新婚生活
あの結婚初夜の日から平和な日々が続いています。
結婚式が終わって、すぐにお父様達は領地へ行ったのでシュトラール侯爵家には若夫婦の私達しかいません。
そのおかげかグレン様もシュトラール家に慣れてきたように見えます。
真面目な方なので毎日、しっかり仕事の為に登城し残業などがなければ、真っ直ぐ帰って来て夕食を共にしたり、お茶を飲みながら会話をします。
寝る時も一緒に夫婦の寝室で眠ったり、まだ恥ずかしさがなくなりませんが閨があったり…思ったより、まともな新婚生活に驚いています。
フェアリー男爵令嬢とはどうなっているのかは分かりませんが、このまま関わらずにいてくれたらエド兄様のお願いも叶いますし、私としても普通の家族として生活できるのでは?と考えているのですが…
グレン様をお見送りした後、執務を片付け着替えると王城へ向かいます。
エド兄様に現状報告をする為です。
「ごきげんよう、エド兄様」
エド兄様の執務室へ入るとデスクで書類を捌いていた顔を上げ、こちらを見てにっこり笑いました。
「いらっしゃい」
エド兄様が補佐官達に休憩を告げ退室した事を確認すると、ソファーへ移動してきたので、私も向かい合いに座りました。
ローテーブルの上には紅茶と、いつも通り私の好きなお菓子が並んでいます。
「で、新婚生活はどうかな?」
「思ったより普通ですわ。もっと殺伐とするかと思っていたのですが」
初夜の際に「愛する事はない」と言われたことは秘密です。
まぁ、エド兄様の事ですから予想はしているかもしれません。
「グレンはその辺賢いからね。さすがにアイリーを蔑ろにするわけにはいかない事くらい理解しているんだろうね」
フェアリー男爵令嬢に心を捧げていても、さすがに王弟を父に持つ私を蔑ろにすると、只でさえ五年前の事で失望されているアレク兄様にも影響があるかもしれません。
そう思うとグレン様が少しは気を許してくれたかと思っていましたが、少し気分が落ち込みますね。
エド兄様にはバレないように態度には出しませんが…
「そうですわね…ちなみにあちらのご様子はいかがですの?」
結婚式の後、ほぼ屋敷に籠っていたのでフェアリー男爵令嬢達の情報は仕入れていませんでした。
「うーん、そうだね…グレンが結婚した事は知っているんだろうけど…相手がアイリーだとは兄上達は気付いていないかも」
「は?気付いていない?アレク兄様に誰も伝えていないのですか?」
衝撃的な発言に口調が乱れましたが、どうせ知られているので気にしません。
「うん、私達からは伝えていないからね」
一応、私も王位継承権を持っているので本来結婚するとなれば、かなり大掛かりな式になりますが、今回お相手がフェアリー男爵令嬢とその仲間達の一味であるグレン様です。
どう転ぶか分からなかったので、ドレスを着て協会で宣誓と婚姻届にサインをするだけの略式にしていました。
…土壇場で逃げ出される可能性もありましたから。
しかし、結婚のお知らせだけは各貴族家当主には送っておりますので、知ろうと思えば簡単に知る事ができます。
「アレク兄様はそこまで落ちぶれましたのね」
エド兄様や国王である伯父様は邪魔をされないように、あえて伝えていなかったのでしょうけど、口止めまではしておりません。
つまり、アレク兄様に情報を与える者が側にいないという事です。
「仕方ないよね。娼婦もびっくりな程、男達を侍らせているような令嬢を未だに側に置いているからね」
他人ウケのいい笑顔と辛辣な台詞が合っていませんが、事実なので私も否定しません。
「少し気になっていたのですが、フェアリー男爵令嬢とはどんな方ですの?私、まだお会いした事がないので知りませんの」
私とフェアリー男爵令嬢とその仲間達は年齢が五歳違います。
事件の後にデビュタントを迎えた私は、どの人がそうなのか分かりません。
アレク兄様とフェアリー男爵令嬢はお茶会や夜会など公の場で接近禁止と国王である伯父様から言われています。
それでも抜け道はあるので守っていないだろうという予想は、あながち間違いではないと思いますが…
「アイリーの目には入れなくてもいいと思うけど、そうだね…外見はピンク色の髪の毛で瞳はピンクブラウン。素朴で庇護欲を誘うような感じだと言われていたけど、私からしたら発情期の雌猫と変わらないかな。まぁ、私の妃やアイリーの様な美しさはないよ」
にっこりと笑っていますが、その背後から黒い物が漏れ出ている様に見えるのは私の気のせいでしょう。
卒業式の際にお義姉様に冤罪を着せようとした事を根に持っているのが言葉の端々からビシビシ伝わってきますが、仕方がないですね。
しかし、素朴で?庇護欲を誘う?ような感じですか…
青みがかったプラチナブロンドの髪でロイヤルブルーの瞳の私は、どちらかといえばキレイ系ですので正反対でしょうか?
グレン様は可愛らしいタイプがお好きなのであれば、私に心変わりはしないでしょうね。




