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苦手な方はご注意ください。

永遠のレシピ〜魔物薬屋の願いを叶えないと薬が手に入らないので、一緒に旅することになりました〜

作者: 柴佐倉

このお話は連載中の「赤き獅子フリネラ〜隊長と部下が生まれ変わって逆転しました~」のフリネラをモデルにして書いたお話です。宜しければそちらもご覧下さい。

「イザベル・ルミエール。ヴァルミア王国国王、ファシリス・オ・ヴァルミアの名の元に不老不死の薬を手に入れる任務を命じる」

「は?今、何と?」

国王の前に(ひざまず)くイザベルと呼ばれた若い騎士は、「不老不死」などとあまり耳慣れない言葉に思わず顔を上げ、聞き返してしまう。

「国王陛下の御前ぞ。無礼者」

国王の隣に立っていた宰相に睨まれる。

「もっ、申し訳ございません」

慌てて頭を下げるイザベル。

「聞こえんかったか?不老不死の薬だ。東の地には飲むと不老不死になれるという妙薬があるらしい。それを探して来るのが今回の任務だ。持ち帰ったあかつきにはどんな願いでも叶えてやろう」

国王の命令とあらばどんな事でも聞かなければならない。例えそれが夢のような話でも。

「はっ!拝命致しました」

「うむ。下がれ」

「失礼致します」

パタン。

「…宜しかったのですか?あのような者に行かせて」

「なぁに、儂も半信半疑の話。実際にあるかどうかなど分からない。暇つぶしには良い」

「ですがイザベルはまだ若い騎士ですよ。新人の中でも将来有望だと聞いております」

「確かに。だが真っ直ぐ過ぎて扱いづらいとも聞いている。あの騎士団団長の父親にそっくりだ。彼奴(あやつ)は出しゃばり過ぎた。任務の途中では何があっても事故。あれ(・・)に関わった者は面倒だ。片付いて丁度良いだろう?ハッハッハ」

「…」

イザベル・ルミエール。

15歳という若さで難関と言われる騎士団の試験に合格した強者だが驚くのはその年齢だけではない。女という身でありながら入団したのだ。その年頃の娘といえば好きな男の子に想いを馳せ、流行りのおしゃれに余念がないのだろうがイザベルは違った。

騎士団団長だった父に憧れ、自身も騎士を目指した。周りの子にバカにされようとも一生懸命に刀を振るう毎日。いつかは憧れの父のような騎士団長になる事を夢見ていた。

だが悲劇は起きたー。

突然の魔物の襲撃。魔物が街に降りてくるなんて普通はあり得ない。その最中、騎士団長の父親が魔物に襲われた新人団員を庇って亡くなったのだ。

「うっ、うぅ…。父さん…」

「団長…」

正義感が強く、多くの団員からも慕われていた父。

だがその性格さ故に他の貴族院議員からは煙たがられていた。自分達は安全な場所で地位と金の事しか考えていない腐った連中共。私は絶対にそうならない。そう決めた。

だからこそ今回の任務は成功させてみせる。そして願いを叶えてもらうのだ。

あの魔物の襲撃。明らかに怪しいと皆が言っている。中には邪魔な父を消す為に計画されたものだとも言われている。噂では敵対していたジャバラ?違う、ジャバル伯爵とピエール?じゃなかった、ノエール公爵の二人だ。この二人は父の意見をことごとく無視してきた。それに飽き足らず、騎士団に不利な法ばかり提出してくる。実際、魔物使いとジャバル伯爵が密会していたのを見ていたという者もいる。

もし噂が本当ならば必ず罪を暴いて裁きを下す!

そう誓った。


出発の朝。

「気を付けて」

「絶対、手に入れて帰って来いよ」

「ああ」

笑顔で送り出してくれる同期のシズとノヴァ。

「これは団長が使っていた剣だ。持って行け」

副団長のルオが渡してくれる。

「きっと団長が守ってくれるだろう」

「ありがとうございます」

受け取った剣はずっしりと重い。

剣の重さだけではなく、責任感の重さを感じる。

ギュッと握り締め

「行ってきます」

私は旅に出た。

不老不死の薬は東の地にあるという噂だけで詳しい地図も他の情報もない。とにかく東の地を目指し、情報を集めて行くしかない。長い旅になりそうだ。

まずは街で聞き込みをしてみる。

「不老不死?知らないね」

「どこにあるんだい。そんな物」

「あるなら俺が欲しいくらいだ」

ひたすら街中を歩き回って話を聞いてみたがやはり有力な情報は見つからない。

「本当にあるのだろうか…」

ぐぅ~。

「お腹が空いた。もう昼か」

時計を見るとそんな時間になっていた。

「とりあえず食堂に入るか」

旅の資金は限られている。ここは安い店を選択するべきだろう。

カランカラン。

「いらっしゃいませ」

入った店は大衆食堂といった感じだ。思いの外、(にぎ)わっていてあちらこちらから美味しそうな良い香りが漂ってくる。

「こちらのお席にどうぞ」

女性の店員にカウンターの席を勧められた。

「何にしますか?今日のおすすめは煮込みハンバーグだよ」

「それでお願いします」

剣を腰から外しローブを脱ぐと隣の席の男性客に話しかけられる。

「何だい、姉ちゃん。旅人さんかい?ここら辺では見ない顔だね?俺はこの街の事なら何でも知ってるぜ」

常連客だろうか。昼間から酒を片手に酔っぱらっている。これは絡まれてしまったか。

「はい。とある方からの依頼で探し物を」

まさか国王からの命令などとは言えない。

「お貴族さんからかい?大変だね〜」

「はあ…」

苦笑いで返すとバシバシと背中を叩かれる。地味に痛い…。

「ところで探し物って?伝説の秘宝、お宝なんて言わないよなあ〜」

そうです。その伝説です。でも不老不死の薬なんて言ったら…待てよ。イケるかもしれない!

「あの、不老不死の薬の話を知ってる人なんて知りませんか?」

「不老不死〜!?」

やっぱりおかしいヤツだと思われただろうか?

「ハッハッハッハ!それは面白いお貴族さんだ!」

あ〜あ。思った通りおか…

「知ってるぜ」

「えぇ!?本当か!」

「ぐっ、苦じい…」

驚きの余り、思わず男性客の襟首を勢い良く掴んでしまった。

「す、すまん」

「はあ…はあ…姉ちゃん、見た目によらず強いな…」

どうやら男性客は酔いが覚めたようだ。

「それで!その話を知ってる人はどこにいるんですか!?」

「…この近くにある煙草屋の爺さん、ジゼル爺さんだ。あそこの煙草屋は古くからあってな。物知りな爺さんだ。ただ情報料は高いぜ」

「ありがとうございます!」

これは幸先が良い。

私は代金をテーブルに置いて急いで席を立つ。

「お客さん、ハンバーグ!」

「すみませーん!今度来ます」

「せっかちな旅人だな」

善は急げだ。ジゼル爺さんの煙草屋に向かう。


例の煙草屋に着くと居眠りをしているお爺さんがいた。

「キセル爺さん!」

「なっ、何だ!?確かに煙草屋だが(わし)はジゼルじゃっ!」

イザベルの大声で起きるキセル爺さんならぬジゼル爺さん。

「すまない。慈善(ジゼン)爺さん」

「だから!…儂は慈善(じぜん)でもないし慈善事業もしとらん。お前わざと間違えてるだろう?」

「そんな事はない。私は大真面目だ!ああ、名前はイザベルだからな」

「お前みたいに間違えたりはせんわ!それで何の用だ。どんな情報が欲しい?」

「良く分かったな」

不思議そうに言うイザベル。

「その服装、年齢、見た目。見ればそれくらい分かる」

「それもそうか。さすがだなジョゼフ爺さん」

「…もういい。それで?」

諦めるジョゼフ爺さんことジゼル爺さん。

「不老不死の薬の話を知らないか?」

「ほう、不老不死のう…あるといえばあるがお嬢さんに払えるかな?」

やはりそう来たか。

「これでどうだ?」

懐の袋から銀貨5枚を取り出す。

「足りんな」

首を振る爺さん。

「ではこれは」

銀貨2枚を追加で出す。

まだ首を振る爺さん。

「これでどうだ!」

金貨1枚を出す。

「良いだろう。少し待ちな」

そう言ってあれでもない、これでもないと言いながら持ってきたのは地図だった。

「極秘情報だからな。不老不死の薬の直接の情報は知らん。だが東の地シェンという村に昔、不老不死の薬を飲んだ巫女がおってな。その巫女が長生きで今、村の長老としてその一帯を仕切っているらしい。その長老なら薬について知っておるだろう。そこまでの道のりだが…」

地図に書き込みながら説明をする親切爺さん。金貨のおかげか。

「ありがとう」

「なに、代価の分を話しただけだ。良い旅を」

行き先は決まった。いざ、東の地シェンへ!

ぐぅ~。

「ハンバーグ…」

まずは腹ごしらえが先だった。


翌朝、昨日泊まった宿を出発して教えてもらった地図を頼りに進む。

乗り合いの馬車に揺られる事、数時間。

「ここがシェンか」

ようやく目的地、シェンに着いた。もっと寂れた村を想像していたのだが思ったより人口が多い。事前(ジゼン)爺さんの話によるとここの村は農業が盛んらしい。

店にも新鮮な野菜や果物がならんでいる。

さて、ここからは聞き込み開始だ。

「あのー、すみません」

店の主人に聞く。

「いらっしゃい」

「私は旅をしている者なのですがこの村の長老はどちらにいらっしゃいますか?」

「ほう、旅人さんか。ようこそシェンへ。ジン様の所ならこの道を真っ直ぐ進んだ先にある大きな家だ。すぐに分かると思うよ」

「ありがとうございます」

「ここだけの話だがそのジン様は…ちょっと変わったお方だから気を付けな」

「はあ…」

不老不死の薬を飲んだ村の長老。一体どんな人物なのだろう。

手土産に先ほどの店で買った果物を持って、道を歩く。すると話の通り、赤い屋根の大きな家が見えてきた。きっとここだろう。

コンコン。ドアをノックする。

「突然すみませーん!ジン様はいらっしゃいますかー?」

返答がない。

もう一度叩いてみる。そして大きな声で叫ぶ。

コンコンコン。

「すみませーん!!私、イザベルと申しますがジン様はいらっしゃいますかー!!」

「えぇい!うるさい!聞こえとるわ」

中から一人の老婆が現れた。

「失礼しました。私、王国騎士団のイザベル・ルミエールと申します。ジン様にお会いしたく伺いました。ジン様はどちらに?」

「ここだ」

「は?」

「だからジンは儂じゃ」

「えー!?不老不死の巫女じゃないのか?」

驚く私を持っていた独特の香りがするすりこぎでボカッと叩く。

「何を言うとるか。儂がその巫女だ」

「だってどう見ても普通のお婆さん…」

ボカッ。

また叩かれる。

「飲んだのは70歳になってからだ」

「じゃあ今は何さ…」

ボカッボカッ。

「レディに歳を聞くなど失礼な!」

さっきから叩かれてさすがに痛い。確かに不老不死の女性に歳を聞くのが間違っていた。でもレディとは…。

「すみません…」

「それで?」

「は?」

ジン様がまたすりこぎを振り上げる。

そこを咄嗟に剣を抜いて斬ってしまう。

ところがもう一方のすりこぎで叩かれた。

「まだまだ甘いな。ひよっこ騎士」

不敵に笑うジン様。太◯の達人か!?フルコ…ボッコにされる前に聞こう。

「不老不死の薬について伺いたく来ました」

「そんな話知らん」

「でもさっき言いましたよね」

「聞き間違いじゃろう」

「ジン様みたいにお婆さんではないので呆けてはいません!」 

「儂は呆けてはおらんわい!」

スカッ!

「そう何度も叩かれません」

「チッ」

避けた私を見て悔しそうにするジン様。

「全く失礼な小娘だ」

「お話を聞いて下さるならこれを」

そっと包みを差し出す私。

「おおっ!これは」

包みを開けると桃の良い香りがする。

先ほどの八百屋のおじさんに聞いたのだ。ジン様は桃が大好物だと。

「まあ良いだろう。中に入れ。今、茶を持って来る」

そうやって部屋に通してもらった。

「うわ」

部屋に入ると辺り一面に葉や花が置かれている。すり鉢もある。中を覗うと葉がすり潰されて先ほどのすりこぎと同じ匂いがした。おそらくこれらは薬草なのだろう。

「勝手に触るなよ」

ジン様がテーブルにカップを置きながら言う。

「座れ」

言われてイスに座る。

「そこじゃない!」

また叩かれる。これではジン様ではなく殺人(サツジン)様だ。

「床に座れ。頭が高い。儂はこの地を治める長老、敬うが良い」

そういう事か。やはり余所者には厳しい。

「して、不老不死の薬の話じゃったな」

「はい」

「あれは魔女だ」

「魔女?」

「ああ。この村の奥にある魔物がよく出没する森に一人の若い女が住んでおった。それが魔女、カルディアじゃ」

「カルディア…」

聞いた事もない名前だ。

ここに来る前に不老不死の薬に関する数少ない文献を読んだがそのような人物は出て来なかった。

「カルディアは不思議な力を持っておってのう。魔物を自由に扱い、どんなケガや病気にも効く薬を作る事ができた。それ以上に不思議だったのがそのカルディアは老いる事がなかった。何年経っても若いままの姿。いよいよ怪しく思い、カルディアは魔女ではないかと言う者まで出てきた。そこでカルディアに尋ねてみた。『何故、老いないのか?』と。すると彼女はこう答えた。『私は不老不死の薬を作る事に成功したのだ』とな。そんな物あるはずがない。村の者達は口々に言った。それならと言って巫女で長老である儂が代表して飲む事になった。それが50年前の話だ」

「50年前!?じゃあジン様はひゃくに…」

ボカッ。

「だからレディに歳を聞くなと何度言ったら分かる?」

「す、すみません。それで…」

「それから儂は70歳のままの姿で生きておる。これがその証拠だ」

それは数枚の古い写真だった。

どれも長老ジン様を写した物。ただし見た目が変わらない。裏に書いてある日付は何十年も経っているのに。

「本当だ」

「だが魔女カルディアは森から忽然と姿を消した。一人の弟子を残して。理由は分からない。だがその弟子なら何か知っているかもしれない。儂が知っているのはそれくらいだ」

「ではその森に行けば何か分かるかもしれないという事ですね!」

「話を聞いておらんかったのか!あの森は魔物が出るんだぞ」

「大丈夫です。腕には自信があるので」

「この話を聞いて森に入って行った者は誰一人戻って来なかった。やめておけ」

「国王陛下直々の命令です。それに父の為、自分の為でもあります」

「国王か。あのタヌキジジイめ。して、父親は何が?」

「騎士団長だった父の死について不審な所があり、真相が知りたいんです。その為には任務を遂行しなければなりません」

真剣な眼差しのイザベル。嘘はない。

「そうか。なら魔除けをしてやろう」

「ありがとうございます」

「普段なら銀貨5枚だがおまけで3枚にしてやる」

この長老、巫女とは名ばかりで正体は金の亡者だったのか!

でも不老不死だから亡者ではない。あのジェット爺さんといい、この世は金が全てなのか?愛と勇気だけが友達なのか?違う。今はそこじゃない。

「大丈夫ですよ。ハハハ」

「遠慮はするな。ホホホ」

「これでも騎士ですから。ハハハ」

「銀貨2枚でどうだ。ホホホ」

お互いに譲らない二人。

「分かりました…」

「最初から素直に…」

ニヤニヤするジン様。本当に巫女なのだろうか。

「リンゴとミカンを追加しましょう!」

「そういう問題ではない!もう好きにしろ」

そう言いながらもちゃっかり懐に入れる。

「それでは」

貴重な情報を得る事ができた。長老の家を後にする。

外に出ると辺りは暗くなり始めていた。

今から森に入るのは危険だろう。ここまで来たら野宿するしかない。今日は持ってきた携帯食を食べる事にしよう。

火を起こし焚き火をする。

炎を見つめていると今日一日を思い出す。初めての場所、初めての人。色々あったな。無事に見つかるといいな、薬…。

その日は父の剣を抱いて寝た。


チュンチュン…チチチチ。

鳥の鳴き声がする。朝か。

それにしてもやけに風通しが良い。ん?ベッドが硬いぞ。目を開けて触ると地面だった。

「…そうか。野宿したんだ」

野営はした事があるが一人で野宿した事はなかった。

「ん〜…」

硬くなった体を伸ばす。

「さて、準備をして行くか。いざ、魔物の森!」

軽く朝食を摂り、父の剣を磨いた。

「父さん、どうか見守っていて下さい」

剣を握り締め、森の中に潜入する。

ザッ。

最初の一歩。

魔物討伐は初めてではいが一人となるとやはり緊張してしまう。だからか剣を握り締める手に思わず力が入る。いかんいかん、弱気になっては。自分は王国騎士団ではないか!

「キィエェェーッ!」

「な、何だ!?」

奇声を上げ頭上を飛んでいく大型の鮮やかな鳥。魔物だろうか。

「こんな所で驚いていたら薬なんて夢のまた夢だ!負けるなイザベル!」

金の亡者…おっと失礼、ジン様の所であれほど意気込んだのに最初から怖気づいてどうする。

両頬を手でパチンと叩く。

「よし」

気合いを入れなおして先を進む。

「大分進んできたよな?」

周りは木々が鬱蒼(うっそう)としていて暗くなっている。それに見た事もない植物が生えていた。これが魔物の森か。

そのときだったー。

ザザッ。

ザッ。

草陰から何かが動く物音がする。魔物か?

剣を構えて様子を窺う。

「グルルル…」

魔物だ!!

「ガアッ!」

思った通り草陰から大型の虎みたいな魔物が飛び出してきた。

「ああああっ!!」

シュッ。

剣は魔物の脚を(かす)めただけ。致命傷を与えるまでではなかった。

「はあっ、はあっ…」

息が荒い。落ち着け。

そうしている間にも魔物は狙ってくる。

「ウガアッ!」

「ええいっ!!」

ズシャア。

辺りに血飛沫が飛ぶ。今度こそ致命傷を与えようだ。ドサッと地面に落ちる。

だがまだだ。ピクピクと体が動いている。

トドメを刺さなければ。

「ふんっ!」

ドスッ。

目の前が赤く染まったー。


どれくらいの時間が経っただろう?

私の周りには数匹の魔物が血塗れで横たわっている。よく見ると自分の手にも血が付いていた。

また(・・)、か…」

それは8歳の頃。

いつものように一人で剣の素振りをしていたとき、数人の男の子が私の周りを囲み「女が剣を振るなんておかしい。力がないからだ。お前は騎士になれない」とバカにしてきた。怒った私は「それなら素手で勝負だ」と言い、気付いたら男の子達は(うずくま)って地面に倒れていた。

その事を知った父は叱る事はなかったがこう言った。「お前は他の子より力が強い。その拳は時に凶器となる。抑える事も大事だ。無闇に使ってはいけない。護る為に使え」と。

それから素手で勝負する時は手加減していた。

相手を殺さないように。

今回は初めての単独魔物退治に(たが)が外れて我を忘れ、本来の力を発揮した。その結果がこれだ。

きっと顔や服にも血が付いているだろう。喉も渇いた。獣が血を嗅ぎつけて来るかもしれないので洗い流したいのもある。

「川を探すか」

幸いにも川はすぐに見つかった。

手や服を洗い、喉を潤す。

「はあ…」

火を起こし、服を乾かす。寒いので自分はローブに(くる)まった。この暖かい時期でも川の水は冷たい。

「クシュン!」

「風邪か?」

その声に振り向くと一人の長身の少年がいた。

水を汲みに来たのだろう。手に桶を持っている。

長い銀髪に切れ長の翡翠色の瞳に白い陶器のような肌。神秘的な色をした人だ。

綺麗。ただ、その一言に尽きる。

その美しさに惚けていると風で頭の布が落ちる。

「何だ、人間か。赤い髪をしているから妖魔かと思った」

確かに私の髪色は珍しい。それに今は洗った為、普段は(まと)めている長い髪を下ろしている。それを見たのだろう。おまけに瞳は金色だ。

この色の組み合わせは戦・勝利の女神イザ…会ってるよな?イザ…意地(イジ)ビール?違う、イザヴィーラに似ている。イザヴィーラは深紅の髪に黄金の瞳を持つ。名前もこの女神から取って名付けられた。

それよりも

「お前が不老不死の魔女カ◯ビーの弟子か?」

私が聞くと少年は警戒するように鋭い目付きで睨む。この森にいる人間(・・)なんて私と一人しかいない。

「…何の用だ。ここは人間が来るような場所ではないぞ。それに魔女はカルディアだ。カル◯ーじゃない」

「私はヴァルミア王国騎士団のイザベル・ルミエール。ここに不老不死の薬があると聞いた」

「そんな物、ここにはない。帰れ」

「これは国王陛下からの命令である。書状もここに」

カバンから丸めた紙を取り出し青年に見せる。

「だからどうした。俺には関係のない事だ」

「私には関係がある」

「関係があろうとなかろうとそんなものはない。帰れ」

「いいや、帰らない。お前なら何か知っていると村の長老から聞いたぞ」

「あそこのババアは()けているんだ」

「いいや、ちゃんと突っ込んでいた。切れ味が鋭かったぞ。さすが長老だ」

「そのボケとツッコミじゃない!それより服を着ろ!」

「あ」

先ほどから弟子の顔が赤いと思ったら包まっていたローブが取れて下着姿になっていた。

「うわああっ!」

ボコッ!

思わず殴ってしまった。


「ん…」

頭がボーッとする上に頬が痛い。

「気付いたか?」

顔を見たら一気に目が覚めた。

「うわああー!ゴリラ!バケモノ!!」

「私はゴリラでもバケモノではない。イザベルだ」

そうだ。この人間に殴られたんだった。

「腫れに効く薬草を持ってきた。使え」

渡された葉を見るとそれは傷口に触れると(ただ)れて死んでしまう毒草。良く似ているので間違える者もいる。

「お前、俺を殺しに来たのか!?」

「違う。不老不死の薬について聞きに来たんだ」

「どうしてそこまで欲しがる?」

「父の為だ」

「これだから人間は浅ましい。長生きでもしたいと?死ぬのが嫌だと?愚かだ。限られた日々を慎ましく生き、老いて死あってこそ人の生あるというのが定め。それが自然の摂理、世界の理。神に背く行為は罪人だ」

「お前…」

「何だ?」

「詩人か?」

「バカか!俺は薬屋だ。それに不老不死の薬は貴重な材料が揃わないと作れないんだ!」

「認めたな。あるではないか薬屋」

ニヤリと笑うイザベル。

しまった。ただのバカだと思っていたのに。

「そ、そんな物は知らん」

「いいや。確かに聞いたぞ薬屋」

「俺の名前は薬屋ではない!ハルキオだ」

「そうなのか、ハラキリ」

「違う!ハルキオだ」

「分かった。ピノキオ」

「ピノキオでもない!あと、材料は各地にあって集めないといけない。はっ!」

バカは自分だ。何をベラベラと話している。コイツと話していると何故か調子が狂う。久しぶりの人間だからか?

「では一緒に来てもらおう」

「俺は行かないぞ」

それからも二人の応酬は続いた。

「分かった」

イザベルが一言。

「ようやく…」

これで面倒な人間から解放される。そう思った。

「一緒に行ってもらえるまでこの森で待つ」

「はあっ!?何を言っている。ここは魔物が住む森だぞ」

「心配無用。これでも騎士団の試験はトップで通過した。あとはこの森の魔物を5匹倒した」

「5匹…」

ここの魔物は普通の魔物と違って獰猛(どうもう)だ。それを5匹倒すなどやはり人間ではない。もしかして逆らうと殺される?そっちの方が面倒だ。

「勝手にしろ!」

「分かった。ありがとう!肺気量(ハイキリョウ)

「ハ・ル・キ・オだ!覚えろバカザル。そもそも何故そんなに間違える?」

「私は二文字以上の他人の名前を覚えられないのだ!」

「堂々と言うな。意味が分からん…どんな特殊能力だ」


それから本当にイザベルは森に残った。

ハルキオに付いて着て、薬屋兼自宅の近くにテントを張ったのだ。

『何だい?キオ。あの妖魔』

「俺も知らん。迷惑だ」

常連客の魔物に聞かれる。

そう、ここは魔物専用の薬屋。ハルキオは「薬屋キオ」と呼ばれている。かつては魔女が営んでいた店だ。その魔女はカルディアという名前で老いない不老不死の薬を作った()人間。ハルキオは幼い頃にこの森に捨てられていたところをカルディアに拾われ育てられたのだ。「ハルキオ」という名もカルディアが名付けた。親代わりとして、薬の師として尊敬していたのに。カルディアは姿を消した。不老不死の薬の実験台(・・・)、ハルキオを残してー。

一時は(なげ)き、悲しんだがそれも徐々に恨みに変わった。自分を育てたのは薬を試す為だったのか!?そうなのかカルディア!許せない…。絶対にいつか見つけ出して問い詰めようと思っていた。

『適当な薬を渡して追い出せば?』

「そうできれば苦労しない」

何せ薬の事を話してしまったのだから。

『弱みでも握られたのか?』

「弱みなんて…」

そうだ!

客の会計を済ませるとイザベルの元に急いで向かう。丁度食事中だった。

「おい、バカザル!」

「なふは、はふひほ?」

口いっぱいに肉を頬張っている。

「ハヒフホではない。ハルキオだ!というか何を食べている?」

「ゴックン。ああ、イノシシの肉だ。先ほど捕まえた。拳一発で」

捕まえた?しかも素手で。もうそこら辺の魔物より強いのではないか。ここ数日で(たくま)しくなっている気がする。

「は…そうではなかった。行くぞ、不老不死の薬の材料を探しに!」

「本当か!?」

「ただし、俺の願いを叶えてもらう」

「願い?」

「そうだ。願いは『魔女カルディアを捕まえる事』だ」

「カルメラを?何故」

「カルメラではない。カルディアは俺の薬の師。そして…俺を勝手に不老不死の身体にして見捨てた女だ」

「お前、不老不死だったのか!?」

「ああ。この見た目だが村の長老のババアより歳上だ。あの女を捕まえてとっちめてやる」

「え、あのジン様より!?え?」

「それよりも行くぞ、不老不死と魔女を見つけに行く旅に!秘薬ある所にカルディアありだ」

「おう…?」

最初はイザベルの方がやる気だったのに今はハルキオの方がやる気だ。いや、あの殺気からして()る気か?

「そうと決まればまずは北の村ノーヴァだ!」

そう言ってハルキオが自分の髪の毛を一本抜き息を吹き掛けるともう一人のハルキオが現れた。

「ハルキオがもう一人いる!」

「ハルキオだ!…って合ってるな。これは俺の分身だ。店番はコイツに任せる。何かあれば連絡をくれるだろう」

コクンと頷くハルキオ2号。

それからが速かった。

ハルキオは店の事を2号に説明し飼っていたヤギにもエサを用意して旅に必要な物をリュックに詰めるだけ詰める。もちろん薬草も忘れない。「バカ(ぢから)」というだけでイザベルにまで荷物を持たせる。薬臭くて迷惑この上ない。だが行く気になってくれたのだからありがたい事だ。


最初は意気揚々としていたハルキオだが森から出ただけで「疲れた」、「重い」と言い始めた。

「日頃の運動不足が祟ったのではないか?」

「うるさい…」

ハムキオ(ハルキオ)を観察して数日、分かった事がある。

滅多に外出しないのだ。外に出るのは庭で育てている薬草を摘むか水を汲みに行く時だけ。あとは薬を作るか店番をしている。それ以外は新しい薬の実験くらいか。何回か騙されて飲んだ事がある。そこは師匠譲りなのか?仕方がない。

「じゃあ休憩するか?」

「いや、しない。女の子供に負けるなんて許されない」

「私は子供ではないぞ。王国騎士団の団員だ。立派な大人ではないか」

「俺から見たら全員子供だ」

「…見た目だけ若い年寄りが」ボソッ

「何だと!?」

そこは気にするのか。それに小声で言ったのに聞こえているとは。

「言い返せる元気があるなら行くぞ」

「分かっている!」

面倒な爺さんだ。

「それでノーヴァでは何が必要なんだ?」

「不老不死の薬は7つの材料が必要だ。モーリュ、プロメテイオン、シーブ・イッサヒル・アメル、ハオマ、マンドレイク、サンジーバニーブーティ、アグラフォーティスだ。そのうちモーリュとプロメテイオンの2つは持っている。ノーヴァではシーブ・イッサヒル・アメルを探す」

「その神父(シンプ)・いざ(ヒル)(アメ)ルンルンとはどんな物なのだ?」

「シーブ・イッサヒル・アメルだ!本当に物覚えが悪いな。シーブ・イッサヒル・アメルは棘のある水草で若返り・不死になると言われている。だが気を付けないと匂いに釣られたとヘビに食べられてしまうらしい」

「ほう、本当に物知りだな」

「お前と違ってな。本当にどうやって騎士団に入団できたのか不思議で仕方ない」

「む。ちゃんと試験を受けて通ったぞ。サイコロを振って」

「サイコロ〜!?」

「そうだ。出た目の数で番号を選んだ。すごいだろう」

「そんなもの自慢するな。でも運が良いという事は探し物も見付かるかもな」

へんてこな騎士だと思っていたが。この際、前向きに考えるしかない。

歩く事数時間、周りが暗くなってきた。

「今日はここで野宿するか」

「材料調達なら任せろ」

「前みたいに変な物採ってくるなよ」

「おうよ!」

自信満々で近くの森に入って行くイザベル。

「本当に大丈夫かよ…」

心配しながらも火を起こすハルキオ。

数十分後。

「おーい!とって来たぞー」

「おう。…って何だそれは!」

背負っているのは2メートル超えの鳥・バードロックと手に抱えたザルには毒キノコの山。

「変な物採ってくるなと言っただろうが!」

ボクっと頭を殴る。

「痛っ!何だよ、美味しそうだと思ったのに。見てみろ。これなんか光るキノコだぞ」

「バカか!これは毒キノコだ。食べると体が痙攣(けいれん)を起こして呼吸困難になり、最悪死ぬキノコだぞ」

「お前なら死なないだろう?不老不死なんだから」

「誰が痙攣を起こして呼吸困難になりたいと思うか!」

「えー?さっき味見したが平気だぞ?」

ケロッとして言うイザベル。

「食うなバカザル!それよりも何で平気なんだ!?色々おかしいだろうお前。人間じゃない」

「おかしいのはお前だろう、キオ。私は人間だ。それも分からないのか?」

「キオって気安く呼ぶな。それよりも飯にするぞ」

「ちぇっ。はーい」

渋々採ってきたキノコを捨て、その日の夕食はバードロックの串焼きになった。

「なあ、ノーヴァってどんな所なんだ?」

「ノーヴァは俺達がいた森よりも寒い場所だ。けど山菜や薬草が多く採れる」

「そうかー。じゃあ明日は山菜汁だな」

「山菜汁よりシーブ・イッサヒル・アメルだ。それと山菜は俺が採ってくる」

「えー、ケチキオ」

「ケチキオではない。ハルキオだ!もうキオと呼べ」

「やったー!ありがとう、キオ」

「ふん」

名前の呼び方一つで喜ぶなんて。やっぱり人間はおかしい。


「着いたぞ。ここがノーヴァだ」

「さ、寒い…」

一人ふるえるイザベル。

「だから毛皮が必要だと言っただろう」

自分だけ毛皮を着るキオ。

荷物が多かったのはこの為だったのか。

森から出かける前にイザベルは荷物がこれ以上多くなるのは嫌だと断ったのだ。でもキオは必要だと無理矢理カバンに詰めた。

「貸してくれてもいいだろう」

「寒いのは嫌だ」

「…ケチキオ」

身に染みる寒さに思わず呟く。

「何か言ったか!?」

「いーえっ!さあ、行くぞー!チーズ・(ヒル)(ハン)(アッタ)める」

走り出すイザベル。

「待て!シーブ・イッサヒル・アメルだ!もうメルしか合ってないぞ。ハア…ハア…」

このお爺さんは耳が良いらしいが体力はないらしい。ここは若者が頑張らないといけない。毛皮の事は譲ろう。

シーズを(イサ)めるアベル(シーブ・イッサヒル・アメル)は水草なので水辺を探す。

「あそこはどうだ?水がきれいに見えるが」

「そうだな。行ってみるか」

この寒い中、冷たい水の中に入るなんてバカだと思われるだろう。でもやるしかない。

ザブン。

中に潜ると底がきれいに見える。これなら探しやすい。棘のある草…棘のある草…。どこだ!

「ぶはぁっ!」

息が続かない。

「どうだー?」

キオが遠くから見ている。何か腹立たしい。

「ないぞ!」

「もっとちゃんと探せー」

「息切れだ!それならお前が探せ!!」

「お前、防御魔法は使えないのかー?」

「多少なら使える!」

「ならその魔法で自分の体に膜を張るようなイメージをしろ。息ができるはずだ」

「やってみる!」

膜…膜…。

ザブンッ!

息ができる!!これならイケるかも。

泳いで先ほどより広い範囲を探す。

ん?チクチクしてる葉っぱがあるぞ?あれか!

岩場の間から出ているそれを引っ張る。

採れた!

水面から顔を出し葉っぱをキオに見せる。

「これか?」

じっくりと図解付きのレシピと葉を見比べるキオ。

「これだ!良く見付けた!!」

笑顔のキオ。

初めて見た。客の前でもいつも仏頂面だったのに。

「お前、笑えるんだな…」

「な!失礼だな。俺だって笑う事くらいある!」

「ならもう一度笑ってみろ」

「何でだ?」

「できないのか?」

「それくらいできる!」

笑顔を作るキオ。

「…すまん。私が悪かった」

「何だと!?」

「ま、まあ見つかったから良いじゃないか。ハハハ…ハックシュン!」

濡れたままだったのでくしゃみが出た。

「今日はあそこの宿を取る。そこで着替えろ」

「やったー!二人で初宿(はつやど)っ!」

「何をそんなに嬉しいんだ…。もう一つの約束を忘れてないだろうな?」

「ん?」

「やっぱり…カルディアを探すと言っただろう!?もしかしたらここに寄っているかもしれない。情報集めだ」

「そっ、そうだな。覚えているぞ、カモ(ジル)探し」

「カモ汁じゃないカルディアだ。行くぞ」

古くてボロい宿だったが野宿に比べたら全然良い。

「二人で一部屋だからな」

キオは二部屋取りたかったらしいが生憎(あいにく)、一部屋しか空いていなかった。料金が安いしこの辺りではこの宿しかないからというのもあるかもしれない。

それでもベッドがある。感動だ。

ただし問題が一つ。

「お前は床で寝ろ。ベッドは俺が使う」

「ここは支払いをする私に譲るべきだろう」

ベッドが一つしかないのだ。一緒に寝るには狭いしそもそもできない。

「最近の若者は年寄りに厳しいな。あ〜腰が痛い」

「こういう時ばかり老人のフリをするな。それにお前は何もしてないだろう」

「チッ。仕方ない。ではじゃんけんで決めよう」

「望むところだ」

勝負の結果、キオがベッドで寝る事となった。

「今度は絶対に勝つ!」

床を叩くイザベル。

「寝る時は静かにしろ」

「うるさい!」

「うるさいのはお前だ。早く寝ろ」

「くっ…」

こうして初宿は苦い思い出となった。


翌朝。

「ここからは南下して行く。次はニースだ」

「ニース?そこには何があるんだ?」

「ハオマだ。ハオマはブドウのような植物で食すと癒しをもたらす性質を持ち、死者を復活させ不老不死にする。この実から作られたジュースは不老不死の薬になる」

「なるほど」

「そのハオマは黄色や金色で高い丘の上にある。甘い匂いがするそうだ」

「それなら分かりやすそうだな!」

「元気だな…俺は丘を登ると思うと疲れる」

ゲンナリしているキオ。

「キオはベッドで寝たから良いだろう?私は床で体が痛いというのに」

「まだ文句を言うか。騎士なら騎士らしく負けを認めろ」

「それとこれとは違う。やっぱり老人だから呆けているのが?」

「呆けてなどいない!老人扱いするな!」

昨日は老人のフリをしたくせに。

「それどころではなかった。主人!」

宿の主人に話を振る。

「はい?」

「この女を見ませんでしたか?」

バッと懐から紙を出して見せるキオ。

「「…」」

「?」

「おい、キオ」

「何だ?」

「これは何を描いている?」

「カルディアの似顔絵だが?」

「「これが!?」」

見ると(いびつ)な丸に点が二つ、手のような物がくっついているカラフルな気持ち悪い生き物がいた。

「これがとは何だ!」

「す、すみませんっ!それは別として個人情報はお教えできないので…」

申し訳なさそうにする主人。

「何だと!?」

「おい、キオ。気持ちは分かるが…」

止めようとするイザベル。

「この絵のどこが悪い?」

そこか!?

「悪くなどありません!ただ独創的で革新的だなと思っただけで…」

「そうだろう、そうだろう。フフン」

機嫌を直すキオ。単純だな。

「ただ、派手な長身の美女が来たというのは言えます。確かにカラフルな服を来ていました。そんな格好をしている方はあまりいないのでよく覚えています。それが2カ月前の事です」

「そいつだ!どこに行くと言っていた?」

「確かニースに…」

「やっぱりな。行くぞイザベル!」

こうして私達はオバ◯(ハオマ)とカジュアル(カルディア)を探しに旅立った。


「昨日の山菜料理は美味かったな〜。今度はどんな美味しい物が食べられるんだろう」

昨日の夕飯はキオが採ってきた山菜を宿で調理してもらって山菜尽くしの豪勢な料理となったのだ。

「お前は食う事しか考えていないのか」

「ちゃんとハザマの事も覚えているぞ」

「ハザマじゃなくてハオマだ!」

「そうだ。羽織(ハオ)るだ、羽織(ハオ)る!」

「…」

安定のイザベル。もう突っ込む気力もないキオ。

そんなこんなで辿り着いた、この辺りでは一番高い丘。

「やったぞ!着いたぞキオ。あそこだ!」

「ああ、そうだな…」

まだまだ元気そうなイザベルとは違い、ゼエゼエ言っているキオ爺さん。やはり体力がない。

「あの木の中にパオズがあるのだな」

「パオズ(包子)は(ホア)の国の食べ物だ」

「何だ。その料理は!?」

食べ物と聞いただけでヨダレを垂らしそうになっているイザベル。

「発酵させた柔らかい小麦粉の生地に肉や野菜の餡を包んで蒸しあげた物だ、()べザル」

「私はイザベルだ!呆けてるではないか!大丈夫か!?」

ついにキオにも伝染している。恐るべき能力(?)

「そんな事あるか!お前じゃあるまいに。とにかく探すぞ」

「おおっ!」

「黄色、金色…」

探せど探せど見つからない。

「見つからないな。こうなったら…」

「何をする気だ?」

「ふんっ!竜巻!」

イザベルが剣を一振りすると周りの木が一気に半分から切れる。

「おおおいっ!」

その勢いで吹き飛ばされそうになるキオ。

「ふぅ。これでよく見渡せるだろう。うん、良い眺めだ」

「自然破壊だろうが!」

枝の下から出てくるキオ。どうやら切られた枝で埋もれていたらしい。

「大丈夫だ。これを切って売れば金にもなる。一石二鳥だ!」

「誰がこの量を切るんだよ」

「それはお前の分身を使えば良いだろう?」

「使えるか!それに増やせば増やすほど力がなくなるんだ」

「そうか。無理を言ってすまないな。キオはお爺さんだったな。老人は労らなければ。うんうん」

「誰がお爺さんだコラ!一人で納得するんじゃない」

「仕方ない。また風魔法を使うか。旋風!」

ゴォォォ!

「だから人の話を聞けー!」

キオの叫びを無視して薪になっていく木々。そしてあっという間にできあがった。

「どうだ、キオ!」

見てみろと言わんばかりのイザベル。通称ドヤ顔。

「あった…」

「え?」

「あったぞ!ハオマ!」

「ええっ!?」

一石二鳥ならぬ三鳥になった。

「うん。甘い匂いにこの色、ハオマだ!でかしたぞイザベル!」

「やったー!」

初めて褒められた。嬉しさの余りキオに抱きつく。

「ぐ、ぐるじい。はなせ…」

「すまん。つい」

力強く抱き締めるイザベル。

「ハア…死ぬかと思った」

「ハハハ、面白いギャグだな。不老不死ギャグか?」

「あるかそんなもの!」

枝を叩きつけるキオ。そこに甘い匂いに釣れられて一匹のヘビが来た。

「うわぁー!ヘビ!!」

キオが驚いて咄嗟にイザベルにしがみつく。

「そんなに見つかったのが嬉しかったのか」

再び抱き締める「バカ(ぢから)」のイザベル。

「ちがう…そうじゃない、はなせ!俺はヘビが苦手なんだ!」

「そうか、そうか。ハハハ」

ザク。

ヘビを剣で一突きするイザベル。

「ヒィィィ」

その様子を見て(おのの)くキオ。

「これは焼いたら上手いか?」

刺したヘビをキオに見せる。

「やめろ!上手くないから早く遠くへ捨てろ」

「なーんだ。せっかく獲物が捕れたと思ったのに」

言いながら遠くに投げるイザベル。ヘビは遥か彼方に飛んでいった。

結局、その日はキオがヘビが出るから野宿は嫌だと言うので宿を取った。


そして始まるキオの尋問。

「この女に見覚えはあるか?」

何回見ても人間に見えない似顔絵。

「すみません。個人情報はお教えできないんですよ〜」

ここでも同じ扱い。

「イザベル」

「はい」

バキィ。パラパラパラ…。

私は外に行くと大きめの石を持ってきて片手で粉砕。

「この石のようになりたくなかったらお答え下さい」

「ヒィィィ!お答えします!何でもお答えしますからどうか命はご勘弁を!!」

(おび)える宿の主人。さすがにそんな事はしない。やるとしたら骨の一本や二本くらいだろう。

「その方はすごく派手な美女だったのでよく覚えております」

「それでどちらに行くと言っていた?」

「確かコロドに…」

「やはり。コロドにはマンドレイクがある!」

「よし。それでは次はマウントレイクだな」

「違う。マンドレイクだ。とにかくコロドに出発するぞ」

「おうっ!」

こうして私達はコロドに向けて旅立った。

「して、満足(マンゾク)レイクとはどんな物なのだ?」

「マンドレイクだ。もう面倒だな…。マンドラゴラとも呼ばれるナス科の多年草で、根が人や動物の形をしているとされ、引き抜くと悲鳴を上げると言われている」

「何だか面白い植物だな。昨日のキオみた…「うるさい!」

ボカッ!頭を殴るキオ。

「い、痛い…」

手を押さえるキオ。どうやら声を上げたのはキオの方でイザベルの頭は思いの外固くて頑丈なようだ。

「ああ、昔から私の頭は固くてな。頭突きをした者は皆倒れた。山では頭突きで熊を倒したんだ。熊肉も美味しいものだな」

コイツ、山でそんな事してたのか!?

熊を頭突きで?もう人間の域ではない。

いや、コイツならマンドレイクの悲鳴に耐えられるかもしれない。マンドレイクは引き抜くと叫び声を上げ、聞いた人は死んでしまうなどの伝承がある。

「茎はなく、釣鐘状の花弁と橙黄色の果実をつける植物だ」

ここで説明に戻る。

「ふーん。それでどこに生えているんだ?」

「処刑場だ」

「処刑場!?」

処刑場で絞首刑の男性が零した体液から生まれたというマンドレイク。

「そうだ。昔、死刑場だった場所にあるはずだ。そこを探せば良い。まずは聞き込みだ」

キオは酒場を指差す。

「いらっしゃい!」

店は昼間だというのに賑わっている。

キオとイザベルは店主のいるカウンターに向かう。

「何にします?」

「聞きたいことがある」

「情報料は高いよ〜」

茶目っ気たっぷりにウインクして言う店主。おじさんのウインクは破壊力抜群だ。子供には早かった。

「金はある、コイツが」

そう言って私を指差すキオ。

「おい!私が払うのか!?」

「当たり前だろ。財布(サイフ)フベル」

「私はイザベルだ!このヒモキオ」

ヒモ男・ヒモキオに抗議する財布(サイフ)ベルこと私・イザベル。

「そうだぜ兄ちゃん。女の子に払わせるなんて」

「いや、コイツは女というカテゴリーを超えている」

「何だい、何だい兄ちゃんゾッコンなのかい?熱いね〜ヒュー」

「違う。ゾッコンではなくゾッとしている。コイツは熊を頭突きで倒している」

「またまたー。面白い兄ちゃんだね。そのユーモアさに免じて情報料は無料(タダ)だ!」

「アザース。タダサイコー」

無料(タダ)という事を聞いてヒモ男に徹するヒモキオ。何という男だ。

「それで?聞きたい事は何だ?これでも俺はこの街の情報通だよ〜」

どこにでもいるのだな。情報おじさん。

「昔、処刑場だった場所を探している」

「処刑場?兄ちゃん達肝試しにでも行くのかい?」

「違うマントバイクを探している」

「マントバイク?」

不思議そうにする店主。

「違う。マンドレイクだ!」

訂正するヒモキオ。

「マンドレイクねぇ。ますます面白い事言う兄ちゃんだね」

「真剣だ」

言い切る財布(サイフ)ベル。

「ま、まあ…そこまで言うなら。この街の外れに鬱蒼とした森がある。その中が昔使っていた処刑場だ。ただしその場所は幽霊が出るという噂だ。気を付けて行けよ」

「ありがとう」

「アザース。ゴチデース」

イザベルとヒモキオはお礼を言って店を出た。

…のだが

下を向いて黙ったままのイザベル。

「どうしたんだ?いつもなら行くぞーとか言って張り切っているのに」

「…いんだ」

「何?」

「怖いんだ!オバケが!!」

叫ぶイザベル。

「はあ!?あの魔物の森にいたのにオバケが怖い!?嘘だろう?」

あの猪でも熊でも魔物でも倒していたバケモノ(失礼)が!?

「怖いものは怖いんだ!」

「では、不老不死の薬は諦めるのか?」

「そっ、それは…」

できない。国王からの命令でもあるが何より父の死を明らかにするチャンスだ。

「諦めるなら置いていくぞ」

「行くっ!」

決意は固まった。

「怖いなら手を握ってやる。今回だけだからな!」

珍しく優しいキオ。

「ありがとう、キオ…」

「俺もカルディアを追っているからだ!お礼を言われる筋合いはない」

そっぽを向くキオの耳が赤い。お礼を言われた照れ隠しだろう。

「ふふっ」

「何だよ。何がおかしい?」

「何も!」

そうして二人は手を繋いで歩いていった。


「ここか」

「こ、ここここ…こけ、ここ」

怖さの余り、まともに喋れないイザベル。

「どうした、ニワトリの真似か?」

「こっ、ここがしょ、しょ、しょ」

「何だ?小便か?」

「そんな事あるかー!!」

ボカッ!

思い切りキオの顔を殴ってしまう。

「うっ…」

「すっ、すまんキオ!つい」

「ついで、殴るヤツが、あ、るか…」

バタッ!

鼻血を出して倒れるキオ。

「キオー!私を一人にしないでくれ!!置いていかないで〜。一緒にどこまでも行こうって言ってくれたじゃないかぁっ。うえー、えーん」

まるで恋人の死を嘆くかのような言葉。

「そんな事言っとらんわっ!人を死んだ扱いするな」

何とキオが起きあがった!

「生き返ったよー!えーん」

「痛た…生き返ったのではない。防御魔法を使っただけだ。少し遅れたがな」

「キオも魔法が使えるのか?」

「これでも魔女の弟子だ。ある程度は使える。それよりも今はマンドレイクだ」

「そうだったな。満面(マンメン)レイ(クン)

「マンドレイクだ。誰だ、それは?とにかく探すぞ」

二人で草むらを探し始める。

「マンドレイク、マンボウレイク、マンゴーシェイク…」

どんどん名前が変わっていく。

「飲み物じゃないぞ!釣鐘状の花弁をつける植物だ

!」

そのとき

ガサッガサガサ…。

「ひいっ、オバケー!」

キオに抱きつくイザベル。

ガサガサガサ…。

「獣かもしれない。警戒だ」

「オバケ嫌だー!」

尚もキオにしがみつきながら叫ぶイザベル。

ザッ。

何かが飛び出す。

「ワンッ」

「わん…?」

何と出てきたのは首輪に長い紐を付けた犬だった。

「何だ。犬か〜」

「そこで何しとる?」

犬に続き老人も出てくる。

「うわぁ!爺さんのオバケ!!」

「誰がオバケじゃ!まだ生きとるわ。ボケ」

持っていた杖で叩かれる。

「痛い…。生きてる。良かった〜オバケじゃなくて」

ホッとするイザベル。

「それはそうとしてお前達何をしている。まさかマンドレイクを採りに来たのか?」

「やはりここにあるのか?爺さん」

お前も爺さんだろうよ、キオ。

「ああ、マンドレイクは高く売れるからな。お前達もその(くち)か?」

「私は(くち)ではないイザベルだ。呆けているではないか爺さん」

「呆けとらんわ!ここ数年、マンドレイクを裏で高額で取り引きするような輩がおるんだ」

「そうか。だが俺達は違う。不老不死の薬の材料として採りに来たんだ」

「不老不死!?本当にあの伝説を信じておるのか」

「伝説ではない。俺が不老不死だ。これでもアンタより歳上だ」

「信じられん…」

「それよりもマウントレー◯アだ、キオ!」

「「マンドレイクだ!」」

爺さん二人に突っ込まれる。

「そうだな。爺さん、マンドレイクはどこに生えているんだ?」

「お前も爺さんだろう。うーん、タダでは教えられんな」

ここでも金か。世の中は世知辛いな。

「いくらだ?」

「金はいらん。マンドレイクを採ってくれれば良い。本当はこの犬に引き抜かせようと思っていたが丁度良い」

「何故、犬に?」

不思議に思って聞く。

「マンドレイクは引き抜くと世にも恐ろしい悲鳴を上げ、その悲鳴を聞いた人間は死んでしまう、という言い伝えがあるのは知っているだろう?自分になついている犬を紐でマンドレイクに繋いで、自分は遠くへ行きそこから犬を呼び寄せる。すると犬は自分のもとに駆け寄ろうとするからその勢いでマンドレイクが抜ける。犬は死んでしまうが、犬一匹の犠牲で無事にマンドレイクを手に入れることができるという方法だ」

「なるほど…ってダメじゃないか。その犬が死んでしまうではないか!は!」

ここでようやく気付くイザベル。

「キオ、お前は不老不死だからしなないが私は死ぬではないか!」

「…」

そっぽを向くキオ。コイツ…。

「大丈夫だ。防御魔法と耳栓をしていれば聞こえない…と思う」最後は小声だ。

「で、どうする?」

「やる」

「おいっ!」

即決するキオ。

「心配するな。バケモノのお前ならいける」

「では、行くぞ」

勝手に話を進めるジジイ達。全く最近の老人は…。

仕方なく暗い森の中を進んでいく。私は怖くてキオの服の裾を握りながら歩いた。

「着いたぞ。ここだ」

そこには昔使われていた絞首刑の()があった。

大分古いのだろう。あちらこちらに草や苔も生えて、ボロボロのロープがぶら下がっている。ここで何十人、何百人との罪人が裁かれたのだろうか。そう思うと何とも言えない気分になる。

「ほらこれがマンドレイクだ」

そう言って釣鐘状の花弁をつけている花を示す。

「これが」

「そうだ。じゃあ儂は遠くで見守っていてやるから宜しく頼む」

「という事だ。行け!超人イザベル!」

爺さん達は耳栓を付け、マンドレイクが生えている場所から遠く離れる。人遣いが荒い爺さん達だ。

イザベルも耳栓をして防御魔法を展開し抜きにかかる。

「よっと!」

力を少し入れて抜けた瞬間ー。

『ビィヤアアアアアッ!!!!』

凄まじい勢いで悲鳴を上げるマンドレイク。

が、防御魔法と耳栓のおかげで無事だ。

「うええ。気持ち悪い…」

本当にその根は聞いた通りに人の形をしていた。植物が人の顔をして悲鳴を上げている。

「それをー、鉢植えの中にー、土と一緒に入れろー!」

「ええっ?」

「そーれーをー!は・ち・う・えのっ、なーかーにいーれーるーんだっ!!」

「聞こえんぞ!!」

防御魔法と耳栓の事を忘れ、会話をするマヌケ達。その間にもマンドレイクは悲鳴を上げる。

「それを、鉢植えの、中に、入れる」

今度はジェスチャーで伝える老人二人。

「こうか?」

ドゴォ!

何とイザベルは折角採ったマンドレイクを拳で粉砕した。

『ビギ…』

それと同時にマンドレイクも黙る。

「「いぎゃああああっ!!」」

今度はその様子を見た老人二人はマンドレイクさながらに絶叫しながら駆け寄る。

「何してくれてんだ!」

耳栓を外してイザベルの頭を杖で叩く爺さん。その勢いでイザベルの耳栓も取れた。最近の老人は強い。そして短気だ。

「な、何をする!?」

「粉々にしてどうする!そこに用意した鉢植えに入れろと言ったんだ。このバカ者め!」

「だから、こうして、こうだろ」

どうやらイザベルには「入れる」ではなく「壊す」に見えたようだ。

「違う!この鉢植えにマンドレイクを土と一緒に入れるんだ」

杖でバシバシと叩く爺さん。イザベルは思った。ジン様といい、この爺さんといい、老人に棒状の凶器を持たせてはいけないと。

「分かった、分かったから」

もう一度引き抜く事となった。

「今度こそっ!フンッ!」

『ビィヤアアアアアッ!!!!』

相変わらずの気持ち悪さ。さっさと鉢に入れる。するとマンドレイクは大人しくなった。

「やったぞ、キオ!」

「やればできるじゃないか!」

抱き合うキオとイザベル。

「若者はラブラブじゃのう…婆さんとの若い頃を思い出す」

遠い目をする老人一人。

その声にパッと離れる二人。

「コホン!それは別として爺さん、この女を知らないか?」

例の謎の生き物、カルディアの絵。

「この女なら見たぞ」

「「え!?」」

別々の意味で驚く二人。

「本当か!?」

「よくこの絵で分かったな」

「何だと?」

ギロリと睨むキオ。

「儂の話を聞け〜」

割って入る爺さん。

「その女はいとも簡単にマンドレイクを引き抜いて帰ったからな。よく覚えとる」

「それなら何でハルディアに頼まなかったのだ?」

「ハルディアというのか。その女に同じように頼んだら金を取ると言われた。しかも高額でな」

「カルディアだ。確かにあの女はがめついから分かる」

うんうんと頷くキオ。弟子にそこまで言われるとは。

「それで?どこに行くと?」

「アラハマに行くと言ってたかな」

「よし、次の行き先はアラハマだ!首を洗って待ってろよ〜カルディア」

不気味な笑顔を浮かべながら、何だか物騒な事を言ったような…。本当に二人は師弟関係なのか?

「俺達は粉々になった方を持っていく。鉢植えは爺さん、アンタのモンだ」

「ありがとさんよお。気を付けて行きな」

「ああ、じゃあな」

マンドレイク、ゲット!これで材料は5つ揃った。残りはあと2つ。

「あとはサンジーバニーブーティ、アグラフォーティスだな。アラハマにはサンジーバニーブーティがある」

三時(サンジ)にーハーブティー?」

「サンジーバニーブーティだ。アラハマにあるナマヤラの高山に自生していて生命回復の効果があるとされ、暗闇で光るという薬草だ」

「暗闇で光るなら見つけやすいじゃないか!」

「元気だな。俺は山に登ると思うだけで嫌になる」

「これも鍛錬だと思えば辛くない!」

やる気満々のイザベル。

逆にゲンナリしているキオ。

どこまでも正反対の二人だ。よくこれで旅が成立している。これも重要な目的があるからだろう。

イザベルは国王直々の命令と願いを叶える事。

キオはカルディアを見付ける事。

違う目的のようだがどちらも「不老不死」で繋がっている。

「ここからアラハマまでは遠い。旅費は抑えるから野宿で行くぞ」

「ああ、またイノシシや熊を獲ってくるから食料に関しては大丈夫だ」

「アザース。ゴチデース」

キオはまたヒモ男に戻る。マンドレイクの後遺症でも残っているのか?いや、あの爺さんと一緒に遠くで耳栓をしていたよな。呪いか?それなら私にもかかっていてもおかしくない。何せ粉砕してしまったのだから。そうか、老人だから呆けてきているのか。

そんな事をぼんやり考えていると遠くに山が見えてきた。

「あれがなまはげ(ナマハゲ)か!?」

「違う。あれはヒンディオという山だ。それにナマハゲではなくナマヤラだぞ。あそこにはデカいバードロックの住処があるらしい」

「バードロック…串焼きは美味かったな〜」

ジュルリとヨダレを拭くイザベル。

「本当に食い意地が張っているな」

「ああ!食べる事は大好きだ!!」

「いつか俺まで食べられるんじゃないかと不安だよ」

「そんな事はしない!歳を取った動物の肉は不味いらしいからな」

「年寄り扱いするな!というか若かったら食うのか!?」

「するか、ボケキオ!」

「呆けてないわ!」

そのケンカの最中

ドンッ!

子供がぶつかってきた。

「邪魔なんだよ!」

文句を言い走り出す。

「ん?待て!」

イザベルが子供の手首を掴む。

「何するんだよ!離せ!」

「ただ、ぶつかっただけだろう?離してやれよ。ケチベル」

「ケチベルではない。この子供は私の金を盗んだんだ。出せ」

「え!?」

「前に街の見廻りをしたときに同じような事があったんだ。今なら怒らない。ほら」

「とってねえよ!離せー」

そこでキオが一言。

「おい、坊主。コイツはバケモノだ」

「嘘だ!」

「嘘じゃない。熊を頭突きで倒し片手で大きな石を砕いた」

「そ、そんな事あるもんか!」

少々、ビビり気味の少年。そこでキオはイザベルに近くにあった大きめの石を渡す。

「フンッ!」

バキィ!

見事に石は粉々に割れた。

「あ、ああ…ごめんなさい!」

それを見て金の入った袋を渡す少年。

「よし。もうそんな事はするんじゃないぞ」

「待て」

少年を帰そうとしたキオを止める。

「どうした?」

「何故、金を盗んだんだ?」

少年に問い掛けるイザベル。そういう事か、お節介者め。面倒そうな顔をするキオ。

「俺の家、金がないんだ。父ちゃんは若い女と出ていった。それで母ちゃんが俺達兄弟を養う為に朝から夜まで働いて体を壊したんだ。だから薬代がほしくて…」

そういう事だったのか。

「それならうってつけの人がいるぞ」

「まさか…」

嫌な予感。

「少年、このお兄さんは薬屋だ。きっと母上を治してくれるぞ」

「本当か?」

「おいっ!簡単に約束をするな、バカザル!」

「バカザルではない、イザベルだ。もし協力してくれるなら銀貨6枚だ」

「アザース。やるッス」

師をがめついと言うわりには自分も金が関わると違う。さすがヒモ男。

「私はイザベル、このお兄さんはキオだ。宜しく、少年!えーと…」

「俺はクエンだ」

「そうかクワンか」

「「クエンだ!」」

安定の間違い。人の事はいえない。


案内された家はボロ…質素な家だった。

「ただいま、母ちゃん。薬屋が来たぞ!」

「お帰り、クエン。薬屋?」

確かに母親の顔は(やつ)れている。

「そうだ、薬屋だ!母ちゃんを治してくれるって」

「そんな金はないよ。すまないね、薬屋さん。ここまで来てもらったのに」

「大丈夫だ。もう先払いしてある」

「この姉ちゃんが払ってくれたんだ!」

「まあまあ、そんな。何てお礼を申し上げたら良いか…」

「良いのだ。正しい道を歩む為の第一歩だ」

「まさか。クエン、アンタ」

「母上、どうか責めないでやってほしい。あなたの事を思っての行い。こうして出会ったのも神のお導きでしょう」

いつから伝道師になったんだ。お前は騎士だろう。

「それより診るぞ」

「お、お願いします」

「顔色が悪いな。体も痩せている、栄養不足に仕事続きで無理をして疲労が溜まったんだろう。それによる体調不良。だったらこの薬だな」

ゴソゴソとカバンの中から薬を取り出す。

「これを毎食後飲め。効果は保証できる。魔女のお墨付きだ」

「ありがとうございます…!」

涙を流す母親。横を見るとクエンも涙している。これが血の繋がっている本当の親子の姿かー。

『カルディア!見て見て。お薬作ったよ』

『見せてみろ』

『うん!』

『ふん…できている。すごいなキオは』

『えへへ』

『私の自慢の息子だ、キオ』

「キオ?」

「…は!何だ?」

「今、笑っていなかったか?すごく自然に」

「見間違いだろう。それよりも行くぞ」

それは遠い昔の記憶。

「姉ちゃん達はどこに行くの?旅人さんでしょ?」

生野菜(ナマヤサイ)だ!」

「「生野菜?」」

親子揃って首を傾げる。

「すまない。コイツの言う事は気にしないでくれ。ナマヤラにサンジーバニーブーティを採りに行くところだ」

「サンジーバニーブーティなら売ってるよ」

「「は?」」

クエンがサラッと言う。

「売ってる?」

キオも信じられないという顔をしている。

「最近、薬草を売っている露店ができましてね」

薬草?

「その中にナマヤラ産のサンジーバニーブーィもありましたけど高額で。とてもじゃないけど私達が買える金額ではありませんでした」

高額?

「でもその店主は若い派手な美女でこの辺りでは見かけないような方でしたよ」

若い派手な美女!?

「その露店はどこにある?」

勢い良く聞くキオ。早口言葉みたいだな。

「俺が案内するよ」

「そうね。このくらいのお礼しかできなくてすみませんが…」

母親が申し訳なさそうに言う。

「全然!さあ、行きましょう。クエン君!」

いつになく積極的なキオ。こんなキオを見るのは初めてだ。口調まで変わっている。

「そ、それでは。情報をありがとうございました!」

「お気を付けて」

笑顔で送り出してくれる母親。

そういえば、旅の出発を見送りしてくれたシズとノヴァは元気にしているだろうか。


その頃の騎士団では

「今頃、イザベルはどこにいるんだろうな」

「さあな。なんて言ったってあの幻の不老不死の薬だからな。探すのに苦労しているんじゃないか?」

「でもさ、案外簡単に手に入ったりして」

「まさか〜」


そのまさかである。

「ここだよ」

句点(クテン)(クエン)が指差す方向には確かに薬草らしき物を売っている露店が。

「案内ありがとう。もう悪さするんじゃないぞ」

「分かってるって。じゃあねー!」

ここで少年とはお別れだ。

「やっぱり。おい、カルディア!」

「あら、キオじゃない。どうしたのよ。こんな所まで。それに女の子もいるじゃない。何々、旅行デート?」

「どうしたじゃないだろう!それにこんなデートあるか!勝手に家を出ていきやがって…と、コイツは王国騎士団のイザベルだ」

「初めまして、私はヴァルミア王国騎士団のイザベル・ルミエールと申します。キオとは不老不死の薬の材料を探す旅をしていました」

カルガモダ(カルディア)という女性はキオと同じ銀髪に赤い瞳の美女だ。どこかミステリアスな雰囲気もある。

「私はカルディアよ。キオの薬の師匠といったところね。宜しく」

カルダモン(カルディア)に今まであった事を話す。

「まあ、そうだったの。でもキオ、私は置き手紙をしていったわよ。『秘薬探しの旅に出ます』って」

「そんな手紙なかったぞ!」

「え〜、でもちゃんと書いておいたわよ」

「まるで白ヤギと黒ヤギの話みたいだな、ハハハ」

白ヤギと黒ヤギの話とは童謡の事である。


♪しろやぎさんからおてがみついた

 くろやぎさんたらよまずにたべた

 しかたがないのでおてがみかいた

 さっきのてがみのごようじなあに


という歌詞である。

「誰が手紙を食うか!ヤギなんて…」

いた。飼っているヤギが一匹。

「「もしかしてメルが食べた!?」」

メルとは飼っているヤギの名前だ。二人は揃って叫ぶ。本当にそんな事あるんだな。

「まあまあ、良いではないか。こうやって会えて誤解も解けた」

「「…」」

一人納得しているイザベル。だが、二人は何とも言い難い表情をしている。それもそうだ。置き手紙をヤギに食べられたとも知らずに家出したと勘違いして遥々(はるばる)ここまで探しに来たのだから。もう「とっちめる」理由もない。

「ま、まあ、これで良いわよね。ところでイザベルちゃんのお望みはこのサンジーバニーブーィよね?」

「そうです」

「そうね。キオのお友達だから…割引き価格で金貨3枚でどう?」

「ボッタクリだ!」

キオが突っ込む。

「やあねえ、ボッタクリだなんて。何といったってこれは伝説級のサンジーバニーブーィなのよ。本当は金貨4枚なんだから。採るのに苦労したのよー」

「いいや、金貨2枚くらいだろう。お前なら千里眼の魔眼持ちなんだからすぐに見つけられたはずだ」

「もう、『お前』と呼ぶなんて。昔は『カルディア、カルディア』って可愛かったのに。ママはそんな子に育てた覚えはありません!」

頬を可愛らしく膨らませるカルディア。

「今は昔の事なんてどうでもいいだろう!それに、そんな顔しても騙されないからな」

「チッ」

今、舌打ちしなかったか?やはりボッタクリだったのか!

「仕方ない。金貨3枚払うなら残りの薬草を探すのも手伝ってあげる。アグラフォーティスでしょう?」

「よく分かったな」

「ここまで来たら残りはそれしかないわ。そんなのお見通しよ」

さすが千里眼の魔眼持ち。でも置き手紙をヤギが食べるところまでは見通せなかったか。

「誰でも分かるわ!」

キレるキオ。でもここは払うしかない。

「分かりました」

「おい、良いのか!?」

「これ以上、お年寄り…キオに負担を掛けたくない」

「良い子じゃない」

「コイツ今、年寄りって言ったぞ」

「お願いします」

「承ったわ」

「おい!俺を無視して勝手に二人で話を進めるなー!」

キオの抗議も虚しく、カルディアも旅に加わる事になった。

それからが速かった。

何とカルディアは転移魔法を使い、一気に(アブラ)(ホウ)ニスル(アグラフォーティス)のある草原まで飛ばしてくれただけでなく千里眼を使って探してくれた。金にがめついと聞いていたが対価分の仕事はしてくれる。そしてアラフォーデス(アグラフォーティス)は魔除け・発熱に効くのハーブらしい。

「ハア…ハア…これで、全部、揃ったわね…。調合はキオに、任せるわ」

どうやら転移魔法と魔眼は大きく魔力を使うので息切れをしている、老人2号(失礼)。

「これが。ありがとうございます!」

「おい、どうした?」

「え?」

気付いたら涙が溢れていた。

「あれ?何でだろう」

自分でも分からない。嬉しいのか、それとも旅が終わってしまう寂しさか。色々な感情が混ざり合っているようだ。

「良く頑張った」

カルディアがキオとイザベルを抱き寄せる。

「は、離せ!」

照れるキオ。顔が赤い。

「それなら今日はお祝いね!豪華にパーっと行きましょう。ここはお姉様に任せなさい」

「イザベルから巻き上げた金だろうが。それにお姉様じゃなくてババア…」

ポカンッ!

「可愛くないわね。自分だってジジイじゃない」

キオの頭を殴る。

「それはお前がそうしたんだろう!俺を実験台にして…」

「違う」

「違くない」

悲しげな表情のカルディア。

「アンタ、あの森で私が見付けたとき息してなかったの。死にかけてたのよ。だから薬を飲ませた」

「でも不老不死の薬をのませる必要なんてなかっただろう!?」

「それは…悪いと思ってる。隠してたけど私、この歳で産めない体だから子供が欲しかったの。それにずっと一緒にいてくれる存在が欲しかった。今まで私のワガママで苦しめてたのね。ごめんなさい」

頭を下げるカルディア。

何とも言えない気持ちになる。それはキオも同じだろう。

「フンッ!しおらしいお前なんて気持ち悪い。さあ、とっとと飯屋に行くぞ!」

「ああ、待ってよキオ!」

先を行く二人の背中を見つめる。本当の親子みたいだ。自分も母に会いたくなった。

「行くぞ、イザベル!」

「イザベルちゃん、速く速く!」

「今、行く!」

その日は今までの旅で一番豪勢で楽しい夕食となった。


「薬、調合できたぞ」

「本当か!?」

待ちに待っていた不老不死の薬。これを持ち帰れば任務遂行だ!

「ねえねえ、イザベルちゃん」

「何ですか?」

「私達もお城に着いて行っても良いかしら?」

私達(・・)って事は俺もか!?」

「そう!ここまで来たら一蓮托生。一緒に来なさい。命令よ」

「命令な…モゴ」

口を塞がれるキオ。

「城に、二人をですか?」

「そう。面白そうだから」

面白い?

「普通の城ですよ?」

「良いの、良いの。それにお願い聞いてくれればサクッと転移魔法でお城まで行けちゃうわよ!」

「それならお願いします。先に帰る旨を宰相に伝えておきますね」

「宜しく〜」

楽しそうなマルティア(カルディア)。何がそんなに面白いのだろう?疑問に思いながらも手紙を飛脚に頼んだ。何故、転移魔法があるのに飛脚にしたかって?それは老人2号の魔力が回復していないからだ。それに酔っ払いになっている。さすがに任せられない。その日は宿を取り、就寝した。


一週間後、早馬で返事が届いた。手紙を開くと国王との謁見が二日後で二人の魔法使いも呼んで良いと書かれている。もしかしたら今城に仕える魔導師が少ないので取り込もうとしているのかもしれない。あの宰相ならやりかねない。手紙の内容を二人に伝えるとギャルディア(カルディア)は喜び、キオは面倒くさそうな顔をしていた。

「そうと決まればオシャレをしなくちゃ」

洋品店に行き、シャンデリア(カルディア)は張りきってドレスを選ぶ。

「これも良いわね。それも素敵!」

選ぶ物はどれも派手な装飾の物ばかり。

「こうなるから嫌だったんだ」

無理矢理連れてこられたキオ。

「そんな事言わずにアンタも選びなさい!」

「俺ならこの格好で充分だ」

「ダメよ!そんな事言うから女の子にモテないのよ」

「結構だ。魔物のメス達に言い寄られていて困っているから人間にも好意を持たれると思うと面倒な事この上ない」

そんなにモテていたのか!確かに顔は整っている。薬屋の客にメスが多かったのはそれが原因だったか。納得だ。

「ほら、イザベルちゃんも選びなさい」

「私は騎士なので制服を着ていないと城に入れません」

「そうなのね…残念。でも持っていても損はないわ。それにこれから必要だしね」

ウインクするカルディア。

これから?

「さあさあ、選びましょう。私、女の子も欲しかったのよ。こうやってオシャレな服を二人で探すのが夢だったの〜」

そう言われてしまっては断れない。

二人で選ぶ事、数十分。キオはもう既に飽きていた。

「すみませーん。これ全部下さーい!」

私とキオの服を含め、山盛りになっているドレス。これを全部買うのか!?

「ありがとうございますぅ〜」

「ここで着替えても良いかしら?」

「「ここで!?」」

「どうぞ、どうぞ!」

満面の笑顔の店員。それもそうだろう。こんな太客、滅多にいない。

「俺はいい…」

「良いから、良いから」

無理矢理、試着室に押し込む。

「ありがとうございました〜」

結局、私とキオは着替えて荷物持ちになった。

「お、重い…」

「男だろう。このくらいで音を上げるとは情けない」

「お前の力がおかしいんだよ」

「同期のシズとノヴァもこれくらい簡単に運べるぞ?」

「他にもバケモノがいるのか…」

「む。『バケモノ』という名前ではない。シズとノヴァだ」

「お前じゃないから間違えはしない。それにしてもよく同期の名前は覚えているんだな」

「ああ、シズとノヴァはニックネームだ。本当の名前はええと…チーズ?違うシーズ!と(ノボ)リアル?そうそう、ノヴァリエルだ!」

「同期が可哀想になってきた…」

見知らぬイザベルの同期に同情するキオ。

「さあ、着いた。今日はここで昼食にしましょう」

一件のレストランの前で止まる。

「ここ!?」

そこは高級レストラン。

そうなるとドレスコードがある。その為のドレス選びだったのか。

「いらっしゃいませ」

大衆食堂とは違いきらびやかな世界。目が回りそうだ。

「こちらへどうぞ」

カチコチと動くイザベル。

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

「それはカルディアだから慣れているだろうけどこのサルはこんな所入った事ないだろう」

「あら、そうなの?」

「家ではある程度のマナーは学びましたがこういう所は初めてで…」

「大丈夫よ。お姉様が教えてあげるから」

そう言ってくれたがもういっぱいいっぱいで味が分からなかった。

「夜は居酒屋にしましょう」

「すみません」

そうして一日が過ぎていった。訓練より疲れたかもしれない…。


翌朝、眠い目を擦りながら準備をする。

泊まったのは庶民的な宿ではなく高級なホテルの為、布団がふかふかで部屋も広くテンションが上がって眠れなかった。

「おはよう、イザベルちゃん」

今日もバッチリ決めているメルシー(カルディア)姉さん。もう名前もぶっ飛ぶほどの派手さ。

「遅いぞ、バカザル」

キオに至ってはモーニングコーヒーを楽しんでいる。このハゲキオめ。

「さあ、お城に出発よ。転移魔法・レーデル!」

(まばゆ)い光に包まれたと思ったらそこはもうそこは城の中だった。

「すごい!」

「でしょう。フフン」

自慢げなカルディア。

「さて、謁見の間はどちらだったかしら?」

「案内します!」

皆、派手なカルディアに注目している。

目線の痛さを感じつつ謁見の間に着く。

「こちらです。イザベル・ルミエール、入ります」

ギィィィ。

重厚な扉が開く。

「良くぞ、戻ってきた。褒めて遣わす」

「はっ!ありがたきお言葉」

「して、そちらの二人が手紙にあった魔法使いか」

「そうでございます」

「面を上げよ」

「お初にお目に掛かります。ハルキオと申します」

「初めまして…いえ、お久しぶりです、国王。カルディア・フェデラーです。大きくなられましたね、ファシリス王子」

ニヤリと笑うカルディア。赤い口紅が良く映える。

そんな苗字だったのか!?いや、今はそこじゃない。国王と知り合い!?

「カルディア…?まさかあのカルディアか!姿が変わってはおらんではないか」

急に怯えだす国王。

「ええ、そうですよ。カルディアです。お会いしたくて城に戻ってきました」

「魔物の森に追放したはずでは…」

「はい。酷いではないですか。あのような魔物だらけの所に追いやるなんて」

「それはそなたが反乱を起こそうとしたからと父上が…」

「反乱など。ただ私は『禁書庫を拝見したい』とお願いしただけ。それなのに城を追い出されるとは思いもしませんでしたよ」

()一級魔導師長カルディア・ロー・フェデラー。

ヴァルミア王国でただ一人、最高位である「ロー」の名を与えられた魔導師。魔法だけではなく薬学にも秀でた天才で、周囲から厚い信頼を得ていた。

その優秀さで現国王の魔法の教師をしていたのだ。

「それにしても『不老不死の薬』を手に入れてこいなどと無理難題を…。本当は任務中の事故に見せかけて消そうとしたのではないのですか?その娘の父親もそうですね。邪魔になったから魔物使いを雇い、襲わせた。そうではないですか?」

「無礼な!口を慎め、魔女」

「失礼致しました」

カルディアを睨む国王。どうやら図星のようだ。

「それで不老不死の薬は?」

代わりに宰相が聞く。

「ここに」

イザベルが懐から取りだす。

「これが?証拠はあるのか」

「私がその証拠です。髪色は変わりましたが外見はあの頃のまま。この男も不老不死です」

「た、確かに変わらない…」

「それだけでは分かりませんよ、国王陛下。おい、そこの近衛兵。そこの騎士を殺せ」

何!?

「何故ですか!」

声を上げるイザベル。

「お前で本当に不老不死になるか試す為だ」

そこでイザベルの前にカルディアが庇うように出る。

「お待ちを。それならこの男で試しましょう。イザベルから話を聞いて証明の為に奴隷を連れてきました」

「何を言っている!?」

「さあ、殺してみるがいい!」

宰相を煽るキオ。

「やれ!」

「キオ!!」

剣を抜いて止めようとしたが遅かった。

槍で一刺しにされるキオ。

「グフッ!」

口から血が溢れ倒れる。

「キオ!キオ!今、薬を出す。飲め」

薬と水をキオの口に流し込む。

するとキオはスッと立ち上がる。

「どうです。元気でしょう?傷も塞がっています」

そう言って刺された腹を見せるキオ。

「…誠か」

「どうです?これで証明できたでしょう。私は老いない、彼は死なない。これが不老不死の薬の力です」

実は事前に打ち合わせをしていた。薬はただの痛み止め。カルディア特製だ。

キオを奴隷と偽って連れて行き、殺されるフリをする。そこに強力な痛み止めの薬を飲んで死なないという事を見せる。カルディアの案だ。最初、キオは嫌がっていたが(当たり前だ)私が金貨を5枚払う事と言うと飛び付いた。やはりそこはカルディアの弟子だ。

「分かった。認めよう」

「こちらを」

イザベルは国王に強力で持続的な下剤と少しだけ寿命を延ばす薬を渡す。父親と自分を巻き込んだ意趣返しだ。死ぬまで苦しむが良い。

「それで願いは叶えて頂けるのでしょうか?」

「よかろう。言ってみよ」

「ジャバル伯爵とノエール公爵の二人を裁いて頂きたい」

言えた!

「何故二人を?」

「私の父、騎士団団長を死なせた罰です」

「どこに証拠がある?」

「それなら先ほど自白しました」

「何!?」

「ここにサインの入った書類もございます」

これは前から証拠を集めていた。旅に出ている間もシズとノヴァに頼んでいたのだ。最後に剣で脅し…良く言い含め書類にサインをしてもらった。

「…分かった」

その瞬間、膝から崩れ落ちる。

やった、やりましたよ父さん!貴方の仇を取りました。これで安心して眠れます。

「それではお約束くれぐれもお忘れなきよう」

カルディアの手を借りて立ち上がるイザベル。

「失礼致します」

バタン。

「ありがとう、ありがとう二人共…」

「何言ってるの、イザベルちゃんが頑張ったからよ」

「フンッ!俺のおかげだ」

これで長い旅は幕を閉じた。


それから5年ー。

「おおい、キオ。冷え症の薬が切れてるぞ」

「分かった。補充しておく」

魔物の森「薬屋キオ」の店にはイザベルの姿が。

「それよりもナツキの飯はどこだ」

「それなら今用意する」

ナツキ。キオとイザベルの子供だ。そう、二人は結ばれた。店もカルディアが引退して遊び回る為、譲り受けたのだ。あれからイザベルは騎士団を去った。薬の正体が分かられると偽証の罪に問われ、牢獄行き。そうならない為に追われないよう魔物の住む森に越してきた。ここなら恐れて普通の人間は来ないだろう。もちろん母親も害がないように遠い地に送った。

『イザベル、傷薬あるかい?』

「ちょっと待ってな」

最近、オスのお客さんが増えた。皆、イザベル目当てだ。だが、キオが睨みを利かせている。それはイザベルも同じ。メスがキオに色目を使わないように見張っている。

「ただいまー!愛しの孫、ナツキは元気かい?」

カルディアが旅行から帰ってきた。その声でナツキが声を上げる。

「「カルディア・母上、静かにして!!」」

今日も騒がしい「薬屋キオ」。今度はどんなお客さんが来るのだろうか。

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