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セックスできるかどうかだろ

作者: 小雨川蛙
掲載日:2025/11/20

 

「セックスできるかどうかだろ」


 滅茶苦茶身も蓋もない発言だなと思った。

 一世一代のカミングアウトが日常に消える。

 君はスマホから目も移さない。


「話は終わり?」


 カチンときた。

 私の話をちゃんと聞いていたのだろうか?

 本気でそう思ってしまう。


「飯食いにいかね? ケーキとか甘いの」


 やや遅れて苛立ちが溶ける。

 君の動揺が伝わってきた。

 君、甘いもの嫌いなくせに。


「『女には甘いもの』なんて単純な頭してんの?」


 茶化すような自分の問いがこの場では不誠実だと思えたけど、一度放ってしまった言葉は口には戻りはしない。


「うるせえな」


 こっちだって動揺してんだよ。

 そう言いたいのだろうと思った。

 君のスマホを覗き込めば『女子 スイーツ 好きなもの』なんて馬鹿みたいな検索の仕方をしている。


「男二人じゃん。入りづらいよ」

「は? 男女だろ?」


 試し行動はあっさりと否定された。

 どこからどう見ても男である私に対し、君は私を最大限尊重してくれている。

 困惑しながらもどうにか適応しようと藻掻いている。

 その様が申し訳なく思えた。

 申し訳なく感じるのは失礼だと感じた。


「行こうか」


 スマホから目を離した君は私を見て立ち上がる。

 気まずそうに瞳を何度か動かして、さらにいつもより早い瞬きを何度かしながら。


「うん。甘いものにするの?」

「食いたいんだろ? 女子だし」

「いつもみたいにラーメンでもいいよ」


 君は肩を竦めて歩き出し、私はその背を無言で追った。



 *



「にしても最低じゃない?」

「何が?」

「こっち、結構悩んだんだよ?」


 ケーキを待ちながら私は尋ねる。

 男子高校生二人は流石に浮いてしまう気がしたけれど、君は気にした様子もない。


「悩んだって言われてもな。実は女でしたなんて言われても正直、こちらからすりゃ『はい、そうですか』としか言えなくないか?」

「じゃ、そう言えばいいじゃん。なーにが『セックスできるかどうか』なのさ」


 君は鼻で笑い口を僅かに開き、それでも何も言うことなくセルフサービスの水を自分のコップに注いだ。

 まだ半分も飲んでいない私と違い君はもう三杯目。


「あとでオシッコ行きたくなるよ」

「連れションは出来ないな」


 自分で口にした言葉に眉がピクリと動き、端から分かるほどに強く目を強く一瞬閉じる。

 どう振る舞っていいのかわからないのだろうと今更ながらに悟る。

 半分残った水を一気に飲み干し、口を開いた途端に君が私のコップに水を注いだ。


「他に知っている人はいるの?」

「ううん。お父さんやお母さんにも言っていない」


 身体は男だ。

 心は女だ。

 歪だ。

 晒せるわけもない。


「そっか。大変だったな」


 君の言葉が水よりも冷たくて、透き通るように落ちていくようだ。


 真剣な話だ。

 だけど、深刻に話したくはない。

 誰にも知られたくない。

 だけど、誰かには聞いてほしい。


 そんな自分勝手な気持ちの発露。

 君は不器用ながら受け入れてくれた。


 期待していた通りに。


 ケーキが置かれる。

 私達二人の前に。


 店員のお姉さんが微笑んで聞いてきた。


「甘いもの好きなんですね」

「ええ」


 君が真っ先に答える。


「男の子なのに珍しいね」


 親しみを込めたタメ口。

 年齢は私達とそう変わらないだろう。


「子供舌なんですよ。二人とも」


 失礼な言葉だ。

 私に対してのものとまるで違う。

 けど、そんな男の子らしさが気に入ったのか、店員のお姉さんはニコリと笑ってその場を去っていく。


「食べよっか」

「ありがと」


 君が慣れない手つきでフォークを持つ。

 クリームを上手くすくえず、ケーキが崩れていく。

 まるで子供みたいだ。

 おまけに甘いのも苦手なのに。


「ケーキ以外には何が好きなの?」


 悪戦苦闘しながらケーキを食べる君に私は答える。


「別にケーキは好きじゃない」

「は? そうなの?」

「好きなんて言っていないじゃん」

「お前」


 言いかけた言葉を君は飲み込んだ。

 そう。

 ここに来るのは君が勝手に決めたんだ。


 私を気遣う君が。

 君はため息をつく。


「口直しにラーメン行こうぜ。食い終わったら」

「それ、女子に言う言葉?」


 あっ。

 試し行動。


 後悔した直後に君はあっさりと言った。


「友達に男も女も関係ねえだろ」


 後悔が霧散する。

 ぽつりとした言葉に涙が落ちそうになる。


 君はスマホを開いた。

 私の涙から目を外そうとした。

 だけど、思い直して私を真っ直ぐに見つめて言った。


「話してくれてありがとう」


 今度は耐えきれなかった。

 涙が落ちただけ、心が楽になった気がした。





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