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死とは甘美也  作者: あゆやか
その一歩が遠くても
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確かな一歩

 日差しが眩しい。

 ゆっくりと深呼吸をする。

 玄関のドアを閉めて、周りを見渡す。

 俺は、ゆっくり、ゆっくりと歩き始めた。

 今は12時30分ぐらい。

 この時間帯はあまり人が歩いていないようだ。

 この時間に歩いていることはあまりないからか、動悸が早くなる、気分が段々悪くなる。

 周りの人の声が大きく聞こえる気がする。

 笑い声が聞こえた。

 俺のことを笑っているんじゃないか?

 そんなことない。

 分かってる。

 心が揺れる。

 このまま家に――

 頬を叩く。

 行くと決めたのは自分だ。

 止まっていた足を動かす。

 俺は今から、学校へ行く。

 そう、覚悟を決めた。


 歩きながら俺は、昔の言葉を思い出す。

「皆と同じであなたはしっかりしてるね。」

 この言葉をいわれたのは、小学校二年生のときだ。

 今俺は、皆と違うことをしている。

 そう思ったら、少しだけ気が重くなった。


 歩行者分離式の横断歩道が見えてきた。

 ここを通る度あの時を思い出す。

 白い光の中に入っていくような感覚が、頭の中でじわじわ出てくる。

 アネンに頼るのも悪くない。

 そう思いそうになる。

 けど、アネンで寂しさが埋まるわけじゃない。

 この痛みを忘れることはできない。

 頭を振り、気持ちを学校へ向ける。

 俺は、学校に行く。


 歩く度気持ちが落ち込んでくる。

 不安が強くなる。

 校門が見えてきた。

 あと、少し。

 けど、

 もし――学校の先生が話を聞いてくれなかったら?

 もし――誰も俺のことを気にしなかったら?

 そんなことを考えてしまう。

 だが、俺は歩く。


 校門の前で立ち止まった。

 少し錆び付いた金属の柵が、やけに大きく見える。

 息が苦しくなる。

 動悸がさらに早くなる。

 来たくて、来たはず。

 それなのに、もっと怖くなる。

 ――帰ろうか。

 そんな声が頭の中で響く。

 でも、それでも。

 ここまで来たんだ。

 震える手をギュッと握りしめ、覚悟を決める。

 一歩踏み出す。

 この一歩は小さい一歩かもしれない。

 でも、確かに進んだ。

 そんな一歩だ。

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