◆九話◆ 【side*柚樹】
結局、知裕は停学という処置をとられることになった。
ここで問題なのは、この停学が俺のせいかどうかという点だった。
だとすれば、非常に不味い。
なぜって、今回の停学のせいで知裕は、中間テストを受けられないことになったからだ。
受けられないってことは、自動的に追試が決定してるってことだ。
要約すると、俺のせい(?)で人を殴った知裕が停学になって追試が決定。追試で点を稼がないと長期休暇中の補修が決定しさしては進級が危うい。……と。
まあ、そんなわけなのだ。
「……行くか」
放課後のチャイムと同時に席を立つようにして、俺はいつもと同じ駅に足を運んだ。
ドアが開けられるとそこには、黒いTシャツを着たジーンズ姿の知裕が立っていた。
「あれ、あれれれれ、来てくれちゃったりなんかしたの」
「……」
無言で扉を締めようとした俺の手首を、知裕が慌ててつかむ。
「ああっ待て!! 俺が悪かった! ごめん帰るな!」
部屋に上がると、そこは思いの他片づけられていて拍子抜けしてしまった。
実を言うと、なんだかんだでずぼらというか、モノにこだわらない知裕のことだから、部屋の方もそれ相応に散らかっているだろうと踏んでいたのだ。
いや、モノにこだわらないからこそ整頓されているのか。
「結構片付いてるんだな」
素直に感想を述べると、「おうよ、いつでも一緒に住む準備はできてるぜ」などとほざくので腹に一発入れてやる。
時計は既に6時を回っている。
知裕は冷蔵庫をのぞき込みながら言う。
「ま、ちょっと話していけば」
酒と炭酸の入ったグラスをそれぞれ持ってくる。
それからは、他愛の無い話をした。
何故そんな話になったのかはわからない。
いや、今はもう記憶にない。
「ねえ、そもそもなんでお前は俺を好きだとか言い出したの?」
「そりゃ、好きになったからだろ」
「じゃあなんで好きになったの」
「んーユズ、お前は今とっても難しい疑問を俺にぶつけている。それはわかる?」
「なんで?」
そもそも、俺は本気で人を好きになったことが無い。と、俺は思う。
今まで、女なら履いて捨てるほどいた。(履いて捨てるな)
そいつらはみんな、俺の顔が好きだとか、体が好きだとか、そんな理由で俺に近づいてきた。
そのくせ、俺が休日に時間を割いてやらないと文句は言うし、やれ誕生日だやれクリスマスだと俺に尽くすことを求めてきた。
知裕は、俺に何を求めているのか知りたかった。
俺には、知裕に何を求めていいか、わからなかったから。
「んー……、そうだな。ま、俺はユズ、お前が笑っててくれたらそれでいいかな」
――よく、わからなかったけれど。
今までの女たちとは違うということは何となく理解できた。
知裕は、俺に何かを求めている訳ではなくたしかに「俺」を求めていた。
「そうか、俺は、トモの言ってることはよくわからないけど……」
「おい」
「トモがそういうなら、俺は出来るだけ笑っていよう、と……思う。……うん」
テーブルを挟んで向かい側に座る知裕の顔は、とてもじゃないけど見られなかった。
俺はグラスを握った自分の指をひたすら見つめながらつぶやく。
ふっと。笑ったような気配に顔を上げると、知裕の顔がこれ以上ないほど間近にあった。
ごそごそと水面下で活動しておりました黒星です。
どうも本当にご無沙汰でした。
ブログの方では連載続けておりましたがやっとこちらに帰ってこれました。
ふう、もうさっさと結婚しないですかねこの二人←
次話は明日の18時に予約投稿してあります。
よかったら是非<(_ _)>