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25 彼は傍観する。

 学祭第二日目。現在時刻10:21。もうすぐ中庭ステージのイベントも始まる。朝から人の出入りも多く盛況だ。

 そんな僕は予定通り、朝一番にクラスに顔を出した後は休憩室となっている会議室、その窓際の一席を陣取っていた。

 今日一日はここを動かない所存だ。

 頬杖をついてぼけーっと眼下の中庭を見下ろす。会議室は二階にあるため、高さがいい具合に見晴らしがいい。海の波やカップの湯気と同じように、不規則な人の流れというものは見ていてなかなか飽きないものだ。

 そういえば、方向音痴の人は周囲の建物や特徴物ではなく、人の流れを見ながら歩くから同じ道でも何度も迷うと聞いた。

 だから僕は方向音痴なのかもしれない。

 こうして見ると、ほんとにいろんな人がいるよなーと思う。老若男女、小学生っぽい子や他校生もいる。私服の人がほとんどだけど、浴衣を着ている華やかな人もいた。かき氷を売っている陸上部の女の子なんかは特に色とりどりで綺麗だった。おや、あれは外人さんかな。遠目だけど背が高い女の人。日本人の男の人と一緒だ。かき氷を買うみたいだけど、陸上部の人たちは皆その女の人をぽかん見上げている。まあ珍しいよねえ。

 と、一つ席を空けて右隣に誰かが座った。こんなに早くからここに座るだなんてどんな人だ、と自分を棚に上げて横目で窺う。何というか・・・・印象的な人だった。

 どの辺がかと言うと、目が。

 横顔をちらっと見ただけだったんだけど、その目しか記憶に残らなかった。

 とんでもなく目つきが鋭い。

 多分表情はフラットだったと思う。なのにその鋭すぎる眼力のお陰で強烈な凄みが出ていた。

 まるでこの世の不機嫌を一点に凝縮したような。

 そんな眼力だった。

 いくらなんでも失礼な描写だなあ。

 その人も、僕と同じく頬杖をついて中庭を見下ろしている。

 ・・・・まさかこの人も僕と同じ感じだったりするのだろうか。

 まさかなあ。

 中庭の様子に目を戻す。

 うちの生徒はそれぞれがそれぞれの場所で楽しそうだ。部活の売店をやっている人たちは一生懸命お客を呼んでいるし、生徒会の人たちも走り回っているし、学祭期間だけ毎年設置される特設ステージの壁の裏では、ダンス部かな?ラフな服装の女の子たちが練習をしている。教室棟のクラス展示の方も、皆はさぞかし盛り上がっていることだろう。

 皆、青春しているなあ。

 大手を振って青春へ飛び込むこともできず、青春を謳歌することなんてとてもできない僕としては、まぶしい思いで眺めるばかりだ。

 ふと思い立ち、僕は足元に置いていた鞄から折り紙の束を取り出した。正方形の折り紙で、ざっと千枚。久しくやっていなかったから、手慰みに久々にやってみようかと思い持ってきたのだ。

 一枚引き抜き、ちょっと考えてから折り始める。手はまだ折り方を覚えていた。でも包帯を巻いた指のせいでなかなか滑らかにいかない。昔、かなり折り紙に凝っていた時期があった。一人でいることが好きだったから、趣味は読書と折り紙だった。一枚の紙が立体の形を持つ、というのは我ながらちょっと嬉しい感覚で、だから僕は夢中になっていた。

 さあできた。

 鶴。

 机の上に置いてしみじみと鑑賞。腕はなまっていなかった。指だけど。

 指先には少し自信があるのだ。切ったけど。

 と、先程の超眼力の女の子が、じぃ・・・・っと鶴を睨んでいるのに気づいた。いや、機嫌の悪さは感じられない、から・・・・それが真顔、なのかな。つまり睨んでいるのではなく見つめているだけ。

 ついっと女の子がこちらを見た。わお、凄い眼力。

「上手だね、それ。器用なんだ」

 指そんなんなのに、と僕の包帯を見ながら言う。僕はいやあ、と照れ笑いした。

「どうしたの?その指」

「鋸でちょっと切っちゃって」

「ちょっとってレベルには見えないけどね・・・・」

 ふーん、と女の子はまた折り紙に視線を戻した。僕はまた一枚折り紙を引き抜き、女の子に差し出した。

「折ってみます?」

「・・・・いいの?」

 遠慮がちに女の子は受け取る。僕は頷きながら折り紙の束を間の席に置いた。

「どうぞどうぞ遠慮なく。好きなだけいいですよ。僕も一人でこれ全部は折れませんからね」

「これ全部折るの?」

「あ、いやいや、暇なときにちょろっと」

 ふーん、と言いつつ、女の子は折り紙を日に透かした。

「ん、でも私、紙飛行機くらいしか折り方知らないや」

「僕はいろいろ折れますから、何か教えましょうか?昔凝ったことがありまして」

 鶴でもどうです?と完成品を示してみせると、女の子は頷いた。

「ん、それじゃあお願いしようかな」

 僕も束から新たに一枚引き抜いた。

 そろそろ中庭ステージでイベントが始まるようだ。生徒会の人が開始を宣言し、司会の二人が退くと音楽が始まってステージの裏からダンス部の人たちがまさしく躍り出してきた。それを横目に見つつ、意外と僕は折り方を教えるのを楽しんでいた。

 女の子は眼力は凄まじいけど怖い人ではないみたいだ。それとあんまり器用ではないみたい。

 今年の学祭は、去年までとは少し違うみたいだ、と二つ目の鶴を完成しつつ僕は思った。



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