◆十二話◆ 【side*柚樹】
「俺……わかんないんだけど、トモが俺を諦めるみたいなのは嫌だ」
「難しいことを言うんだな」
知裕の胸に顔を埋めたまま俺が言うと、知裕はすこし腕の力をゆるめて言った。
でも、本当にそう思った。
俺は知裕と友達に戻りたい。
お互いがお互いを「そういう」対象として見ることのない、前みたいな前みたいな友達同士。自分のきもちに整理の付いていない今、それしかないと思ったのだ。
ただ、俺のせいであんな顔をする知裕をみるのは、俺の本位ではない。それにさっき感じた気持ちをなかったことにして、俺を諦めた知裕ともう一度前と全く同じ関係になれるかというと、そうではないような気がした。
「もう、今日は寝よう」
知裕は俺の後頭部を抱いたまま言った。
俺も、もうなにも考えたくなかった。朝起きて、今知裕と交わした言葉が、キスが、気持ちが、ぜんぶ嘘だったらいいのにな。
そう思って俺は知裕の胸に身をあずけ、再び目を閉じた。
意識が覚醒してくると、すこし頭痛がしてくるのが分かった。
ふわりと身体が浮き上がって、でも頭には泥水がたまってる感じ。そう思って仕方なく重たいまぶたを上げる。
そうして俺は、不自然なくらい自分の意識が持ち上がってくるのを感じていた。
自分のものではない人肌に身じろぐと「起きた?」急に背後から声をかけられて肩を揺らす。
……――ああ、そうか。
あのまま寸あり二人で眠り、今日は土曜日だ。
都合がいいのやら悪いのやら……
さすがに今日のこの気分で学校に行く気は起きないけれど、知裕と過ごす朝の時間に身の振り方を困ってしまう。
知裕は起き上がると顔を洗いに行ったのか、壁の向こうから水音が聞こえてきた。
上半身を起こし自分の格好を確認すると、身に付けたままねむってしまった為制服がめちゃくちゃになっていた。
――どうしよう。
ぐるぐると考えていると、知裕が白いTシャツにジャージを持って戻ってきた。
「シャワー、使って。制服はおいといてくれたらまわしとく。」
「え、悪いし……」
「いまさらだろ」
ふっと笑って言った知裕に心臓がはねた。
簡単にシャワーを浴びて、下着とジャージに足を通す。
ボクサー型のそれは知裕が予備お新品を開けてくれたものだが、ウエストからなにから大きくて、抑えていないとずり下がってしまう。
渡されたものを身に付けて脱衣所から出ると、黒いカーディガンを渡された。
部屋には一応暖房が聞いているけれど、「ゆざめするから」そう言われたので一応羽織っておく。
すぐい食卓に座らされ、俺がシャワーを浴びているあいだに作ったのか、だし巻き卵にほうれん草のおひたし、味噌汁に塩じゃけ、いつ炊いたのか炊きたてのゴハンまで。見事な和食の朝ごはんが並べられていた。
「すご……」
小学校に上がってすぐ、父親が交通事故で死んでから、母は働き詰めで俺を育ててくれた。
昼も夜も働く母に朝食の準備まで求めるのはすこし無理があって、記憶の中で食べた朝ごはんは、せいぜいトーストにジャムを塗って牛乳と一緒に飲み下すぐらいだ。
こんな朝食はいつぶりだろう。
並べられた目の前の料理に唖然としていると、知裕が向かい側に座った。
ちょ、この二人(主に知裕)どこに行こうとしてんの?←
大丈夫でしょうかコレ。