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38 彼はぼけっとしている。

 学祭第三日目。現在時刻16:08。

 演劇部の公演が終了して、僕らは祭りを出る人たちの流れに乗ってぞろぞろと外へ向かって行った。

 残り十五分くらいのところで、突然シノハラ君がひっくり返って、そのときは何か大変なことが起きたんじゃないかとひやっとしたけど、すぐに横からあの女の子が出てきて会話があって、普通に繋がっていったから、あれは演出だったのかな。

 前を歩く清水さんと村崎さんの後ろを連れ立って行ってはいるけれど、僕は特に二人の会話に混ざることもなく、いない方がいいのかな、と思っている。

「でもあの、ヒロインのアドリブは凄かったね。主役の人もだけど」

「え、あのひっくり返っちゃったの? あれアドリブだったの? 演出かと思ってたけど」

 清水さんも僕と同じ見解だったようだ。対して村崎さんは首を傾げ、

「えー、アドリブじゃない? いや、ひっくり返ってからがさ。ひっくり返ったのはミスだと思うよ?」

 そうかなー、と清水さんは首を傾げる。それから僕の方へ振り向いた。

「金村君はどう思う?」

「え?」

「シノハラ君のあれ、アドリブだったと思う?」

「ああ、僕は・・・・」

僕に話を振られるとは思っていなくて、ちょっと驚いた。

「僕は演出だと思ってたけどなあ。どうなんだろう」

「でしょー? ほらあやっぱり演出だったんだよ」

「いやいや、多数決で決まるもんじゃないでしょ」

 顔の前でひらひらと手を振る村崎さん。まあそうだけどねえ。本当のところはどうだったのかは、今は知りようもない。

 玄関へ向かう人の流れは、ほとんどが在校生など校外の来客だろう。玄関まで来て外に出たところで、僕たち三人は立ち止まった。もうほとんどの屋台は店じまいしている。

「この後は何かあるの?」

「あ、うん。十七時から閉祭式で、それが終わり次第後夜祭だね。あ、でも」

「一般解放は十六時半までだったね・・・・んじゃまあ、ウチは帰るけど」

 村崎さんはニッと笑った。

「久し振りに楽しかったよ。来てよかった」

「ほんとだよ! あたしも久し振りで楽しかった・・・・あ、アドレス交換しよ?」

「ああ、いいよ」

 そんなやりとりで、二人は赤外線通信でケータイを向き合わせる。僕はその様子をぼけっと眺めていたけど、交換が終わったところで村崎さんが僕の方へ向いて、

「ほら、金村も」

「え?」

「ん? まあ嫌ならいいけど」

 ケータイを畳もうとする村崎さんに、僕は慌てて、

「あ、いや」

 ケータイを取り出した。

 つつがなく交換し終えて、今度こそ村崎さんはケータイをしまう。

「またそのうち遊ぼうよ。もっとゆっくり話したいし」

「そうだね。今度カラオケでも行くかい?」

 二人は本当に楽しそうだ。確か三年ぶりだってお互いに言っていたけど、それでも変わらない友情か。

 いいなあ。

 僕には・・・・心許ない、と言うかまあ、いないなあ。そう思うとちょっと寂しい。

 現状も大して変わらないし、部活にも入らなかったから浅く狭くの人間関係しか広げられなくて・・・・いや、部活に入ってても大して変わんなかっただろうな。こればっかりは性格かな。

 この調子で行くと、多分十年先も二十年先もこんな感じなんだろうなあとか素朴に思えてしまって、そう考えるとちょっとよりもう少しだけ寂しくなった。

 気がつくと、清水さんと村崎さんがそろってこちらを見ていた。

「え・・・・どうしました?」

「いや、何か金村君が遠い目してたから」

「金村も来るかい? カラオケとボーリング」

 僕は慌てて手を振った。

「いやいやいや! あ、いや、嫌ではないんですけど、僕が入ったら空気が微妙になりますから、やめた方がいいですよ」

「・・・・これはまた、変な言い方だねえ」

 清水さんが首を傾げると、村崎さんは苦笑した。

「昔からそういう奴だったよ、金村は。あんたも変わってないね・・・・ま、連絡するから、予定が合ったら来なよ。人は多い方が楽しいからね」

「あ・・・・ありがとう」

 変わってない、か。

 そうか。僕はやっぱり変わってないんだな。

 何だか素朴に嬉しいような気がするんだけれど・・・・あんまり喜んでいいことでもないような。

 村崎さんは右腕の時計を確認した。

「そろそろウチは帰るかな。梓たちはこのあと後夜祭だったっけね? 楽しみなよ」

「もちろん」

 清水さんは笑う。

「あ、桜高の学祭にも行くよ。いつからだっけ?」

「ん、来週の金曜日からだよ。ウチはC組・・・・梓が来るんなら気合い入れないとね。せめて完成させないと」

「がんばれー。でも無理はしなさんなよ」

「おうともさ」

 凛々しく笑って、村崎さんは拳を握ってみせる。

「んじゃあ、またね」

「うん。またね!」

「金村も、また」

「あ、はい。また」

 お互いに手を振って別れた。村崎さんはまっすぐに駐輪場へ歩いていく。その後ろ姿が背筋がまっすぐに伸びていて、歩く調子にも淀みがない。

 何というか・・・・うん。

 カッコいいよなあ。

「・・・・ねえ、金村君」

 村崎さんを見送り、自転車に乗った村崎さんが校門を出るときに手を振ってくれたので振り返して、その姿が見えなくなった頃に清水さんがぽつりとつぶやいた。

「はい?」

「いや・・・・あのさ、この流れで、後夜祭も一緒に行かない?」

 清水さんへ顔を向けると、清水さんもこちらを見ていた。

「いや、もう誰かに誘われてるんならいいんだけど」

「あ、いえ、いいですよ。別に誘われてもいませんでしたし」

 大して行くつもりもなかったんだけど、せっかくだから行こうかな。今年で最後だし。

 そっか、と笑顔になった清水さんの顔は、真っ赤な夕陽に照らされて少し赤みがかっていた。



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