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28 彼女は放浪する。

 学祭第二日目。現在時刻14:23.あたしは校内放浪中。

 昼時に食券を交換しに休憩所へ行ったら、机に大量の折り鶴を積み上げて金村君が座っていたので昼食を御一緒させてもらった。鶴で山を築いていた金村君はかなり周りの視線を集めていたんだけど、当の金村君は大物なのか無頓着なのか、全く気付いていないみたいだった。

 そして、ついでに演劇部の公演に金村君を誘うことに成功したのであった。

 グッジョブあたし。

 や、あたしだって別に友達いないわけじゃないんだよ?ないんだけど・・・・皆が皆、彼氏持ちだからなあ。もっと前から付き合っていた人もいるけど、この数日で出来上がった奴もいる。まさに学祭マジックという奴だ。

 どいつもこいつも好き勝手に青春しやがって。ケッ!

 まさか忘れてはいないだろうが、学祭マジックが学祭『マジック』たる由縁は、祭の雰囲気に乗せられた男女が魔法のようにポンポンとくっついていくという現象にあるのだけれども、それだけではないのだよ。

 往々にして、学祭の終了とともに男女交際もまた終了する。その一時の、まるで魔法の一瞬であったかのような青春の儚さにもまた、学祭マジックの本質があるのだ。

 今に見ておれ!ケッケッケ!

 ・・・・とかまあ言ってはみるけど、別に『別れちまえ別れちまえ!貴様の不幸でどんぶり三杯!』だとか、そんあ悪辣なことを思っているわけではないんだよ?いや本当に。学祭終了後も交際の続く人たちも割といる・・・・らしいし。幸せになれるものならなればいいじゃあないか。

 なれるもんならなってみやかれ!ケッ!

 郁奈にも前に言ったけど、あたしは誰かとの男女交際の経験はない。気になる男の子ってのが、今日に至るまで一人もいなかったってわけじゃあないんだけども、まあ何人かはいたこともあったんだけども、誰に対しても、その、男女交際にまで発展したお付き合いをしたいと思ったことはなかった。男女間の駆け引きというか、そういうのが面倒なのだ。きっと、青春男女たる二人の間には、精緻巧妙なやりとりが日々白熱しているに違いなく、あたしにそんな芸当ができるとはとても思えず、だからあたしにはまだ早いかなー、と。

 僻みじゃないよ!

 念のため。

 ともあれ、さすがに一人で行くのはやや寂しい気持なので、道連れに金村君を誘ってみたわけなのでした。これで同道者は確保。首尾よし。

 とはいえ、後は特別することもなくて、校内を歩きまわってばっかりなんだけど。仕方ないから、生徒会や写真部や天文部や・・・・と一人で見て回った。一人で。途中で何度か彼氏と一緒に楽しそうな友達に会ったり、写真部の企画で写っている男女の中に友達がいたり、と、こうも精神攻撃が続くと、どうしても何かに『負けた』感があってならない。くそう、ついてくるな正体不明の惨めさよ。困ったものだ。

 下の中庭からテニス部の焼き鳥の煙がダイレクトに入り込む渡り廊下を通りかかったとき、そこに並べて飾ってある美術部の絵の一枚をやたら熱心に見つめている人がいた。煙の中でもまるで気にせず集中している。他校の人だろう。美術部なのかな。不思議な人もいるものだ。

 その人を通り過ぎた所で、郁奈に会った。

「あ、郁奈」

「ん、梓・・・・」

 ぼんやりと郁奈は笑顔を見せた。でも、今の郁奈は明らかに、

「ねえ、顔色凄く悪いんだけど大丈夫?」

「ん?あ、うん、大丈夫大丈夫」

 ひらひらと郁奈は手を振って見せる。けどどう見たって大丈夫じゃないんですケド。

「やっぱ大丈夫そうじゃないけど、何かあったの?」

「ん?んー・・・・さっきそこで、武島君に会ってね・・・・」

 あ、成程、それは確かにちょっと気まずいかも。

「うん、それは確かに、うん、お疲れ・・・・じゃなくて!」

 郁奈は見るからに、見れば見るほど体調が悪そうだ。視線も明らかに茫洋と彷徨っているし、身体もどことなくフラフラとしている。実は武島君の正体は妖怪で、生気を吸われてしまったのでした……なわけないし、武島君に失礼!

「それだけじゃないでしょ。あ、さては寝てないね?」

「ん?ん・・・・まあ、そうかも」

 郁奈は曖昧に肯定する。さては。

「・・・・さては、アレだね?篠原君のことで悩んでたね?」

「ん?んー・・・・んん!?は!?え、いや、違う違う!」

 急速に覚醒して、郁奈は手をブンブン振った。

「そんなんじゃないよ!そんなんじゃなくて、ほら、いよいよ舞台も近いから緊張してヤバくってさ!」

 そのくらいのことで緊張する郁奈じゃないのは知っているし、大慌てで否定する態度からもうバレバレだ。むしろ、ここまではっきりと態度に出る人も今時珍しいんじゃないだろうか。あたしがにやにやしていると、郁奈は唇を尖らせた。

「だから違うんだってば・・・・」

「うん、そうだね。わかったわかった」

「わかってない!知った顔で頷くなあ!」

 拳を握って郁奈は喚く。はは、可愛いなあ。

「今から練習?早いんだねえ」

「・・・・うん、そう。まああと三十分くらいあるけど」

 ちょっと膨れたまま郁奈は応じる。あたしは頷いた。

「そっかそっか。まあ、がんばりなよ」

 いろいろな意味を込めて言うと、そこに気づいてかそうとは知らずか、郁奈は複雑そうな表情で頷く。あたしはそんな郁奈の肩をぽんぽんと軽く叩く。

「あたしも、例の金村君と一緒に見に行くからね。がんばってよー」

「そりゃあ、もちろんがんばるよ」

 少し目に力が戻ったみたいだ。よし、と内心で頷く。が、

「梓って、金村君に気がある感じなの?」

「は?」

 思わず訊き返す。郁奈はだんだんと悪戯っぽい笑みを深めていった。

「結構何回も話に出てくるし、やっぱりそんな感じ?」

「な、何の話かなー?金村君は友達だよ?トモダチトモダチ」

 あたしは内心冷や汗をかきながら、少し郁奈をからかい過ぎたかなーと後悔し始めていた。


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