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26 彼女は気を利かす。

 学祭第二日目。現在時刻10:43。中庭ステージではダンス部が踊りの真っ最中。

 テニス部から購入してきた焼き鳥を食べながら、私はダンス部、というか智江を見物していた。ほんとに楽しそうだなー。息がぴったり合ってる。曲ごとに人数やメンバーが入れ替わってるな。見たところ、できるだけ連続で同じ人が踊らないようにしているようだ。まあそれもそうか。智江も一曲か二曲ずつ空けて踊っていて、ときどき服装が変わってるから、後ろで着替えてるみたいだ。忙しいね。

 私は身体を動かすのは得意じゃなくて、踊りなんてせいぜい盆踊りくらいしかやったことがないから、あんなアップテンポな曲は一曲分も踊りきれないだろうな。それを交代しながらとはいえ一時間近くも踊り続けるのだから、信じられない体力だ。あ、そうだ。次の出番までに何か差し入れを買っといてあげよう。何がいいかな・・・・焼き鳥?

 私は少し急ぎ足で買いに行く。

 売店も中庭にあり、焼き鳥の屋台も中庭にあって、そこでたくさん焼いているわけだけど、その煙が風向きによってあっちへ行ったりこっちへ行ったり。上の二階渡り廊下は窓から煙が入ってもの凄いはずだ。

 その煙を間近に浴びるテニス部の男子は、全員が青いはっぴに水泳ゴーグルという何ともシュールなスタイルをしていた。そういえばさっき、奥のグランドから筋肉質な水着男子集団がわらわらと散って行って多くの人を怖がらせていたけれど、あれはまた何の企画なんだろう。

 ともあれ、首尾良く焼き鳥を購入して見物に戻る。ぼけーっと眺めて、終わった頃にステージ裏の控えへ向かった。近づいて行くと先に智江の方が先に私に気づいてくれて、やってきた智江にお疲れーと焼き鳥を渡す。

 渡してから気づいた。散々動いて智江は汗だくだ。そんな人に焼き鳥を差し入れるとは、これは我ながらミスチョイスだ。

 ミスチョイス!

「わあ、ありがとー。後で食べるね」

 智江は朗らかに受け取ってくれた。

「凄かったね。久々に見たけどかっこよかったよ」

「ふふ、当然。うちを何だと思ってるんだい」

 智江が胸を張って見せたところで、向こうのダンス部の人から声がかかった。智江は振り返って返答し、こちらへ向き直ると、

「御免、この後すぐに午後の練習あるから、また後で。差し入れありがとね」

 と片手で拝んだ。

「うん、忙しいねえ」

「そりゃまあ、大イベントですから」

 軽やかに笑い、じゃーねーと手を振って智江は走って行った。私も手を振りながらその背を見送る。

 それから、さてどうしようかと考える。ふむ、と傍のテントを見て私は思いつき、もう一度屋台の方へ行って焼き肉やらチョコバナナやらを買うと、まっすぐ生徒会本部テント横の仮設保健室テントへ入った。

 案の定、今日も斎藤さんは暇そうにお茶を飲んでいた。

「斎藤さん、こんにちはー」

「あ、やあ遠江さん。こんにちは」

 これ差し入れーと買ってきたものを机の上に並べると、斎藤さんは子どもみたいに喜んだ。

「やあやあ、これはありがとう!朝からずっとお茶ばっかりでね。何かお茶受けが欲しかったんだ」

「朝からお茶ばっかり?」

「そうそう。もうお茶だけでお腹たっぷたぷ」

 早速パックから焼き鳥を取り出して嬉々として食べにかかる。そういえば昼も近いな。後でバザーに行こうか。

「手の調子は?」

 もぐもぐしながら斎藤さんが私を見る。私はぷらぷらと振って見せた。

「何でもないよー。もうばっちり」

「それは良かった。でも一応気をつけてね。復活したりしたら大変だから」

 あーい、と私が返す間にも斎藤さんは早くも焼き鳥を平らげチョコバナナに取りかかる。

「そういえばさ」

 ガツガツと半分ほどまでかじった後で、斎藤さんはふと私を見た。お茶受けっていうか、お茶全然飲んでないじゃん。飢えてたのね。

「ん、何?」

「うん。君はさ、眼力が鋭いってどう思う?」

 唐突に変な質問だった。私は首を傾げる。

「眼力?」

「そうそう。いやね、今朝来てた子で、よく保健室に来る子なんだけど、その子が自分の目つきの鋭さをずいぶんと気にするんだね。遠江さんはそういうの気にする?」

「ん?んー・・・・」

 目つき、ねえ。 

「僕は知り合い、というか同輩、というか天敵の人がもの凄い目つきの鋭い人だったから、その子を見ても何も思わないんだけどさ。一般的にはどうなんだろって思って」

 チョコバナナは串だけになった。斎藤さんはそこでようやくお茶に手をつける。

「どうって言ってもねえ・・・・程度によるんじゃない?」

「ちょっと気の弱い人なら向き合っただけで泣いちゃうレベル」

「それは・・・・そういう人に会ったことないから何とも言えないけど」

 ほんとにいるのかな、そんな人。

「まあ人によるんじゃない?気にする人もいれば気にしない人もいるだろうし。本人が気にしなけりゃいいんじゃない?」

 そういうのも、言ってしまえば個性だよ、個性。うん。

「ん、だよねえ。僕の天敵こそそういう人だし」

 うんうん、と斎藤さんは頷く。私も合わせて頷き、

「ねえ、私からも一ついいかな?」

「ん?うん、いいよ」

 笑顔の斎藤さんに対し、私も笑顔で、

「その斎藤さんの『天敵』って、どんな人?」

「え?あー、うーん・・・・」

 斎藤さんは目を泳がせた。ほほう、言い渋りますか。

 是が非でも聞き出そう、と私は決めた。



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