃れをする気もない。
であれば結論は簡単だ。
ウチにできることを全てやる。全力を尽くす。
別に特殊技能が必要な作業はない。幸いにも裁縫は得意だ。全力でやれば、材料さえあれば必ずあと三日、いや二日で終わらせられる。材料がなければ自分で買いに行こう。他の人たちは文句を言うかもしれない、というかまあ言うだろうが、構わない。今さら敵を作ったところで、もう一年も一緒にはいないのだ。大したことじゃない。
必要なのは一人で立ち向かう覚悟。
歪んでいるのはわかってるけど、これがウチの戦い方だった。
思い出した。
思わず頬が緩む。ああ、何だか楽しくなってきた。こんなに楽しい気分は本当に久しぶりだ。
本当に、いろんな意味で今日は東高に行ってよかった。
ウチはウチを思い出した。
こうなってから振り返ってみると、今日までの高校生活の何とモノクロなことか。出る杭として打たれることを恐れて曖昧に引きこもって。これではあの絵からは程遠い。これから目指したところであそこまで鮮やかな色彩には届かないだろうが、せめてもう少しだけ色を入れさせてもらおう。
青春は、薔薇色だけじゃない。それこそ複雑に混沌として、何とも言い難い色だろう。その中には、例えば汗と泥にまみれたような汚い色もあるかもしれない。
であればウチは、それが、それこそが自分の青春だと胸を張って言おう。胸を張って言えるような、そんな生き方をしよう。
ちょうど信号が赤になってしまったので自転車を止める。
その場のノリで梓とカラオケやボーリングに行こうとか言ってたけど、人づきあいの悪かったウチはそういうところにはさっぱり行ってなかった。歌だって心許ないし、ボーリングなんてガーターしか出せなさそうな気もする。でもそれを恥とも感じず、無邪気に笑いあえるのが友達なんだろうな、と思う。
ああ、本当に楽しみだ。
あ、もちろん金村も誘うつもりだ。まあ金村が素直に応じるかどうかはわからないけど、無理にでも引き込もう。女子二人に男一人は肩身が狭いかもしれないから、他にも誰か誘うべきか………
そういえば、あの二人ってどういう関係だったんだろ。ただのクラスメートってだけにも見えなかったけど、特に付き合っているようにも見えなかったし。
ふむ、その辺もおいおい訊いてみるか。
信号が青になる。ウチはまた自転車を漕ぎ出す。
ああ、楽しい。楽しいな。
人とかかわることがこんなに楽しいものだったとは。
これだったら、あの眼鏡ちゃんなんかにももう少し愛想良くしてみようかな。
とにかく何が何でも完成させて、堂々と胸張って梓や金村を迎えよう。
よし、と自分に気合を入れて、ウチは自転車を漕ぐ足を速めた。
風は爽やかに吹いている。




