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01 彼は舞台に上る。

群像劇に挑戦しました。一話ごとに語り手が変わります。今のところ語り手の名前は明記しないつもりなので、それとなく考えてみてほしいです。

 学祭準備期間四日目。残り三日。現在時刻15:37。天気、晴れ。

 いよいよ学祭準備もラストスパート、佳境に入った感じだ。どこのグループも否応なく熱が入る。夏の午後は暑く、うちにも何度か氷菓の差し入れがあった。

 うちは演劇部だ。本番は体育館だが今日の割り当ては終わってしまっているため外での練習。

「あー、暑い暑い」

「篠原君、さっきからそれしか言ってないぞ。ぼやく暇があったら動け動け」

 脚本家兼監督である真庭が腰に手を当てて注意してくる。俺は小さく、

「動いたら余計に暑いだろうがよ」

「そこっ!集中すれば暑さも忘れるんだよ。それくらい集中しなさい。ほら」

 丸めた台本ではたかれた。へいへい、と応じて座っていた芝から立ち上がり、皆のところへ向かう。短い休息だった。

「条件は皆一緒だよ。篠原君のはただの怠慢」

 この女、何の遠慮もなく言いやがる。

「大体、何でお前は俺を主役にしたんだよ」

 そもそもの原因だ。うちは別に部員が多いわけでもないから役者と道具係に区別は薄いが、主役ともなると道具係のほうへは回らない。俺はそっちのほうが性に合ってるんだが。

「何でって、ねえ。何かイメージがぴったりだったの。気だるげなところとか、面倒そうなくせに要領いいところとか」

「・・・・それ褒めてないだろ」

 ともあれ、まあ確かにいつまでもぼやいてはいられない。他の部員に迷惑をかけるのは俺の望むところではない。

「はーい、休憩終わり。皆休んだ?」

 真庭が全員に声をかける。全員いることを確認して、再び通し稽古が始まった。俺の出番は少し遅い。ヒロインのほうが先だ。

 本番四日前ともなれば、全員しっかりと練れてきていて、通しながら真庭が時折少しの調整をするのみでやりやすくていい。

 台詞。動き。自分の台詞でないときでも違和感のない存在感。真庭が拘るのは自然さだ。演技ではなく、日常にいるような、そんな自然さ。

 そして伝統である、ラストの死亡フラグ。どういうわけだか、この学校の演劇部には奇妙な伝統があった。主に脚本家に継がれる伝統。『悲壮感なく華麗に死亡フラグを立てる』。これは初代が定めたらしい。代々、『死亡フラグの美学』と呼ばれる。全く意味不明だが、百聞は一見に如かず、初めて見たこの部の演劇は凄かった。中三のときに見た『卒業記念』の演劇。俺は生れて初めて感動し、急遽志望校のランクを二つも上げて、止める周囲の声も聞かず受験。そしてギリギリで合格して今に至る。正直どこまでも綱渡りだが、満足している。

 あの日見た感動にはまだ遠く及ばないと思うけれど。

 日がやや傾いてきて空も橙色になってきた時分に、こうして活動している様子を、青春しているなあなどと眺めているような俺は、何となくロマンチストなのかもしれない。嬉しくないが。誰にも言わねえ。でもまあ、そう思うのは事実だ。

 出番の合間にそうやって一人ごちていると、俺の鞄のところで携帯電話が振動しているのに気づいた。マナーモードであったために気づかなかった。発信者はクラスメイトの山梨だった。クラスの出し物の代表だけど、何かあったんだろうか。あいつはデキル奴だから救援とか必要ないと思うんだが・・・・

 真庭に了解を取って電話に出る。と、出た途端に山梨が怒鳴った。

「うるせえ!何て言ってんのかわからんぞ!」

 怒鳴り返すと山梨は少しトーンを落として、

「ああ、ったくさっさと出ろってんだよ」

「こっちはこっちで忙しいんだよ――――何か用か?」

 俺が不機嫌に問うと、山梨はああと答え、

「ちょっと面倒なことになった。お前の助けが必要だ。大至急教室へ来てくれ。さあ」

 一方的な上に妙に上からな調子に俺はむっとして、

「だからこっちはこっちで忙しいんだ」

「つべこべ言わずに走れ!早く!」

 怒鳴られて、俺は仕方なく真庭のほうを見る。真庭は先のやりとり(っても俺の言葉と山梨の怒鳴り声だけだろうが)を聞いていたのか、苦笑してOKサインを出した。俺は感謝の意を込めて頭を軽く下げ、中庭を突っ切り他の作業場の間を抜けて玄関へ走った。

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