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真実の愛のその後  作者: シエル


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夫と5年前





「君には悪いが、私には愛する人がいる。だから、君の事を愛する事はない」





初夜の場で無表情かつ淡々と告げてきたのは本日、筆頭侯爵家嫡女であるアイリス・シュトラールと結婚したばかりの夫である。


 

グレン・ブラックウッド小侯爵様⸺⸺宰相をお父様にもつブラックウッド侯爵家の嫡男です。


黒く短いサラサラの髪にガーネットレッドの瞳で、学生時代は『氷の王子様』とサムい渾名をお持ちの現在24歳。

 


彼の言う『愛する人』というのは現在、第一王子殿下のご愛妾と名高いマリー・フェアリー男爵令嬢の事でしょう。


このフェアリー男爵令嬢と第一王子殿下、そして夫を含む側近達は16歳になったらすべての貴族が入学しなくてはならない学園で出会い、恋をし、愛を育んだらしい。



ただ、問題は第一王子殿下を始めとする令息達には婚約者が存在していたのです。




そう、すべては五年前の学園の卒業式が始まりでした。




当時、王太子であった第一王子・アレクサンダー・フォン・ランカスターには隣国の公爵令嬢である婚約者がいました。



この婚約は友好関係を深める為に結ばれたものです。


隣国の王家には王女がおらず、そこで白羽の矢が立ったのが王家の血筋を持つ公爵令嬢でした。



極めて普通の婚約者同士で卒業後の結婚も決まっており仲を深めていました。


それが学園に入学すると一気に関係性が変わってしまったそうです。




そう、マリー・フェアリー男爵令嬢との出会いでした。



フェアリー男爵令嬢は地方の田舎貴族で平民と分け隔てなく暮らしていたようです。


その為、貴族のマナーや教育がほとんど身についておらず、それは入学後も変わらなかったそう…



そんな珍獣がお気に召したアレクサンダー王子殿下はフェアリー男爵令嬢を傍に置くようになり、側近達とも距離を縮めていきました。



そんな中、婚約者である公爵令嬢が留学してきたのです。


アレクサンダー王子殿下もさすがに婚約者にフェアリー男爵令嬢を友人として紹介し、親交を深める事を勧めたそうです。



しかしながら、彼らの距離感は高位貴族として教育を受けた彼女には困惑するものであり、それとなく注意などをしたそうです。


それをフェアリー男爵令嬢は大げさな程に騒ぎ立てては、その度にアレクサンダー王子殿下や側近達が庇い立てるというカオスな状況が続き、どんどん公爵令嬢や側近達の婚約者達との関係が悪化していきました。




…当然の話です。



フェアリー男爵令嬢はアレクサンダー王子殿下だけではなく、側近達も虜になっていましたが、あくまで恋人はアレクサンダー王子殿下であり側近達は友人であると主張していました。


しかし、彼らの婚約者から注意をされると、その該当の側近に泣きつきに行くあたり、キープされていたのでしょう。



そんなギスギスな学園の卒業式に事件は起きました。




「アレクサンダー・フォン・ランカスターは婚約を破棄し、新たにマリー・フェアリー男爵令嬢と婚約を結ぶ!」




…そう、他国からの客人もいる中で突如、断罪劇を始めたのです。




「君がマリーを虐めていたのは知っている!例え、国同士の友好の為とは言え、自分より身分の下の者を虐げるなど言語道断!王妃に相応しくない!」


 


この台詞と同時に各側近達も各々の婚約者達の名を呼び、婚約破棄を叫んだそうです。



彼らの言う虐めとは、たまに口調がキツくなる事はあったようですが注意の範疇であり、極一部あった嫌がらせのような事は公爵令嬢や側近達の婚約者達には関係のない事でした。



その場を収めたのは入学前のエドワード第二王子殿下と公爵令嬢のお兄様でした。


二人は理路整然と証拠を示し公の場で冤罪を晴らしたそうです。



その後、その場でエドワード王子殿下は公爵令嬢に求婚し、三年前に学園卒業と同時に結婚しました。


今では王子殿下一人と先日生まれたばかりの王女殿下に恵まれ幸せに暮らしております。



そして、断罪劇で失態を犯したアレクサンダー王子殿下は王太子資格を剥奪され、ただの第一王子に戻りフェアリー男爵令嬢との婚約は認められませんでした。



側近達は一部を除き、婚約を解消もしくは破棄され多大な慰謝料を支払い、各家の当主がどうにか頑張って新たな婚約者を見つけ結婚しました…夫を除いて。




この『真実の愛ごっこ断罪劇』は当時学園に入学していない私でも知る今でも有名な話なのです。



そんな夫が結婚初夜で言い放った冒頭のセリフ…


 


「まぁ、初夜でそのような発言をするなど…ご自分の立場をご理解なさっていないのかしら?」



 

にっこりと笑い手を頬に当てながら小首をかしげて私は言いました。



手元に扇子がないのは残念ですが、わざとらしかろうと嫌味ったらしかろうと言われても仕方ないと思うのです。






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