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15 彼女は思い立つ。

 学校祭まであと七日、と後ろの黒板に大きく書かれている。書いたのは確か室長だったと思う。こういうイベントが好きらしいから。盛り上げるのも上手だし。

 ズダダダダとミシンを打ち込み続ける。黙々と。そりゃもう黙々と。不注意で指を縫い付けるわけにはいかない。痛いのは嫌いだ。

 うちの学校は一週間から完全準備期間になる。何年か前の生徒会長が勝ち取ったらしい。その代わり、その二週間前から一日の授業が増えるから何とも言えない。

「できたよー。次は?」

 後ろで手縫いをしている子に渡し、次の布を探す。所定の位置には布がない。

「ルイ早いー!一人で十人分くらいやってんじゃん。まだ切れてないから少し休んでて」

 布断ちの子たちが悲鳴。大きいし、ミシンだからまっすぐ縫うのは早いよね、そりゃあ。

「あー、布がもうない!」

 材料を突っ込んでいたダンボールを探っている子が声を上げた。

「え、あと何人分だっけ?」

「十四、五人くらいかなあ」

「結構あるね・・・・買って来るしかないか」

「めんどくさいなあ」

「お金いくらあったっけ。誰か会計に電話」

 黙って眺めている間に話はトントン進んでいく。でもまあ暇を持て余すくらいなら何かしていたほうがいい。会話もしなくて済むし。衣装班の中なら他にもまだまだ仕事はあるし。とりあえず、周りが騒いでる間にもせっせと布に飾りを縫い付けている眼鏡の子に話しかける。名前は・・・・ええと、何て言ったっけ。まあいいや。

「何かできることある?」

「え、いや、村崎さんは休んでても」

「暇だからさ。他にやってる人いるのにウチだけサボってもられないし。こう、そわそわしてさ」

 まるでワーカホリックみたいだな、と思ったけど言わない。眼鏡ちゃんは曖昧な笑みを浮かべつつ仕事を教えてくれた。ウチが頷いて針と糸、布を受け取ると、それに気付いて騒いでいたうちの一人が振り返った。

「ルイは休んでてもいいんだよー」

「いや、仕事してなきゃ落ち着かなくてさ」

 なんだそれーとその子は笑ったが、するとその隣のツインテールが、

「いやいや、むしろ休んでてほしいくらいだよ。ルイのおかげで仕事早く終わっちゃいそうでさー」

「・・・・早く終わったら、ダメなの?」

 訊いちゃいけない、と思いながらも口から出てしまった。辛うじて、顔面には曖昧な笑みが張り付いている。対してツインテールは爽やかな笑顔で、

「だって早く終わっちゃったら他んトコ手伝いに行かなきゃならないじゃん」

 ねー、と言い合う。コイツら、と一瞬沸騰しかけたけど、顔に出る前に抑える。抑えられた、だろうか。

「心配しなくても、ウチ一人じゃそんなに早く終わんないよ」

 暗にこの子たちが手伝わないこと前提で、皮肉のつもりで言ってやったんだけど、まるで気付いた様子もなく、なら大丈夫かーとか言っている。そもそも誰のせいでこうなっていると。興味がない、と部活を理由に序盤から参加していなかったウチも悪いのだが、作業を始めたのは今日からなのだ。他のグループはとっくに始めている。それでも結構カツカツらしいと聞く。ましてこのペースじゃこの班は終わりっこない。大体、クラスの人数なんて知れてるのに布が足りないってどういうことだ。飾りが足りなくなるっていうのならともかく。それをコイツらは何を楽天的な。

 黙って手を動かしていると、割と単調作業だったからいらん頭も動いてしまう。余計なことを考え過ぎ。別に悪意があってのことではない。きっとアレが普通なんだ。アレが、普通。

「・・・・」

 ウチは普通にはならない。絶対なってたまるか。

「あの、村崎さん」

「ん?あ、御免、何?」

 何度も声をかけていたみたいだ。眼鏡ちゃんが手に次の布を持っている。

「その、それ」

「ん。ん?ああ」

 いつの間にか終わっていた。次のを受け取ると、また黙々と手を動かす。集中すると手の動きが良くなる。もっと効率のいい方法を探す。この調子で今ある全部終わってしまったら、あの子たちは文句を言うだろうか。

 と、また考えに沈んでいたら、また眼鏡ちゃんに気付かなかった。

「んあ、御免。何?」

「あ、いや、大したことじゃないんだけど、明日から他の学校でも学祭始まるよねって」

「ああ、そうだね。どこやってたっけ?」

「えっとね、確か北高と東高と・・・・」

 加えて二つほど高校名を挙げる。へえ、全然考えてなかった。

「あたし、明日友達と北高に言って来ようと思うんだけど、村崎さんも来ない?」

 仕事サボってか、と反射的に言いそうになったけど言わない。

 それとね、あんまり親しくない友達少なさそうな人を友達の輪に誘うのは、誘ったほうも誘われたほうもぎくしゃくするから、やめたほうがいいよ。友達いない奴には友達いない理由がちゃんとあるんだから。あ、いや、ウチにも友達はいるよ?部活をさっ引いたらかなり少ないってだけで。

 これも言わないけど。

 ああでも、その厚意は受け取っておこう。

「ありがとう。でもウチは――――」

 あ?ちょっと待てよ。

「東高?東高もやってるって?」

「え、うん。明日からだけど」

 そうそう、明日明日と頷きつつ考える。東高か。東高は確か、数少ない友達が一人と中学時代の部活関連の知り合いが一人行ってた気がする。・・・・今も友達と呼んでいいんだろうか。他県に引っ越したクセに結局元の県の高校に通ってるって知ったら、アイツ何を思うだろう。

 っていうかアイツ、ウチを覚えているだろうか。さっぱり連絡もとらないで。まあ中学のときはまだケータイ持ってなかったんだけど。さて、微妙なところだけど・・・・

 ま、行けばわかるか。

「うん。やっぱり御免。ウチは昔の友達に会いに行く約束あるから」

 嘘なんだけど。それも下手な嘘。御免ね、優しい子。それとついでに、前後の矛盾に気付いてくれるな。

「そっかー残念」

 本当に残念そうに言ってくれて、手元に視線を戻す。ウチも作業を再開した。

 部活関連のもう一人のほうは、もしも見つけたら声くらいはかけてやろう。

 元気かな、アイツ。ウチは親友とすら呼びたかったかもしれない中学時代の友達を思い出す。

 懐かしいなー。見つかるかな。見つかるといいな。覚えててくれてるといいな。


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