◆一話◆ 【side*柚樹】
冬休み明けの1月、冷たい風が頬を撫でる。
「……っ寒い。くっそ、なんだってこんな日にこんなことしてんだよ俺達はよ」
ホウキを握る手はかじかんで真っ赤になっていて、いまいち感覚がなかった。
雪こそ積もっていないが、気温はほとんど0度だ。
まあ、元はといえば自分が悪いのだからあまり文句を言える立場ではないのだが、それが分かっているからこそ黙々と仕事をするのに耐えられないのだ。
「ほんと、寒いな」
思わずといったふうに、朝倉柚樹は独り言ちる。
掃いても掃いても減らない落ち葉が、更に柚樹のいらだちを募らせた。
「ま、落ち着けって。そのうち終わるだろ」
そんな俺のいらだちなど意に介さないようにのんびりと答えるのは同じ2年の平岡知裕だ。
通った鼻筋と、切れ長の目にかかる黒い長めの前髪。
色のない景色に、整った横顔がよく映えるが、何しろ学校の指定ジャージ姿で手にはホウキ。
「せっかくの顔もその格好じゃなあ……」
「はは、お前がそれを言うか」
「まあね、それよりトモ。この後なんかあんの?」
「ないけど、どうした?」
こいつは、落ち着いた喋り方をする割に、自分のモテることを鼻にかけたり成績のいいことを自慢したりしない。
そういうところが気に入って同じクラスになったのがきっかけでつるむようになった。
それまではあまり表情を変えないこいつのことをスカしたやつだとかおもっていたが、付
き合ってみるとそんなこともなく、漫画の趣味も音楽の趣味も合う。
あっという間に仲良くなり、今ではこいつのアパートに入り浸ることもザラだ。
もともと、俺は自分のテリトリーに他人を入れることがすきじゃない。
というかぶっちゃけ嫌いだ、そんな中でこいつは一緒にいても疲れないし、そういう意味では俺はこいつが好きだと思う。俺はホモじゃない。
だいたい、俺は女受けするこの顔が、同時に男にも受けることを知っている。
こいつが俺をそういう目で見てくることがないってのも大きいと思う。
兎にも角にも、俺と知裕は学校でもちょっと知られてるくらい仲が良かった。
ま、知裕が年上の先輩方に人気だってのがでかいかな。
今日もそうだ。
昨日お年玉で買ったゲームを知裕の家でやってもいいかと聞くと、「ああ、そうしな。」と答える。
大体、俺は家に行っていいかと言われて、断られたことがない。
お互いの予定なんて、週単位で把握しているから当たり前っちゃあたりまえだが。
「っはあ、もういいんじゃない?」
早くゲームのしたい俺が切りだすと、
「待ってて、先生に確認してくる」
「うん」
様子を伺うと、案の定もめているようだ。
そもそも、このバツ掃除は俺が今日の日直をサボったのが原因だ。
部活動終了までの二時間、裏庭の掃除を言いつけられたわけだ。
何故知裕まで一緒にいるかというと、俺がこいつを脅したのだ。
実際どうでもいいことだったなとは思うが、俺が言えば、大体のことはなし崩しに付き合ってくれる。
取り敢えず、早く帰りたかった俺は、担任の木下に横から話しかけた。
「せーんせ、俺ちゃんとがんばったじゃん」
「ダメよ。教頭先生に言われたでしょ。
大体あなたがいつもいつもサボるからいけないんでしょ」
「じゃあ、明日からさぼんない」
「そんな事言って」
「……ゆづ、先生困ってる」
知裕が意図に気づいて言葉を挟む。
ここだ、このタイミング。
「やっぱりだめなのかなあ。俺、今日夕飯の当番なんだけど……」
母子家庭で、母の手伝いにも積極的な優しい高校生か。
我ながらいい。
「しょうがないよ。先生も寒いのに、大変なんだから」
「そっかあ、せんせ。頑張ってねっ。俺達もあと一時間がんばるよ」
基本的に、女教師なんてのは俺達二人がかりで心配して頼み込めば……
「……しょうがないわね。教頭先生には私から話しておくから」
ほら、オチた。
「本当?先生、ありがと!」
「ゆづ、片付け」
つくづく便利だなとは思うけど、顔はよくとも特に特技のない俺はやっぱり知裕とはちがうと思う。
こいつは勉強できて、部活の剣道も個人で県ベスト8に入ってる。
それで真面目くさってるかといえばそう言うわけでもなく、さっきみたいに一緒になって教師をはめたり、授業をサボったりもする。
アホな俺とも話が合うから面白い。
本当に、誰から見てもイイヤツなのだ。
最も、周囲はこいつのことを「真面目で無愛想」と認識しているみたいだけど。
それにくらべて、俺はにこにこしてることでしか人に認めてもらうこともできない。と思う。
別に演じているつもりもないけど、できるだけ当たり障りなく人に接するようにしているから、ますます知裕みたいな奴と親友だということが誇らしいのかもしれない。
ただ、最近俺と知裕に合コンだの何だのの誘いが多い。
二人セットだと、女の子の集まりがいいそうだ。
そのへんはふたりとも自覚してるから利用してもらって構わないんだが、結局俺たち目当ての娘じゃ意味が無いと思うんだけど。
まあ、付き合いが悪いと思われない程度に参加している。
来週末もなんかあるって言ってたな。
俺はもう、しばらく女はいいやと思ってるから、ここ最近の集まりは正直しらける。
知裕はどうなんだろう。
ふと、そう思い手を止めて顔を伺うと。
「なに、見惚れた?」
「んなわけあるか、タコ」
「ひでえな、ま。いいや、なんでもないなら手を動かしてくださいよ王」
こんな口を聞くくせに、知裕は俺に甘い。
俺がさっさと身ひとつで校門へむかうと、俺の荷物をもって後を追ってくるのだ。
乾いた地面を走ってくるあいつの足音が心地良く耳に響いた。
学校から駅まで20分歩いて、3つ目の駅で降りてからまた10分歩く。
その間、俺たちはお互いのことをたくさん話す。
話したいことはたくさんあった。
幾度と無く繰り返して、だんだんお互いのことを知ってきたのだ。
その日は予定通り知裕のアパートでゲームをした。
さっきのことは、なんとなく聞けないまま。
はじめまして。
黒星白です。
そうか生温かい目で見守ってやってください。
ツンデレ受け×ヘタレ攻めがドツボ。
受けは人肌恋しいと良い、攻めが常識苦労人だとなお良い。
これぞ趣味と実益を兼ねたなんとやら!