◆五話◆ 【side*柚樹】
あれから3日。
知裕とは全く話をしなくなった。
自分が何を間違ったのか、正直わからなかったし
何を直せばいいかもわからないのだ。
自分が人より優れているのなんて、顔くらいだ。
ひとりで登校し、弁当を食べ、まっすぐ家に帰る生活が何日か続くうちに柚樹は自分が孤独に弱い性質だったことを知る。
常に知裕と一緒にいたから、これといって仲の良い友達もいない・
校舎裏のベンチに腰掛け、弁当をつつきながらはて、と思う。
俺は一体、あいつにどうして欲しかったんだ。
大丈夫って言って欲しかった。
必要とされたかった。
大事に思われたかった。
俺は、あいつをどうしたいんだ……
一瞬浮かんだ思考を、柚樹は無視した。
「なあ」
突然至近距離から声をかけられて反射的に振りむく。
「……誰?」
同じ学年ではない。
柚樹たち2年生のネクタイの指定色は紺色だ。
この男の付けているえんじ色は、3年の指定色だ。
「お前、2年の朝倉だろ?最近平岡がそばにいないんだな」
「そう、ですけど……」
触れられたくないところではあったが、先輩だから無視するわけにもいかない。
「喧嘩か? 慰めてやろうか?」
「や、いいです。全然だいじょうぶなん……」
「狩野にはやらせたんじゃないのかよ」
「はい?」
訳のわからないことを言われて思わずまじまじと相手を見る
「学校中の噂だぜ?」
なんだそれ。
「俺そんなの知らなっ……」
「まあいいや、こっちは一回やらせてもらえればいいんで」
腕を掴まれ身を捩る。
「やめっ……離せって」
くっそ、どいつもこいつもなんだってこんな・・・。心のなかで悪態をつくが
両腕をつかまれ身動きがとれない。
「あれ、彼氏の登場?」
振り返ると、そこには知裕が立っている。
「トモ……」
自分でも情けなくなるような小さい声しか出なかった。
俺はまたしても惨めな姿を見せてしまったことに耐えられなくて俯く。
「離れろよ」
俺の腕をつかんでいたそいつは肩をすくめながらも手を離す。
この間とはちがう、いつもの知裕の声で俺に話しかけてくる。
「大丈夫か?」
「ああ……」曖昧な返事を返してもまだ顔を上げることはできない。
「くそ、なんなんだよお前ら」
そいつは悪態を突きながら踵返し、俺と知裕を一瞥して去っていった。
「……なあ」
なんでもない知裕の一言に一々ビクつく自分が笑える。
「あっ、ありがと。じゃあ……」
「待てよ。」
くそ、なんだって話しかけてくるんだ・・・
「……なに」
目を見ないまま聞き返す俺に、知裕はとんでもないことを言い放った。
「俺、お前好きかも」
「はあ?」
頓狂な声を上げたのは俺だ。
思わず知裕の顔を見上げると、いたって真剣な表情で俺の目を覗き込んできた。
「いや、なんか見てたら……ってか、なんか最近お前のことばっか考えてて、なんでお前に告白とかする奴が気持ち悪いんだろうっておもったら……」
「やっぱりきもちわるいんじゃねえか」
歯切れが悪いながらも、たしかにこいつは、気持ち悪いといった。
それがどうして「俺を好き」なんていうことに結びつくのかわからない。
「や、でもお前はそうじゃないっていうか、むしろこう……」
「むしろ?」
先を急かしたのが間違いだったのか?
「ムラっと……」
「はああっ?」
こんどこそ俺は耳を疑った。続けられたこいつの言葉にもだ。
「取り敢えず付き合ってくれ」
「……」
もはや言葉も出ない。
「色々してみたらわかると思うし」
ひょいっと腕を持ち上げられ、反射的に俺は知裕に頬を空いた方の手でちからいっぱい殴りつけた。
「ざっけんなっ!!!! 死ねボケッ!」
「あ、おいっ!」
引き止める声があったが、知ったことか。
そして次の日から、知裕は俺に普通に話しかけてくるようになった。
どうしてかは知らない。
兎にも角にも、俺達は、驚くほど簡単に、元通りの関係に戻った。
俺の中に、大きな問題と、新たな身の危険を残して。
こんばんはお久しぶりです。黒星白です。
さあ、頑張れ平岡。
あと一押しだ。
朝倉『で、受験はどうやったの?』
平岡『聞いてやるなよ・・・。』
黒星『公立落ちてたらユヅあんた総受けだから。』
朝倉『ちょっ…それ限りなく100%じゃっ…』
平岡『…かなりキテるな。』




