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“キミ”が見るキミ。  作者: アンキモタロウ
オープニング
11/16

私と、一緒に

 え、と声が漏れる。それが俺の声だったのか、それとも夏目の声なのか、それは分からない。分かるのは、俺の手を握っていた、夏目の手から力が抜け、そして離れた、その事実。


 とさり、とあまりにも軽い音で驚いた。“俺”の倒れる音。

 俺は呆然と、ただその姿を眺める。何も言わずに、何も言えずに。


「え……」口から漏れる“夏目”の声。

 夏目の胸から“俺”の血がどくどくと流れて。

 地面に赤い糊が広がる。どんどん、見る見る内に。


「…………なつめ……?」

 一体、この一瞬の間に、何が起きたのか分からない。

 音。あの音は。銃? ピストル? 何?

 ダレ? 誰が? どこから? 何で? ナンデ?


「………………」

 え?

 ぱくぱく、と動く夏目の口。


「……ごめんね」

 俺はその傍らに座り込む。スカートが血に濡れる。


「何を言ってんだよ、夏目。俺、よく、分かんないよ」

「……私、死んじゃうみたい」

 その声は、驚くほど、小さかった。

「…………はじめの、この身体と、一緒に。私、ごめんね、死んじゃうみたいなんだ……」

「……な、」

「ホントに、ゴメンね、はじめ」

 “俺”が優しげに笑う。


 と、同時に。

 ピュイン、と鋭い音が耳元で響いた。それが拳銃の弾で、夏目を討ち抜いたものと同じなことは、すぐに、分かった。

 再び、拳銃の弾が“夏目”の右耳を掠めた。


「逃げて」夏目が言う。

 その声だけは、先ほどのものより、ずっと、ずっと大きかった。

「……嫌だ」

「お願い」強く言う。「“私”と一緒に生きて」

 ぶわり、と“夏目”の目から涙が溢れて、倒れたままの“俺”の傷口へと落ちる。自分の中の何かが壊れてしまったかのように、俺の涙が“夏目”の瞳から馬鹿になって落ちる。




「ゴメン、はじめの身体を私にちょうだい」




 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおうぅ!!!!

 口から漏れた俺の叫び声。

 俺は無意識のうちに鞄から拳銃を取り出し、弾の飛んできた方向に向かって引き金を引いた。

 想像していたよりもはるかに強い衝撃が右腕を襲う。“夏目”の右腕が激しく震えた。

 痛い。

 それは痛みだった。

 銃を撃つこの身体を、銃を撃つこの心を、痛みが襲う。

 それでも何度も闇雲に撃って。

 撃って、撃って、撃って。

 シリンダーの弾が無くなるまで撃ち続けた。

 かちゃり、とハンマーが空の弾倉を叩く。


「はあ……、はあ、」と息を吐き、辺りを見回す。

 もう人の気配はない。いや、最初から人の気配など感じられなかったのだ。俺の放った弾丸が誰かに当たった感じも全くしなかった。そう、きっと、逃げられた。


「夏目!!」

 俺は拳銃を放り出し夏目の肩を抱いた。その肩は小さく震えていた。


「死なないでくれ!! 俺、まだ言ってない」

「………………何を……?」

「夏目が、好き、って言ってくれた、あの言葉への返事、まだ俺はしてないよ」

「…………」

「好きだ。愛してる。大好きだ!!」

「…………うん……」

 夏目の身体から力が抜けていく。


「…………んね」

「ゴメン」

「…………ごめんね」

「ゴメン」

 繰り返す。繰り返す。


 夏目から、“俺”の身体から、生きていることの証明である、あたたかさが失われていく。


 嫌だ、嫌だ。


「生きて、はじめ」

「…………ぁぁ、」

「“私”と一緒に生きて」

「ああ」

 俺は強く、出来る限界の力で頷いた。


「生きる。“つくよ”と一緒に生きる」

 すると夏目は俺の目から流れる涙をその手で拭き、そっと囁いた。


「ありがと」




 そうして、夏目月夜と、“俺”は死んだ。

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