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18 彼は始まりを見る。

 学祭準備期間六日目。残り一日。現在時刻16:43。って言っても準備期間はもう終わって、これから前夜祭だけど。

 俺は追いついてきた篠原に声をかけた。

「で、どうだったのよ」

「ダメだな。何度か詰まった」

 表情は変わらないが、さすがに少し参ってるようだ。

「まあそう焦るなよ。お前なら大丈夫だって。悪かったよ、助っ人頼んだりして」

「全くだ。−−−−まあもういいんだが。できることをやるだけだ。あとは」

「なるようにしかならない、か?」

 篠原は少し顔をしかめた。

「人の台詞を取るな」

「まあそう言うなよ主人公」

「主人公って呼ぶな」

 マニワと同じようなこと言いやがって、とか言っている。俺たちは体育館に入って行った。

「クラスごとだっけ?」

「知らん。テキトーじゃないのか。見たとこテキトーだが」

 確かに、クラスメイトも特に固まっている様子もない。

「何時までだっけ」

「知らん。七時くらいじゃないか」

 今年の生徒会はお祭り好きだからな、と篠原はうんざりした顔をする。まあ選挙の時の立会演説会は凄かった。

「何だ、お前嫌なのか」

「別に嫌じゃあない。苦手なだけだ」

「そう不景気な顔をするなよ主人公」

「主人公と言うな。−−−−お、始まるぞ」

 特設ステージに生徒会長が立った。一礼し、顔を上げてマイクを握り直すと、

 いきなり叫んだ。


『お前ら、青春してるかあああああああ!』


それはもう絶叫だった。全校生徒が顔をしかめて耳を塞ぐが、会長は気にもせず開祭の挨拶を始める。隣を見ると篠原は未だに耳を塞いでいた。

「おい、もううるさくないぞ」

「次にいつまた叫ぶか知れん。予防だ」

 あっそ、と俺はステージを見た。結局会長はもう一度叫ぶこともないままマイクを校長に交代した。俺はにやにやと篠原を見て、篠原は不承不承耳から手を離した。

 ところが今度は校長が絶叫した。


『君たち、青春してるかあああああああい!』


 こ、校長!?

 全校生徒がびっくりして目をむいた。篠原ですらぽかんとしている。俺は笑ってしまった。

「がんばってるなあ、校長」

「いや・・・・がんばり方が違うだろ」

 あとはいつものように淡々と長い話。と、俺は人の群れの向こうに見たことのある顔を見た。名前は知らないけど、あの指に包帯巻いてる男子。女の子と話している。その様子を見て、俺はふと思った。

「そういやお前、彼女いないよな」

「何を唐突に。ああ、いねえよ」

「学祭マジックとかないのか?」

 学祭マジック。学祭の浮かれた雰囲気の中で不意にカップルが成立するという現象だ。ちなみに俺にはない。

 そして学祭マジックで成立したカップルは長持ちしないというのもおまけについたりする話。まあ、学祭に限らず修学旅行なんかでも見られる現象ではある。皆浮かれた空気にころっとやられるのだ。いやあ、どいつもこいつも若い若い。

 篠原は眉一つ動かさない仏頂面で、

「そんな予定はないな。俺は部活で忙しい」

「誰かいねえの?遠江さんとか、マニワさんとか」

「何で遠江さんが出てくるのかがわからんが、マニワにしても・・・・ないな」

「あれ、ないの?」

 ステージでは校長の話も終わり、オープニングパフォーマンスが始まったけど全く見ない。篠原は見るともなしに視線だけは向けている。

「マニワとはそういう関係になる気はしない。まあ言っても友達だな。マニワにしたって俺よりいい男のほうが絶対にいいだろうし」

「お前・・・・いや、何でもない」

 お前って、自分が認められそうになると逃げようとするよなあ。卑屈というか臆病というか。言ったら怒るから言わないけど。

「大体、そもそも俺は人に好かれない。愛想悪いしな。好かれるよりは嫌われた方がよっぽどいいし」

「何で」

 未だによくわからない篠原の論。篠原はやっぱり無表情に、

「俺は人とうまく関われない。女の子となんか、気の利いた話はまずできないからな。半端に話して微妙な空気になるのなら、初めから敬遠されてた方がいい」

「だから嫌われた方がいいって?」

 ん、と頷きかけ篠原はわずかに首を傾けた。

「まあ、さすがに嫌われるのは少し寂しいかな。『嫌われてない』ってのが一番いい」

 俺はため息をついた。やっぱりお前の言うことはよくわからん。

「じゃあ後夜祭は?」

「参加は自由だったろ。帰る。俺ノリ悪いし」

「今年で最後なのになあ」

 しみじみ呟くと、篠原は俺を横目で見た。

「そう言うお前はどうなんだ。誰かいるのか」

「ああ、中学ん時の後輩に誘われたからその子と行く」

「・・・・何だと。女の子か」

 篠原は顔までこっちに向けた。ほう、多少は興味があるか。ま、その子とは実際は色恋よりも友達のノリなんだけどな。

「そ。可愛い子。今は吹奏楽部。暇なら見に行ってくれよ。トランペットでソロやるらしいから。中庭で」

「お前、中学ん時は吹奏楽部だったのか?」

「いや?文芸部」

「・・・・あっそ」

 篠原は興味を失ったようにまたステージを見た。クラス展示の宣伝パフォーマンスが始まっている。

「そういえば、このあと部活動紹介だよなあ。お前んとこどうすんの?」

「知らん」

 あ、さっきの男子と女の子のところに、女の子が一人急いだ様子で話しかけている。

「なあ、あれってマニワさんじゃないか?」

「あ?ああ、そうだな」

 ふとそのマニワさんがこちらを見た。二人に何か言って手を振り、こちらへ向かってくる。

「・・・・何か嫌な予感がする」

 ぼそっと隣の篠原が呟いた。マニワさんは少し息を切らして篠原へ抑えた声で、

「御免、前宣伝のこと忘れてた!突然で悪いけど篠原君出て!まだ間に合う!」

「は。ちょっと待て」

「これ読むだけでいいから!」

 マニワさんは俺に会釈して、ずんずん篠原を連行して行ってしまった。はは、大変だな。がんばれよー。

 さて、アドリブで篠原はどうするのか、見物だな。



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