27 彼は折る。
学祭第二日目。現在時刻12:18。日も射していて外は暑そうだけど、こちらは涼しくて快適だ。
机の上が鶴だらけになっていた。いろんな色の鶴。千枚もあると色彩も幅広い。
僕が折り方を教えていた女の子は、指先はあまり器用ではないみたいだけどもの覚えはいい方らしく、自分で折り方を覚えてからは学祭そっちのけで夢中になっていた。今も自分の折り上げた鶴をほれぼれと睨みつけている。いや見つめている。
「気に入りました?」
「あ、うん。小学校以来久々にやったけど、ハマると楽しいね」
女の子は照れ笑いした。そうすると目元も和らいで表情全体が優しくなる。
それから二人で机の上全体を眺めた。
「・・・・ちょっと作りすぎたかな」
「そうかも。どうしましょう」
んー、と女の子は手近な鶴を引き寄せた。それから次々と鶴を拾って、人間ピラミッドならぬ鶴ピラミッドを建設し始める。
結構楽しそう。
「・・・・あのさ」
何となく眺めていると、女の子は恐る恐る、といった風に切りだした。
「はい?」
「その、さ。君は平気に見えるんだけど、その、平気なの?」
「何が」
「私の目」
女の子は目を伏せている。ん?と僕は首を傾げた。
「平気って?」
「いやほら・・・・私、目つきがかなり悪いでしょ」
「ん?んー・・・・まあ」
スパッと肯定してもいいものか測りかねて、僕の返答は曖昧になった。
「大抵の人は私と向き合うと見るからに怯えるんだけど、君はそんなことなさそうだし」
「んー・・・・まあそうだね」
曖昧を脱出したいところだけど、如何せん何と答えたものか。女の子はぼうっと窓の外を眺めている。
「君は怖くないの?」
んー・・・・僕はうなった。
「凄く・・・・強いなあとは思うけど、別に怖いことはないよ。第一、君は怖がらなきゃいけないような人でもないし」
言うと、女の子は目を閉じた。するとまた女の子の表情全体が和らぐ。凄いんだなあ、ほんと。
「・・・・そっか。ありがと」
「え?」
「ちょっと元気出た」
言って、女の子は立ち上がった。それから机中のたくさんの鶴を見渡す。
「これ・・・・どうしようか」
「僕がとりあえずもらっておきますよ。何ならお持ち帰りしても」
うん、と頷いて、女の子はピラミッドの頂点と、その傍らの一羽を拾い上げた。黒と、紺。
「これだけもらって帰るかな。じゃあ、ありがとね」
いえいえ、と手を振って、女の子は会議室を出ていった。その背を見送って、僕は再び窓の方へ向き直った。
それにしても、凄い数だ。さすがにやっぱり作りすぎたかな。かといって開くのも捨てるのもやや惜しい。
とりあえずは、女の子にならってピラミッドを立てることにした。
ひょいひょいと積む。なかなかシュールな光景だ。シュールといえば、と僕は一つ思いついて自分の作った一羽を一旦開き、少し手を加えて折りなおした。
完成、脚の生えた鶴。
うーむ・・・・我ながらなかなかシュール。
「あ、金村君?」
知った声がかかった。振り返ってみると、
「あ、清水さん」
ハロー、と手を上げて、近寄ってきた清水さんは机の上を見て微妙な表情になった。
「えーっと・・・・それは?」
「鶴」
「鶴って脚あったっけ?」
ああ、僕が今完成させたこれか。僕は軽く掲げて見せた。
「脚の生えた鶴」
「や、それは見ればわかるよ。何というか・・・・」
「シュール?」
「うんそう、それ」
清水さんはバザーの昼食交換に来たようだ。確かにもう昼は過ぎている。
「金村君、お昼は?」
「や、まだ。今交換してきます」
立ち上がると、清水さんは、
「ね、隣に座っててもいい?」
「ん?ああ、いいですよ」
そのまま役員の人たちのところへ行って、食券をブツと交換してもらった。お握り二つ。
戻ると、清水さんは僕の作った(脚の生えた)鶴を子細に眺めていた。
「あ、御免」
「いや、いいですよ」
僕も元の席に着いた。お握りの包装を破ると、清水さんも自分の分を取り出した。もしかして、待っててくれたのかな。
「にしても、凄いねコレ・・・・どうやって折ったの?」
珍しそうに眺めながら清水さんは言う。
「や、折り方はそんなに難しくないんだよ。僕もそれ初めて折ったんだけど」
「え、そうなの?」
驚いた様子でこちらを見る清水さんに、僕は頷いて見せた。
「ずっと前にちらっと見たのをちょっと思い出して、試しに折ってみたらできちゃった、って感じで」
「ほええ・・・・金村君、ほんとに器用だね」
感心したように見てくれる清水さんに、僕はちょっと照れた。
指先には多少の自信があるのです。
この間鋸で無情にぶった切ってしまったわけだけど。
「指は大丈夫なの?」
「ああ、うん。もうほとんど完治」
どうやら傷跡は残るみたいだけど。我が事ながら、相当深かったみたいだねえ。
「そっか・・・・それはよかった。あ、ねえそういえば」
笑顔になった清水さんが、ふと思い出したように言う。
「明日ってさ、金村君も演劇部観に行くんだったよね?」
「え?ああ、うん。そのつもりだよ」
そういえば、忘れていた。危ない危ない。
「ね、それじゃあさ、あたしと一緒に行かない?」
「うん?清水さんと?」
うん、と清水さんは頷いた。
「あ、一緒に行く人がいるんだったらいいんだけど・・・・一人で行くのもどうかなあってね」
「あ、いや、僕も一人ですけど」
さっきまで忘れてましたし。
「あ、じゃあ、いい?」
「ええ、いいですよ」
「よし、決まり」
ニコ、と清水さんは笑顔になった。
「あたしが言うのも変かもだけど、絶対凄いから、期待しててね」




