◆十三話◆ 【side*柚樹】
料理は、美味しかった。
こいつは本当になんでも出来るんだなと感心し、空腹が満たされた俺は目下の悩みすら忘れかけていた。
ソファを背もたれに床に腰を下ろし、ぼけーっと窓の外を眺めていると寄りかかっていたソファに座った知裕が口を開いた。
「で、考えはまとまった?」
「え」
「え。じゃないよ。お前はいつから酒の力を借りなきゃ本音の言えない子になったんだ」
まるで俺を育ててきたかのような口ぶりだ。
だがあながち間違っていないだけに反論できない。
口をぱくぱくさせているだけの俺を見かねたのか知裕がため息を吐いて続けた。
「じゃあこうしよう。……ユズは俺が好きなの?」
俺は黙って頷いた。
そりゃ、「そういう」対象として意識さえしなけれは、今の俺に知裕ほど安心して身を任せられる奴はいない。
「俺は、ユズが本当に俺と友達に戻りたいって言うなら努力はするし、もうこんなことも言わない。好きだってことは止められないけど」
黙って床を見つめる俺に続ける。
「……でも、それは本当にユズの気持ちなわけ?なんで俺に自分を諦めて欲しくないの?本当に友達に戻りたい?」
何か言わなくてはいけない。質問に答えなくては。
戻りたい……って?
そう思えば思うほど、何かが喉につっかえて、俺はついにうつむいてしまった。
ふと、知裕の気配が動いた。
その手は俺の後頭部に当てられたかと思うともう片方の手もすぐ俺の顎をつかんだ。
俺はまだ顔を上げない。
「嫌なら、逃げて」
そう、耳元で囁く知裕の目に顔を上げると、これ以上ないくらい優しい表情の顔があった。
……逃げたら、どうなんのかな。
そう思って、俺は、目を閉じた。
まず、聴き方からしてずるいんだよ。
そう思ったけど、すぐに塞がれた唇に酔う。
ゆっくりと口腔に入り込んでくる舌に驚いて目を開けると、薄目でこちらを見ながら笑う知裕の顔がある。そっと床に押し倒された。
俺はこの時すでに確かに知裕が好きなんだろうな。と確信していた。
それでもあと一歩踏み出せないのは、今まで知裕と積み重ねてきた関係があるからだ。
今までがあるから、知裕を好きになった。
今までがあるから、知裕を受け入れられない。
おかしな話だなと思っていると「集中しろよ」キスの合間にそう告げられる。
そういう知裕だって自分余裕があるじゃないか……俺は少なからず不本意な気持ちもあって、ついに自分からキスをしかけた。
自慢ではないが、今まで相手にしてきた女なら履いて捨てるほどいるのだ(だから履いて捨てるなと)。
正直、経験だけなら知裕よりも多いのではないかとすら思う。
俺だって節操なしというわけではないが、くるもの拒まずさるもの追わず。それに対して知裕は女が切れないわけではなく、わりにひとりの相手と付き合っている期間も長かった。
兎にも角にも、俺は知裕を陥落させるべく技術を総動員してそれこそこれまでにないくらい濃厚なキスをした。
舌を絡め、歯列をなぞる。
すると、予想外に知裕はどんどん勢いをなくしていった。
先ほどとは逆に、ほとんど俺にされるがままだ。
「ちょ、ま……待て。待てユズ、柚樹」
ついに、先に値を上げたのは知裕だった。
濡れた唇を天候で拭い、俺の顔の横に手を付いた知裕をまっすぐと見返す。
知裕はうろうろと視線をさまよわせた。
「はあーっ」
深いため息を付きながら俺の首元に顔をうずめる知裕に何事かと驚くと、知裕がそのまま口を開いた。
「ま、じでやばかった。今のは、ホントに。」
「え?」
俺に覆いかぶさるようにして首元で言う知裕に聞き返す。
なにが?もしかして、言ってみたはいいけど実際積極的にこられると気持ち悪かったとか?
さっきまでキスに酔っていたのが嘘のように、気持ちが曇っていくのが分かった。自分の気持ちを認めた矢先に突き放される感覚にひどく今の状況が落ち着かなくなる。
身じろいだ俺に何を思ったのか、知裕は俺の脇を持ち軽々と抱え上げると自分の膝の上にのせる。
そのまま強い力で腕を巻き付けられると、俺はすっかり知裕の胸に収まってしまった。
さあ行け!!!!←←
しかし次の更新は21日にします笑
焦らしプレイ((