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17 彼女は監督である。

 学祭準備期間六日目。残り一日。現在時刻8:23。ようやく篠原君を捕まえた。

「あ、ちょうどいい。探してたんだ」

 こっちが散々探し回ってからやっと見つけたっていうのに、篠原君はいけしゃあしゃあとそんなことを吐かす。

「探してたのはこっちだっつーの。クラスはちゃんと終わってきたんでしょうね」

 半眼で聞くと、篠原君は余裕の笑みを見せつけてくる。

「ああ、もう大丈夫だろってとこで出て来た。もう山梨だけで問題ない」

「ふうん・・・・で、練習には出れるんでしょ?今すぐにでもやるよ」

「ああ、五時までだろ?五時から前夜祭だったよな」

「そ。だからさっさと始めるよ。全員集めるから、生徒玄関前にいて」

 おう、と答えて篠原君は生徒玄関のほうへ歩いて行った。私もケータイを取り出しつつ教室棟へ向かおうとしたら、あ、そうだ、と後ろから篠原君の声がかかった。ん、何、と振り返ると、篠原君は半身で振り返っていて、片手を上げて朗らかに、

「迷惑かけて悪かったな!」

 私は、う、となった。何でそんな朗らかに、悪びれもなく。でもどうしてかあんまり腹は立たなかった。どうしてだろう。篠原君はそれだけ言って、さっさとまた歩き出して行ってしまった。

「・・・・」

 とりあえず、玄関前に全員集合、と。


 あ、ページが取れた。

「誰かホチキス持ってない?」

「え、台本分解しちゃったの?」

「いや、表紙が取れた。誰かホチキース」

 コールすると部員の一人が持って来てくれた。

「梓のボロボロだねえ」

「毎日持ち歩いてるし、何か思いつき次第書き込んでるからね」

 ほら、と適当なページを開いて見せる。我ながら引くくらいびっちりこちゃこちゃと書き込んであった。矢印走りまくりで、何がどこなのか時々自分でも見失う。

 ま、全部頭に入ってるから問題ないけどね!

「か、監督だ。監督がここにいる・・・・!」

 おののいた表情でその子はのけ反ってくれる。

「私は初めから監督でしょーが」

 まあ悪い気はしないけどね。ホチキスで台本を留め直す。

 調整や確認、手直しは篠原君を含めて滞りなく終わった。さすがに篠原君は何度か若干詰まってたけど、まあ及第点だ。

「明日と明後日は祭が終わった後で体育館のリハーサルあるからね。あ、違う。リハは明後日だけだ。明日は私だけ生徒会と打ち合わせ」

 お願いしまーすと全員が唱和する。けっ、と私は冗談で吐き捨てて、

「んじゃあ明日は皆には自由をあげよう。丸一日自由に遊ぶがよろしい」

 皆はわあ、と盛り上がった。また連絡するけど明後日忘れんなよーと声をかけつつ、私は隅の縁石に座っている篠原君のところへ行く。篠原君は無表情に台本を読んでいた。今日ミスったとこの確認かな。

「お疲れ、篠原君」

「全くだ。何だって三年目にしてこんなハードなんだ」

 ちらっと私を見上げるのみでまた台本に視線を戻し、篠原君はぶつくさ言う。私も隣に座った。

「あ、隣いい?」

「座ってから聞くな。まあいいけどさ」

 ぼそっと言い、またぶつぶつとぼやく。

「まあそうぼやくなよ主人公。今日だって大したもんだったよ。ほとんどミスらなかったし」

「だがミスった。俺は別に完璧主義じゃないが気に入らん。ってかそもそもお前が俺を主人公にしなけりゃな」

「まあそう言うなよ主人公。それに引き受けたのは篠原君じゃないか。そんなに嫌なら蹴ってもよかったんだよ」

「・・・・まあそうなんだけどな。でも俺はやっぱり裏方のほうが性にあってるんだが」

 まだ言うか。

「私を信じなさい。君は表に出られる人間だ。私が保証する。私の目に狂いはない!」

 誰かの演説風に言ってみました。

「表になんか出られたって出たくない。俺はなあ」

「いよー主人公!」

 知らない声がかかった。振り返ると、確か篠原君のクラス責任者君が片手を上げて立っていた。篠原君はと言えば、半眼で睨んでいる。

「うるせえ。何の用だ」

「や、練習終わったって聞いたからさ。何かまだあるのか?」

「ない」

「んじゃ行くべ、前夜祭」

 先に行ってるぞーと責任者君は生徒玄関のほうへ向かった。篠原君はため息をついて立ち上がった。

「・・・・はあ。んじゃあ、次は明後日だな?」

「そ。ケータイに一斉メールするから気をつけといてね」

 私もお尻を払いつつ立ち上がる。うん、と篠原君は仏頂面で頷いた。

「んじゃまあ、明日もがんばってくれよ監督」

「そっちも、本番は完璧にしてくれよ主人公。明日は突っ込んだ練習はできないからね」

 もちろんだ、と篠原君は頷き、軽く手を振った。私もお疲れーと手を振る。篠原君は生徒玄関のほうへ歩いて行った。

 さて、と私はまだ持っていたホチキスをまだ作業していた小道具係の子に返す。

「はい、ありがと」

「いえいえ!先輩ももう前夜祭ですか?」

「うん。ちょっと職員室寄って行くけど。もうすぐだから、その辺で切り上げていいよ」

「あい、了解です。お疲れ様でしたー」

 お疲れーと手を振って、私は歩きながら、んーと大きく伸びをした。

 いよいよ明日からかあ。

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