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悪魔の子アルブス

パトローナス島は氷の大陸だ。永久凍土と言われる場所が大陸の三分の一を占めている。冬になると凍ってしまう海も多い。昔パトローナス大陸の半分を占めていたオプレンタス国に突如攻め入ったのも不凍港を手に入れるためだったと言われている。

「さ…寒い」私は思わず体をさすった。「船長の言った通り毛布などの防寒具を揃えた方が良いですね。」この港町の万事屋と名高いらしい店を町の人に紹介されて扉の前にリキを待たせて入る。チリンチリンっと入店すると扉についてる鈴がなった。レンガ造りの部屋の中で暖炉がぱちぱちと音を立てている。中には縄や油、丸太に薬草、毛布に服に食べ物。服はドレスまで置いてある。本当に色んな物が置いてあって「さすが万事屋。」私は思わず感嘆のため息をついた。奥には本が沢山積み上げられており、その本の奥にちらりと背の曲がった鼻眼鏡の老人が筆ペンを持って何かを紙に書いているのが見えた。とても気難しそうである。私たちはそれぞれ必要なものを手に取っていく。三人分の毛布にそれぞれローブの下に着る様の毛皮の服。それから干し肉とドライフルーツ。カリタスがそこにハーブを追加する。油や水やお酒などは自分で容器を持参し、それに店主が入れてくれる仕組みらしい。それぞれ大きな樽に入れてあり、そこに『容器持参。店主に声かけ』と紙が貼り付けてあった。私たちは会計のために本の山の奥にいる店長に声をかけた。煩わしそうにゆっくり腰をあげ、本の山をくぐって私たちの前に現れた彼に買う品物を出した。「それから油とラム酒と水をそれぞれこの革の水筒に補給してくれますか?」老人は黙ったまま革の水筒を三つ受け取るとそれにそれぞれ補給してくれた。「あとこれにオリーブオイルを」スピーヌスが自分の鞄から革の水筒を取り出して老人に渡す。老人はオリーブオイルの補給も終わるとぼそっと「1000ガル」と呟いた。安い、私は驚いた。こんなに買って1000ガルなのはとても安かった。お財布から1000ガル出して彼に渡すとこくりと頷いて再び本の山の中へと消えていってしまった。なんというか取り入る隙のない人だ。

 再びチリンチリンと鈴を鳴らして店を出る。「良い買い物ができましたね。」「本当に。安いし品揃えも良い、人気なのが納得だよ。」私たちは良い買い物ができて満足だった。足取り軽く町を出る。二日酔いの頭痛さえなければ完璧だ。


  町から都まではそれなりに距離がある。しかしリキを連れて馬車を借り、途中で魔道具に込められた魔力がきれて狼に戻ったりしたら大惨事だ。魔道具はあと一日分の魔力しか残っていない。私たちは人通りから離れた場所を歩いていくことにした。町が見えない所まで行くとカリタスはリキの首からネックレスを外す。リキは大きな灰色狼へと姿が戻る。やはりリキは大きい。化け物なのかもしれないと思ってしまうようなサイズだ。リキは船酔いで苦しんだ仲だからかあれからスピーヌスにだいぶ心を許していた。今はスピーヌスが彼の背中を撫でてもあまり怒らない。リキは久々に元の体に戻れてだいぶ満足らしい。あっちへこっちへと積もった雪の中を走っている。

 カリタスが地図を広げて確認したところ、この後森を三日ほど歩くことになるらしい。


 しばらく歩くと森が見えてきた。針葉樹の森が雪化粧をしている。足を踏み入れると外よりも寒い気がした。寒さのせいでますます口を開くのが億劫になる。そして、その静けさがますます私たちの体を凍らせた。全てが音のない、動きもない世界に飲み込まれ、少しずつ心も体も凍えていきまるですべてが静止画のようだ。前に進んでいるはずの足も本当に進んでいるのかわからなくなりつつあった時それは起きた。

  突然むこうから真っ白な絨毯を赤色でてんてんと染めながらうさぎがかけてきた。リキはそのうさぎをガブッと噛みつき仕留める。そしてリキはそのうさぎを自慢げにカリタスによこした。カリタスがそれを受け取った時ビュッ、トスッ。カリタスの足元に矢が刺さった。「それは、私の獲物だ。」向こうから一人の少女が現れる。真っ白な長い髪。両頬の髪をひと房ずつ金のリングでまとめ、他の髪を後ろにながしている。雪のような白い肌。私は生まれて初めて自分と同じぐらい白い肌と白い髪をもった人族を見た。そして彼女の瞳は燃えるような赤だった。「アルビノ」カリタスが隣でぼそっと呟いた。その言葉に反応して彼女が舌打ちをする。そして再び弓をカリタスにむけた。それに反応してスピーヌスが飛びだし、彼女を地面に押さえつける。「離せ!」スピーヌスに押さえつけられて少女が暴れる。「攻撃しないと約束するなら離してやる」低い声でスピーヌスが彼女に圧をかける。彼女は何とか抜け出そうと暴れ、身をよじるがスピーヌスの力が強く抜け出せないことを悟ると「…わかった。攻撃しない。」悔しそうにそう言って暴れるのを諦めた。


  パチパチと焚き火の火花があがり、夜の暗闇をぼんやりと照らしている。随分お腹が減ってたらしく彼女はすごい勢いでカリタスが先ほどのウサギを使って作ったご飯を食べた。私も久々に美味しい食事ができて幸せだ。「…よっぽどお腹が減ってるみたいですがどうしてこんな森に?」カリタスの言う通りだ。私たちは人通りを避けるためにこの森を通ることにしたが普通の一人旅なら整備された人通りの多い道を通る方が良いに決まっている。「…おまえたちは旅人か?」少女が私たちを見る。「ええ。王都にむかってるの。」「王都に?」少女は警戒を露わにする。「ええ。ヴィス国の王族…つまり、使徒の血族に用があるの。」「なぜ?」私は少しためらった後に目にかけてあった魔法を解いてオパールのように光る瞳を見せる。「レクター」目を見開いて少女が驚くと頭を深々と下げた。「失礼した。私はヴィス国の第一皇女、アルブスと申します。」「第一皇女?つまり今追われている…」「そう。私がクーデターで追われている第一皇女だ。」「…なぜクーデターが起きたのですか?」焚き火の火が一瞬激しく燃え上がり、彼女の赤い瞳と白い肌を照らした。「町で噂を聞いてこなかったのか?クーデターが起きた理由、それは私が悪魔の子だからだ。」「悪魔の子?」私はアルブスを見つめる。「ヴィス国に古くから伝わる昔話だ。『白き肌と髪に血のような赤色の瞳をもつ男がある日、山の奥の洞穴から現れた。その者多くの子供を攫い、再び山の奥の洞穴へと消えた。人々は洞穴の手前で子供を返してくれと毎日毎日涙を流して願ったがとうとう返してもらえる事はなかった。そしてその人々の流した涙が溜まり、泉ができた。』だから皆白い肌と白い髪、赤い目をした人を悪魔の子として恐れる。そしてそれが今回国の第一皇女だった。皆が恐れている。私が国に厄災を運ぶのではないかとね。」アルブスは自嘲気味に笑った。「そんな昔話のひとつでそういう容姿の特徴を持つ方々を悪魔の子だとするなんておかしな話です。昔から白い肌と白い髪、赤い目を持つ人は稀に生まれるものです。アルビノと呼ばれ、病気の一種だと考えられています。」「迷信だとしても多くの者が信じた瞬間それが真実になる。」アルブスの顔が焚き火に照らされる。「それだけの理由でクーデターが起きたと?」「それだけ広く信じられている話なんだ。パトローナス島の民は信心深い人が多いからね。」「これからどうするつもりだったの?」アルブスを見る。「隙を見計らって王都奪還をするつもりだ。…そのためには三光鳥を召喚する必要がある。」「三光鳥?」「ああ。パトローナス大陸を守ってるとされる神獣だ。ヴィス国の王族の中でも王の地位に相応しい選ばれし者、つまり使徒パトローナスの生まれ変わりとされる者がその三光鳥を呼びだせるという伝承がある。今ではわざわざ呼び出すことはせず王位を継ぐ際は形式的な儀式を行うだけだが、悪魔の子とされる私が国民に納得してもらうためには三光鳥を呼び出してその地位を証明するしかない。」アルブスの赤い目が決意で燃える。「パトローナスの生まれ変わり…つまり使徒の紋を持つ人物ってことだよね。アルブスは使徒の紋を持っているの?」アルブスが驚いた顔で私を見た。「レクターは知らぬのか?使徒の紋は最初から現れる者もいるが大抵はその地に眠る神獣を呼び出した時に現れるのだ。」「つまりアルブスは現段階では使徒の紋がない、と。」「ああ…でも三光鳥を呼び出せば使徒の紋も現れる。レクター、ついてきてくれるか?」「それはもちろん。私たちも使徒の生まれ変わりを見つけなければいけないからね。」アルブスが頷く。「三光鳥が眠っているとされるのは都の裏にある神聖視される山の頂上だ。つまり一度都を経由しなくてはならない。」「瞳や髪の色は私が魔法で変えるとしても警戒しなければいけないね。」「そうか…星族は魔法が使えるんだったな。感謝する。」アルブスは軽く頭を下げる。「今はアルブスさんの妹さんが王権を牛耳ってるんですよね?妹さんはどんな人なんですか?」その言葉にアルブスは目を伏せる。「…優しい子だ。」それだけ言うと彼女は黙り込み、寝袋に入って寝てしまった。

 私たちも何と言ったらいいのかわからなくて黙りこんでしまった。沈黙の中、カリタスが焚き火に薪をくべる。 弱まっていた火が再び力を取り戻し、アルブスの寝顔を照らし出す。ひどく、険しい顔だった。


 ピチュピチュッと鳴く鳥のさえずりで目を覚ます。焚き火の火がだいぶ小さくなっていた。カリタスは魔法で火の力を強め薪をくべると、鞄から鍋を取り出し焚き火にかけ、水とハーブ、鹿肉を鍋に入れスープを作る。

出来上がったスープを朝食として食べ終えると再び都にむかって出発した。

アルブスはどうやらリキが苦手らしい。歩いている途中なるべくリキが目に映らないようにしていた。カリタスが少し眉を顰めてアルブスに聞く。「…リキが苦手なんですか?」「…ああ、すまない。リキと言うよりは狼が苦手なんだ。」アルブスは素っ気なくそう言うと再び黙ってしまった。


 何と言うかあまり自分から話す人間がいないせいで静かな旅だ。何度もみんなの口が凍ってしまったのではないかと疑った。結局明日都に着くという所まで一言も会話をしなかった。誰かよく話す人が旅の仲間になってほしいと考えながら森に入って三日目の晩をむかえる。

 私とスピーヌスで小枝などを集め、カリタスが石で囲んだ円の中に置く。カリタスの火打ち石がカチカチと打ち合う音を聞きながら私はスピーヌスにりんごの皮のむき方を教わる。スピーヌスがするするとナイフで皮を剥くのを見ているととても簡単そうなのだが自分でやろうとするとなかなかうまくいかないものだ。結局こないだと同じように途中でりんごを取り上げられてしまった。

 アルブスは狩りに出かけている。リキも着いていこうとしたがアルブスが嫌がったので彼はカリタスの横でうとうとと寝ていた。火がついてしばらくするとアルブスが馬鹿みたいに大きい化け物魚を連れて帰ってきた。カリタスが手際よく捌き、四人と一匹分に分ける。カリタスは魚をナイフに刺すと火に当てて焼く。それから無事火が通ると焼き魚をみんなで分けながら明日の作戦を立て始めた。「その都の裏にある山は都を通らなければ行けないのですよね?」「ああ。都の裏、しかも周りは柵で囲まれており唯一柵がない入り口は城からしか入れない。」つんでない?と私は内心突っ込む。「しかしその入り口は見張りがいて通るのはまず不可能。もうひとつ山に入る方法として私の寝室から山の中腹に続く秘密の道がある。こちらの方が不可能ではないだろう。」「でもどうやって城に入るのですか?」「城から都の貧民街へと続く地下道がある。」「…地下道に秘密の道に秘密ばっかだな。」スピーヌスがぼそりと呟く。「万が一を想定して色んな道を掘ってあるのだ。」アルブスが頷く。「とにかく貧民街の地下道から城へと忍び込み城のアルブスの寝室から山の中腹に出れいいわけですね。」カリタスがアルブスに確認する。「そういうことだ。地下道には化け物も多く出る。城の中には兵がいる。危険な旅になるだろう…巻き込んですまない。」「ううん、私たちは正しい使徒の生まれ変わりを見つけなくちゃいけないし、自分たちの意思でやってることだから。」「…ありがとう。」アルブスははにかみ笑いをした。「明日はさらに疲れるでしょうから早めに寝ましょう。」カリタスの提案に賛成して私たちはいつもより早く眠りについた。

 夜中、ぼんやりと目を覚ますとアルブスが起き上がってリキをじっと見つめていた。その顔が焚き火の火に静かに照らされている。どうしてそんな傷ついたような顔をしているのだろう。私は声をかけようと口を開いたが眠気に抗えず意識を失った。

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