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変わった俺と変わらないアイツ。

作者: 勘解由麹
掲載日:2026/07/06

 ずっと音がしている。その一つは今温めているレンジの音、その一つは近くで飛んでいる虫の羽音、そして最後は、友達が永遠と話しかけてくる音。そいつの声はやけに耳障りがよく、所謂明るい元気な声。あいつの周りの音は妙に夏を感じさせた。

「おい,見ろよ!テレビで今サッカーやってる,お前も見ろって!…はぁ~お前見ろよ!相変わらずつまんねー奴だな!」

笑いながら彼は言う。とても楽しそうな表情で、とても幸せそうで。しかし、彼に言いたい事が一つ。今はテレビなんて流れていない。


 前にいる彼はいつも、ずっとそうだ。俺はもう30近くになり企業に就職し、社会に揉まれて帰ってくるのに目の前のコイツは永遠にあの12歳くらいの姿のまま。俺の部屋に勝手に入り冷蔵庫を開けアイスを食べ、そのくせ「お前ん家しっけてんな〜!」とか平気で文句を言う。しょうがないだろ、買い物行く余裕なんてないんだから。あと、勝手に入ってくるのはいいが大家の目とかがそろそろキツくなってくるんじゃないか、お前頻度は考えろよ…30代のおっさんがガキ連れ込んで朝に帰すとか噂になったら洒落にならん。

 しかし、俺はまたあいつの嬉しそうな顔を見るたび文句が言えなくなるのだ。


 死んだように眠った後、あいつがいないのを確認んする。大体あいつは朝に帰る。懐かしい気持ちになり、過去を思い返そうとする。写真立てを持って、俺はあいつのとの記憶を思い出すのだ。


ーーーーーー

 中学に入る前から,俺達は親友だった。いや,もちろん友達は他にもいるがな?ただ,いつも一緒にいて,遊んで,悪戯をして。そういうのはずっとコイツだけだった。俺たちは近所で有名な悪ガキで,親友だった。


 俺達の学校は一学年30人程で,あいつの名前は出席番号の一番だった。

「うらやましー」

と言うと,アイツは

「この苗字で良かったって、初めて思えた」

とか姉貴の好きな漫画で出てきそうな儚げな表情を浮かべていた。


 俺はいつもアイツを家に招き,遊んでいた。大抵そのまま泊まりになってしまうので朝に一緒に登校するなんてザラ。アイツは変なやつで、俺が話しかけても大抵何も言わず分かったような背中をしている。そのくせ聞いてみればちゃんと聞いてはいない。だから俺は,いつもアイツの耳元で話をするのだ。コイツが後を向いているときはろくでもない事が多い。コイツは定期的に誰に何も言わず自然に一人の世界に入るのだ。過集中とでも言うのかもしれない。


 いつもの行きつけの駄菓子屋で,てきとうに今日の気分で菓子,主にアイスを買い食べる。アイツは大体決まった一つのものしか食べなかった。「一口食ってみろよ!」と言っても「いらねーよ」と返される。ソレを気にはしないが疑問には思う。その後はてきとうにくだらない遊びをしながら家へ帰るのだ。


 1日,1日だけいつもと違う日があった。その日はアイツがいつもより塞ぎ込んでいて、何があったのかはとてもじゃないが聞けなかった。ただ離れはしなかった。一番の敵は孤独だと知っている。

 やがて,アイツは口を開いた。

「なぁ、何があっても親友だって、言ってくれるか?」

何を今更,と俺もまた口を開く。

「当たり前だ。ずっと一緒だ。お前がどんな姿になっても。」



ーーーーーー

「どうして、こうなっちまったんだろうなァ。」

俺は現実に戻った後大抵そう思う。朝の支度をしながらしみじみ思う。あいつは何時までたってもガキの姿のままで、俺の冷蔵庫を漁ってついていないはずのテレビを見て騒ぎ、朝になったら帰っている。最早一種の妖怪ではないか、と笑みを浮かべる。別に嫌なわけではないのだ。

 いつもの白米と味噌汁と水を飲み、歯磨きをして着替えて仕事へ行く。ずっとそのルーティンを守っている。

 真っ暗になった後、漸く電車に乗って駅から歩いて地面を見ながら帰る。帰った後暫くするとあいつが家に来て、俺に話しかける。ソレにてきとうに答えながらいつものご飯を食べて、風呂に入りそして限界が来て眠くなったら寝る。折角来てんなら手伝いくらいしてくれればいいのに。俺はいつも思っている。


 やがて今日も、あいつと話し疲れて寝るのだ。そうしてまた朝がやってくる。



ーーーーーー

 同じ日常が続くと思っていたのは,果たして俺だけだったのだろうか。…いや,案外そのきっかけを作ったのは俺だったのかもしれないが。

 日を重ねるごとに俺は周りの人との交流が増え,帰るのが遅くなっていった。同時にアイツとの時間も減っていく。申し訳なさから顔を見なくなったが,哀愁が漂っていたのは事実だった。

 よくは知らないがアイツは俺以外とは交流がなさそうで,昔からアイツの親に何か言われる事はなかった。何なら俺はアイツの親の顔を知らない。知らない…が,良い扱いは受けていなさそうだった。現にアイツは痩せていて服は汚く,いわゆる痣の様な物は見つけられなかったが…なにかに付けて俺に執着する様な素振りを見せた。答はそれで十分じゃないか,と思う。


 …別に,俺はアイツと遊ぶのが嫌な訳では無かった。楽しく遊べれば誰でも良かった。少なくとも小学生までは,それで充分だった。少しずつ,少しずつ。俺の日常からアイツの音は消えていった。やがて音がしなくなったのは、2週間ほど後だろうか。



ーーーーーー

 俺はあいつとの思い出に浸りながら、ふと今までの事を思い返してみた。あいつは俺がいなきゃ何も出来ない。可哀想な奴だった、だから俺はいつも一緒にいたんだ。今だって俺がいなきゃご飯も食べられないんじゃないのか?まったく、仕方のない奴だよな。


 小学生の時はずっと一緒だった。人数が少ないのもそうだが、そもそも俺とあいつの家は近かった。中学になってから人数が増え、出席番号は更に遠くなった。あいつは周りの大勢に囲まれ、色んな意味でクラスの中心だった。俺は出席番号が一桁台である事を恨んだ覚えがある。


 今もあいつは大丈夫だろうか、怖くないか?困ってないか?飢えてないか?寂しくないか?


 風鈴の音がなる。また振り返る懐かしいあの日の思い出。俺は今すぐにでもあいつに会いたい気持ちになった。会いたい、会えない。あいつの幸せが俺の生きがいだ。


 時間になった、俺はまた職場へ向かう。



ーーーーーー

 久しく会っていなかったアイツがいきなり俺の前に現れた。町中,夕方に,だ。しかしこちらの方向をみている訳ではなく,こちらにずっと背中を向けている。嫌な予感がした俺は逃げ出そうとするも叶わない。身体が動かない。アイツはゆっくり声を発した。

「久しぶり。元気だった?寂しくなかった?俺なしでも大丈夫だった?」

頭にあるのは恐怖とやけに煩い心臓の音。

「あ,あぁ,うん。お…前は?」

そう、必死で絞り出すので充分だった。少しの沈黙の後,アイツは笑いながら言った。ジリジリ煩い夏の蝉も、自転車の金属の音も布が擦れる音も何もかも不気味だった。

「元気?元気かなんて…お前が1番分かってるんじゃない?」

ゆっくりアイツはこちらを向く。表情は笑っているのに目は何も映していない。アイツの全てが不気味だった。ゆっくり近づいてくる。足音が淡々と響く。漸く動いた俺の身体は、自転車や荷物なんて放って足を動かす。夢で逃げるように,焦る俺の足はもつれる。土を蹴る音がする。自転車が倒れる音がする。アイツが歩く音が大きくなる。家へ,家へ走ろうとするが驚くくらい何もなかった。道が途切れているのを見て悪手と分かりつつも林へ逃げ込んだ。草が,枝が肌を刺して傷を作る。が,もう気にしている暇はなかった。音が,音が近づいてくる。



ーーーーーー

「エェー午前六時のニュースです。2010年8月5日、巣守町の林で、遺体が発見されました。死体には擦り傷の他に刃物で刺されたと思わしき傷が背中から見つかり、一帯では不審者が目撃されているとの話もあったためその犯行ではないかと推測されています。…遺体の素性が判明したそうです。亡くなったのは14歳の少年中里 真くん。彼は生前…」


ーーーーーー

 今日も俺は同じ時間に起きて同じ時間写真を眺めて、あいつとの思い出を振り返り同じ飯を食い歯磨きして着替えて歩いて駅に向かう。電車に乗って職場へ行き仕事をこなして同じ時間に帰る。帰ればあいつが家に来てまた再び話す音を聞くのだ。

うげーホラーむずー


話し方とか文に多少の差があって、話し手を気にしながら読むことを勧めます。

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