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21 彼は相談する。

 学校祭第一日目。今日含め残り三日。・・・・いや、この数え方はやめた方がいいかな。ともあれ、いよいよ本祭の開幕。現在時刻7:38。

 一般開放は九時からだけど、何かと準備はあるから結局いつも通りの登校となる。朝の電車には学生が多い。

「・・・・なあ、何かあったのか?」

 隣に座る山梨が訊いてきた。

「ん、何が」

「お前だよお前。いつにもましてむっつりしてるし、こりゃ何かあっただろ」

「いや・・・・別に」

 深い意味はないのだが、何となく追及を避けたくて話題を変えるために俺から話を振る。

「あー、そういえば、俺のシフトっていつだっけ?」

「・・・・自分のシフトくらい確認しとけよ。今日の午後一時から二時。仕事はちゃんと覚えてるんだろうな」

「ん、ああ」

 多分な。

「ちなみに俺は今日の午後二時から午後三時。明日の午前九時から十時。明後日の午後四時から五時」

「三日とも入ってるんだな」

「まあ、責任者だからな」

 山梨は楽しそうだ。普通に祭が好きなんだろう。

 俺はどうにも祭が楽しめない性格みたいだからなあ。昔、当時の友達と行った夏祭りなんかを思い出す。ただの金の浪費だろ、と斜に構えて一銭も使わなかった。昨年や一昨年の学祭にしたって、模擬店やクラス展示には一度も行ってないからな。皆が浮かれるのに反比例して気が沈む。やっぱり俺は祭の類には参加するよりも傍観してる方が性にあっているらしい。

 祭の雰囲気は好きだからな。祭を楽しむ人たちを高台から眺めているのが好きだった。

「演劇の練習は?」

「今日は一日フリー。明日は練習あったな」

「そっか。まあがんばれよ」

 ああ、と答える。台本は昨夜熟読して台詞は全部覚えた、つもりだ。でも実際に皆と合わせてみて台詞が出てくるかどうか。

 柄にもなく緊張してるな、と俺は自嘲気味に笑った。昨日遠江さんに言ったのは嘘でこそなかったが、あのときは間を持たせるためであって実際そこまでじゃなかった。でも今は、本当に結構な緊張をし始めているらしい。困ったもんだ。

 ・・・・遠江さん、か。

「おいおい、お前ほんとに変だぞ。にやにや笑ったり無表情になったり、気持ち悪いぞお前」

 山梨は頷いた。

「気持ち悪いぞお前」

「二回も言わんでいい。別に何も」

 ねェよ、と言おうと思ったが、ふと別にこいつになら話してもいいか、という気になった。

 ふむ。

「・・・・そうだな。これは例えばの話なんだが、女の子に後夜祭一緒に行かないかって誘われたら、これはどういうことだと思う?」

「・・・・は?何だって?」

 山梨は本当に変な顔をした。失礼な顔だな。

「だから、後夜祭に」

「いやそれは聞こえた。え?篠原が?女の子に?後夜祭に?誘われた?さっそわっれた?嘘だろマジでか」

 顔だけでなく言動まで失礼な奴だ。大体、俺は別に誘われたと明言はしてないぞ。・・・・まあ、いいか。

「マジだよ。何か文句あるか」

 俺はやや開き直って答えてやる。

「いやないけど。ないけど・・・・うっわーマジでか」

 山梨は浮かせていた腰を降ろして腕を組んだ。

「恐るべし学校祭・・・・さすがは青春の祭典」

「どういう意味だ」

「いや別に。だがそれはどういうことかって話だったな?」

 俺は頷いた。お前が騒ぐせいで無駄に遠回りした。

「ちなみに誰なんだそれ?まあ大体の予想はつくけどな。真庭さんか遠江さんだろ。お前にそれ以上の交友範囲があるとは思えんからな。で、どっちだ?」

 いろいろと腹に据えかねるところもあるが、まあいいかと俺はため息まじりに答える。

「・・・・遠江さんだ。昨日の帰りにたまたま会って、その時に誘われた」

 この口の軽さは後々裏目に出ることもあるかもしれないな、とちらっと思った。

「へえ。それでオーケーしたわけな?もちろん一対一だろ?」

「ああ」

 ふーん、と山梨は腕を組む。そしてうむうむと頷く。

「何だよ、もったいぶるな」

「ふむ。うん、これはあれだ、まさしくフラグだ」

 山梨は断言した。だが、何だと?フラグ?

「俺は学祭が終わったら死ぬのか」

「んや、違う違う。死亡フラグじゃないよ。そう思うのもわからんでもないがな」

「・・・・じゃあ何だよ。他にフラグなんかないだろ」

 ちっちっちっ、と山梨は気障ったらしく指を振った。

 それ、多分ちょっと古いぞ。

「激しく似合わんしな」

「やかましい。・・・・とにかく、これはまさにあれだ。あれなんだよ」

「どれだよ」

 いちいちもったいぶる奴だ。早く言え。

「恋愛フラグ」

 ・・・・・・・・。

 俺は一度電車内を見回した。ほとんどが学生だ。中には最近よく見かける指に包帯巻いてる男子もいた。ここしばらく巻いている気がするが、そんなに重傷だったのか。

 一通り車両内を見回して、俺は山梨の方へ向き直った。

「・・・・で、何だっけ?」

「だ、か、ら、恋愛フラグだよ恋愛フラグ!いやあ、いいなあ、青春だなあ!」

「いや、意味がわからんぞ。何だそのレンアイフラグって」

「うまいこと回収すれば桃色の青春が始まる!・・・・かも知れん。高三のここに来てかあ」

 しみじみと言いやがるが、何だか失礼な物言いな気がする。

「しかし遠江さんかあ・・・・ん、後夜祭だけ?昼間は一緒に回ったりしないの?」

「しない。聞いてないな。昨日の夜メールもらったけど、後夜祭の話だけだったな」

「演劇部の方は?」

「ああ。見に来てくれるってさ。客が増えるのはいいことだ」

 言うと、山梨は呆れた表情になった。

「え・・・・それだけ?お前マジでリアル朴念仁?そこに何の伏線も見ないの?」

「何の話だ」

 俺は無表情に返す。伏線とか、つくづく失礼な言い方だな。

 でもな、言わないだけで、俺だって何も思わないわけじゃないんだよ。ただ考えないようにしているだけだ。

 舞台の上で主役として立とうとも、俺は主人公じゃないのだ。真っ当な幸運なんてそうそうやって来るものじゃない。俺は降って湧いたような幸運を信じていない。

「まあ、いいけどさ」

 山梨はつぶやいた。おう、と俺も答えておいた。


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