31 彼は懐想する。
学祭第三日目。現在時刻13:58。
一昨日と同じく、約束通りに僕は剣道部の手伝いに来ていた。
三日目ともなると、僕ら生徒たちは疲労とテンションが最高潮に達する。手伝いに来る前に一度仮説保健室に寄ってみると、既にそこで寝ている人もいた。
今日のこれまでのところの中庭企画は、なかなか面白いものが多かった。大道芸部のパフォーマンスは、残念ながら最後の方しか見れなかったんだけど、その後の有志発表ではアニメか何かにコスプレしたらしいスカート男集団のダンスや、部活動対抗腕相撲大会なんかがあった。コスプレダンスも圧巻だったけど、腕相撲大会も凄かった。男女の部に分かれていて、女子の部の優勝は吹奏楽部の人だった。重い楽器を持ち歩く分強いのかな・・・・?でも驚くべきはというか、準優勝は茶華道部の人だった。見たことはないんだけど、茶華道ってそんなに腕力使うのかな。色白で細身の人なのに、腕相撲準優勝で賞状をもらって嬉しそうに浴衣の袖をひらひらとさせるその人は、人は本当に見かけによらないんだなあ、と思わせた。
そして男子の部。なかなか見ものだった。一回戦から白熱して、会場も大いに盛り上がった。剣道部からは土谷君が出てたけど、残念、二回戦で敗退。
着々と戦いは進んで行っての決勝戦。勝ち残っていたのは、ラグビー部主将のでっかい人と、陸上部の人だった。陸上部の人は、よく見ればあのカラオケ大会予選で百点通過をした凄い人だった。名前は北条君というらしい。二人ともそれぞれのユニフォームを着ている。どちらも身長は高いけれど、北条君のほうがやや高い。でも横幅はラグビー部の人のほうがずっと大きい。北条君は体格こそがっしりしてるけど、全体に細身だった。
だから、二人が向き合って構えたとき、多くの人はラグビー部の人が勝つと思っていただろう。
ところがそうならなかったんだ。
机の上で手を組み合わせ、両者睨みあう。静かな緊張の後、生徒会の人の試合開始の声。
がっ、と二人とも全身に力がこもる。初めは机の上の手は拮抗していた。数秒ギリギリと硬直した後、ゆっくりと・・・・北条君が傾け始めた。両者とも苦悶の表情。でもゆっくりと確実にラグビー部主将は押されていき・・・・やがて、ドガッとラグビー部主将の手の甲が机上に叩きつけられた。
北条君の優勝。
観客の歓声に、北条君は爽やかな笑顔で応えた。
ほんと、かっこいい人だなあ。
そんなこんなで、今日も初日と変わらない客の入りだったけど退屈はしなかった。
行きかう人の流れを眺めながら、僕はふと目を細める。
本当に、いろんな人がいる。一人ひとりに、それぞれ全く違う過去が、未来が、人生がある。そんなことが、僕には素朴にまぶしく見えた。
部活・・・・入っとけばよかったかなあ。
ふと、そんなことを思った。
思っても仕方のないことで。
いまさら考えた所で何かできるわけでもないし。
だから、今までは、多分できるだけ考えないようにしていたことなんだけど。
でも本当に、考えても仕方のないことなんだよね。僕はひっそりと苦笑する。
今の僕にはもう今の僕しかあり得ないんだし。
第一、そんなことを思いこそすれ、僕は・・・・今からあの一年生の初めに戻ったとしても、やっぱり部活に入る気はしないんだもの。
だから僕は、青春する人たちを離れて見ている方が、楽しい。
でも・・・・でも、我儘を少しだけ言わせてもらうなら。
もう一度くらい、竹刀を握ってみたいかなあ。
「おう、金村。お疲れさん。これ差し入れ」
イベントから戻ってきた土谷君が、かき氷をくれた。ありがたく受け取る。
「凄かったねえ」
「おう。いやあ、やっぱりあいつはすげーわ。まさか優勝するとは思わなかったよ」
土谷君は二回戦で負けちゃったわけだけど、その相手があの北条君だった。
「俺もそれなりに自信あったんだけどなあ」
結構残念そうだ。
「どうだったの?」
「いや、全く歯が立たなかったよ。どれだけ押してもさっぱり動かんかったっていうか、向かい合ったときにはもう負けてたような気もするな・・・・」
ふうん・・・・何だか格闘家みたいだ。まあ武道家ではあるわけだけどねえ。
僕はまあ、腕力は話にならないから何とも言えないけど、重いものを持つよりも、折り紙のほうが得意なわけで。
ちょっと後ろに下がって、もらったかき氷をシャクシャク食べる。うん、冷たくていい感じだ。今年の学際は全体的に天気が良い。毎年多かれ少なかれ、学祭期間中は雨が降ってたんだけど、最終日になってもまだまだ快晴で、暑い暑い。
再びカウンターに立ち、またぼけっと人の流れを眺める。浴衣の人も結構いるし、中には例のコスプレの人も堂々と歩いている。凄いな。あれはあれで。それに、ちらほらと水着男子の姿が・・・・え?
水泳帽子に水中眼鏡を装着し、水泳パンツ一枚のちょっと筋肉質の男子が二人組・・・・いったいあれは、何のネタ?
周りの人もドン引きしてる・・・・にも関わらず、堂々と歩く姿はある意味で大物だった。写真撮ってる人もいる・・・・しかもそれに笑顔にピースサインで応えてる・・・・
お祭りだなあ。
中庭の入り口尾の方には階段が少しあって、そこにも人がたくさん座っていた。、その中庭の入り口、校門の方からは人が続々と・・・・おや?
どこかで見た人がやって来る。あの人は確か・・・・?




