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02 彼は扉を開く。

 はい、二人目です。

 この話は、主にこの二人を中心に展開していく予定です。

 学校祭準備期間四日目。残り三日。現在時刻16:43。天気、晴れ。

 残り時間が少ない中、携帯電話を耳に当て怒鳴りながら背後を男子生徒が疾走していったとき、僕は鋸で指をざっくり切っていた。木材を押さえていた左手は人差し指の側面、親指側の第二関節あたりを深々と抉った。痛、と思う間もなく血があふれる。色が鮮やかだから本当に骨まで届いているかもしれない。ともあれ、大事な木材に血なんて付けるわけにはいかない。これで屋台を作るのだ。うちのクラスは射的。賞品は工芸品でそれらは教室で作り、僕は屋台を作る野外班。ともあれ、困ったのは左手だ。腕を広げて作業領土外のアスファルト上に手を出す。辛うじて間に合い、一滴目はアスファルト上に落ちた。そしてとめどなくぼたぼた滴った。と、僕の不意の動きに気づいて顔を上げた清水さんが、僕の手を見て悲鳴を上げた。

「ちょ、どうしたのその手!血が、血が!」

「あー、今ちょっと鋸で切っちゃいまして」

 清水さんの悲鳴で他の皆も振り返る。近藤君がうぉ、と喉の奥で声を漏らして、

「冷静すぎて怖いぞ。ヤバいってそれは」

「んー、そうかな」

 まあ我ながらこれはヤバいんじゃないかと思われる出血速度だ。見る間に血だまりが広がっていく。切ったの指なんだけどなあ。

「と、とにかく、救急車!」

「いや、大袈裟ですよ」

 パニックになる清水さんをたしなめる。あんまり血を見たことがないのかな・・・・それ普通か。

「少しは慌てて保健室行って来い。どの道作業なんてもうできないだろ、その手じゃあ」

 やれやれと近藤君が言う。

「御免、時間もないのに・・・・せめて血の処理を」

「いいからさっさと行けって。それもやっとくから」

 本当に申し訳ない。近藤君は保健室への道中血を受ける布までくれた。

 人数も満足にいるわけでもないのに、不注意でこんなことになってしまうとは・・・・

「あ、あたしも行く!」

 清水さんが手を挙げてくれた。でもこれ以上人数を割くわけには。

「大丈夫だよ。暖簾はほとんどできてるから」

「ああ、付き添ってもらってくれ。こっちだって大丈夫だ」

 大きく頷いてくれた。だから僕もありがたく厚意をうけることにする。

「すいません、何か」

 作業場を通り抜ける中、僕の出血を見た人たちが驚きに目を開く。

「ううん、何も悪いことないよ。っていうか、痛くないの?」

 見てるほうが痛いよ、と清水さんが僕の指を見る。少しは勢いが衰えたかな。

 あ、あの鋸。僕の指の肉片とか付きっぱなしだ。

「全然痛そうにしないし、平気そうに見えるけど・・・・」

「いやあ・・・・痛いよ。脳髄にずんずん響く感じ」

「って笑いながら言われてもなあ」

 痛ましげに僕の指を見つめる。と、携帯電話に怒鳴りながら男子生徒が走り抜いて行った。手には大振りの鋸と金槌を持っていた。物騒なことだ。

「別に痛いだけだからね。それでどうってこともない」

 別に痩せ我慢ってわけでもない。体重も身長相応だし。

「困るのは作業だよ。僕は大して役に立たないけど、猫の手でもほしいところだったからね」

「それは・・・・そんなことないよ!」

 清水さんが声を上げた。

「金村君が来てからなんだよ。ちゃんと作業が回るようになったの。それまで皆遊んでばっかりで・・・・近藤君も喜んでたし」

「そんなの大袈裟すぎるよ。確かに出しゃばって少し・・・・こう、アドバイスというか、違う、意見させてはもらったけど」

「全然出しゃばってなんかない。金村君が来てくれなかったら本当に完成なんて絶対にしなかったんだから。教室組にも呆れられて文句言われてばっかりだったのに、今じゃ教室組よりも先に終わりそうなんだから」

 ずいぶんと持ち上げてくれる。何だか気恥ずかしい。

「・・・・まあ、お役に立てたのなら光栄です」

 保健室まで来たとき、入れ替わりで女子生徒が出てきた。突き指でもしたのか、指に包帯を巻いている。落ち込んだように俯いていて、僕の血にも気付かないのだから相当気が滅入っているのだろう。

「ともあれ、いい機会――――って言ったら不謹慎かもだけど、金村君は少し休んで」

 清水さんの気遣いに、僕は小さく笑った。

「では、せっかくだからそうさせてもらいますか」

 とりあえずは止血、と僕は保健室の戸を叩いた。


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