32 彼女は再会する。
学祭は、こちらはとうとう三日目らしい。現在時刻14:13。見渡せば・・・・ウチのように単体で歩いている人は見当たらない。つるむ相手がいなかったから仕方ないとはいえ・・・・ウチは苦笑した。
とりあえず、生徒玄関の前を通り過ぎ、空中回廊、というのか、二階渡り廊下の下を抜けて中庭に入る。
ぐるりと見渡す。向こうは恐らく教室棟。校舎にぐるりと囲まれた中庭は、ウチのような他高生にしてみれば不思議な造りだ。片面を占めているステージには気合いが入っていることのわかる背景が立てられている。そのステージでは浴衣の女の子二人がマイクを持って何か言っている。司会、だろうか。逆側にはテントが立ち並んでいて、いろいろがやがやと売っていた。部活の屋台だね。ウチの学校でもやってる。ウチは階段を下り、中庭へ踏み込んだ。
人が多い。まあ休日だから、老若男女いろいろいる。にぎやかだ。
来たはいいけど、ウチは別に祭を楽しみに来たわけじゃないから、どこへ行こうという気もしない。じゃあ何しに来たんだってーと・・・・んー、まあ知り合いに会いに来た、というか何と言うか。我ながらしょーもねーな。
また見回す。ああ、剣道部はチョコバナナなのか。こっちの知り合いは、土谷か・・・・?あれ、でもあそこにエプロン着て立ってんのは。
ウチは剣道部の屋台へ歩いて行った。向こうもこちらに気づいたようだ。ウチは軽く手を上げて見せた。
「やあ、金村、だよね?」
「あ、うん・・・・村崎、さん?」
お互い語尾が疑問形なのは、会ったのが三年ぶりだったからだ。
しかし、お互いよく覚えていたと言える。そこまで親しい仲だったわけではない。
「久しぶり。あれ、金村剣道やめてなかったっけ?」
訊くと、金村は気弱そうな笑みを見せた。これは、見覚えのある表情だ。
「いや、やめてたんだけど・・・・土谷君に手伝い頼まれてね」
「へえ、そうなんだ」
「お?おお!村崎か!よく来たなあ!」
金村の後ろから土谷が出てきた。こちらはこの間も大会で会ったばかりだ。
「押忍。ほんとうはもう少し早く来るつもりだったんだけど、いろいろあってね」
「お、そっちももうすぐだったか?」
「そ。あと・・・・一週間くらいかな。忙しいわ」
まあ一本勝ってけよ、という土谷君に頷き、ぼうっとしていた金村にお金を渡して、一本受け取る。そこでさらに土谷が金村のほうを見て、
「金村、そろそろ時間だな。ありがとう。助かったよ」
いやいや、と淡く笑いながら金村は奥に行く。
相変わらず、存在感の薄い奴だ。三年前よりさらに薄くなっている気がする。
「ん、そういえば、清水って人知らない?」
ウチは金村に代わってカウンターに立った土谷に訊く。
「ん?清水?」
「そう。清水・梓って人。この学校だったと思うんだけど」
土屋は首をひねった。
「いや・・・・俺は知らないかな」
「ん、そっか」
どうしたものかな。他に探す手立てもないし、校内を一人ローラーするにも時間がなあ。
「え、清水さん?」
奥からエプロンを外して鞄を肩に下げた金村がやってきて声を上げた。
「あれ、金村知ってるの?」
「清水・梓さんなら同じクラスだよ」
それは都合がいい。
「会える?」
「もうすぐ待ち合わせて一緒に演劇部観に行くから、会えると思うよ」
「え、お前女子と観に行くのか?いつの間にそんな」
土谷が本気で驚いた表情で金村を見る。金村は、ん?と首を傾げるのみで、
「誘われたからね。そろそろ時間だから、行きますか?」
ウチは頷いた。正直一緒に行っていいものかどうか考えるところだけど、まあいいや。これを逃せばもう機会はあるまい。
「どこだって?」
「体育館。演劇部の公演があるんだ」
歩き出しながら金村が言う。
「演劇部って言うと・・・・あの、死亡フラグの?」
「そうそう。知ってるんだ?」
「有名だからね。この学校の演劇部は」
何度か雑誌や新聞に載ったこともあったはずだ。謎の多い異色の演劇集団として有名らしい。
へえ、と金村は相槌を打つ。
「清水さんの友達が監督やってるんだって」
「へえ。それはそれは」
やっぱり友達くらいできてるよねえ。失敗してるのはウチだけか。
にしても、やっぱり世間は狭いんだねえ。金村と梓が知り合いで、クラスメートか。ウチにとってはまあ都合が良いけど・・・・不思議や不思議。
「金村は・・・・今は何やってるの?」
「僕?僕は・・・・特に何もしてないな」
「そう」
剣道やめて三年間・・・・何も、してこなかったのか。本当に?
その時、ウチは金村の指に気付いた。
「どうしたの?その指」
包帯ぐるぐる巻きで太くなっている。ああ、と金村は指を見て、
「準備期間中に鋸で切っちゃって、。や、もうほとんど治ってるんだけどね。いやあ痒い痒い」
「切ったって・・・・」
けろっとして笑っている。さらっと言うが・・・・まあ金村は昔からこんなんだったかもしてれない。
「お大事に、かな。傷跡は残るんじゃない?」
「ん?うんまあ。凄いのが残るって言われた」
あっはは、と軽やかに笑う。
「まあ、後遺症的なものは残らないみたいで、残るのは傷跡だけ」
「それは・・・・それは」
何とも、コメントに困るところだな。
生徒玄関から中に入り、階段を上り、先ほどくぐった渡り廊下を渡る。何とも複雑な造りの学校だ。一人で歩くと迷子になりそうだ。
「あ、ほらあそこに清水さんが」
金村君が指で示した向こうに、そうだ、確かに梓がいた。
三年前とはあんまり変わってないな。背と髪が伸びているだろうか。だんだん緊張してきた。鼓動が少し早まる。何で緊張してるんだろう……?
梓がこちらに気づいた。ウチを見て驚いた顔を見せた。間近までたどり着いて、ウチはまた曖昧な笑みを浮かべて片手を上げる。今のウチの笑みは、きっといつもの金村みたいな笑みなんだろうな、と思いながら、
「やあ、梓。久し振り。元気だった?」




